恋を諦めた人間と、人間を恋に導く天使の話
冬の街は静かだった。
ビルの谷間を抜ける風は、冷たさよりも透明さを運んでくる。
手のひらを息で温めながら歩いていた。
楽器ケースのストラップが肩に食い込み、冷たい夜気に頬が痺れる。
恋も、夢も、もう遠い。
誰かを本気で想うなんて、いつの間にか怖くなっていた。
昔に彼女がいたが、音楽活動をする上で彼女にはいろいろ負担をかけると思い、泣く泣く別れたのだ
そんな痛い経験、もうしたくない
出会いなどもう要らないだろう
_なのに。
まだ少し、誰かを好きになりたいと願っている自分がいる
すると
目の前の路地の奥に、光が降りていた。
雪よりも淡く、星よりも柔らかい光。
そしてその中に立つ一人の青年。
白い羽根が肩に落ち、黒の髪が夜に溶ける。
彼は静かにこちらを見て、微笑んだ。
m.「こんばんは、若井」
なぜ自分の名前を知っているのか。
驚くよりも先に、その声の温かさが胸を包んだ。
m.「君の願い、聞こえたんだ。“もう一度、誰かを好きになりたい”って」
その瞬間、胸の奥で何かがひとつ音を立てた。
__元貴。
彼は自分をそう名乗った。
恋を導くために、人間界へと降りた天使だという。
m.「君に恋を教えるために、僕はここにいるんだよ」
w.「……恋なんて、もう信じられないよ」
m.「じゃあ、信じられるようにしてあげる」
そんな詩的な会話に可笑しさを感じながらも、ふわりとした空気感が心を撫でる
元貴は優しく笑い、指先で俺の頬をなぞった。
その手が触れた場所が、ゆっくりと温まっていく。
数日が過ぎるうちに、元貴はいつの間にか日常に溶け込んでいた。
朝のコーヒーの香り。
街の喧騒の中の笑い声。
そのすべてに、彼の存在が混じっていた。
音を重ねるように、心が少しずつ調律されていく。
そんな日々が、寒いはずなのにぽかぽかする
ある夜、ベランダで元貴はふと空を見上げて言った。
m.「僕ね、本当は人間を好きになっちゃいけないんだ」
m.「でもね__
俺の心を確かめるように、俺の頬を掴んで口付けを零す
m.「好きになっちゃ、ダメなんだけど」
「俺は恋に導かなきゃなのに」
w.「……じゃあ、今のは?」
俺の言葉に、元貴は微笑んだ。
m.「若井を好きになってるよ、たぶん」
沈黙。
雪のような羽根が一枚、彼の背から落ちた。
m.「これが“堕ちる”ってことなんだと思う」
元貴の声は震えていた。
それでも、次の瞬間、彼はそっと俺の唇に触れた。
温度が、伝わる。
鼓動が、混じる。
世界がひとつに溶け合うみたいだった。
朝、目を覚ますと、部屋の中に羽根が散っていた。
けれど元貴はいなかった。
窓を開けると、白い光が差し込む。
__そして。
玄関のチャイムが鳴った。
「……元貴?」
扉を開けると、そこに立っていたのは、見慣れた笑顔の青年。
けれど背中に羽はなく、瞳の色も少し違う。
m.「おはよう、若井。なんか、夢みたいな夜を見てた気がするんだよね、変な感じ」
彼は少し照れくさそうに笑った。
けれどその声も、笑い方も、あの元貴と同じだった。
そっとその手を取った。
冷たくも温かい、人間の手。
w.「……もう離さないよ」
窓の外では、雪がやさしく舞っていた。
空から落ちた羽のように、静かに、やわらかく。
俺が好きになったのは天使のような人間ではなく
美しい天使でした
コメント
2件
はーーー😿😿💗💗 儚いしえもいしもう大好物ですぞ😥💘(??