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「ちょっとした日常」

5 - アイスとかき氷どっち派!?

♥

50

2025年07月31日

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アイスとかき氷、どっち派!?






白×水







蝉の声がけたたましく響く七月の午後。

うだるような暑さの中、僕といむくんは、近所の公園のベンチに腰掛けていた。


「なあ、しょうちゃん」


突然いむくんが僕の方を見た。白いシャツの袖をまくりあげて、氷が入ったペットボトルの水を喉に流し込みながら、じっと僕を見つめてくる。


「……アイスとかき氷、どっち派?」


「は?」


あまりに唐突な質問に、思わず聞き返してしまった。


「いや、真剣な質問だよ。夏といえば、アイスか、かき氷か。どっちが好きなのかっていうのは、価値観を測るバロメーターだと思うんだよね」


「バロメーターって……そんな大げさな」


僕は苦笑しながらも、いむくんの真面目な表情に、少しだけ身を乗り出した。


「うーん……僕は、アイスかなあ」


「……っ!」


いむくんの顔が、ほんの少し曇る。


「そっか。アイス派かあ……なるほどね……」


「え、ちょっと待って。いむくんは?」


「僕は断然、かき氷派」


「そっちなんだ」


いむくんは膝の上に置いていた手をぎゅっと握りしめる。


「アイスは確かに美味しいよ? でもさ、かき氷って、一瞬で溶ける儚さがあるじゃん。あのシャリシャリっていう食感とか、舌に染みるシロップの甘さとか……なんていうか、夏の刹那って感じがして、好きなんだよね」


「なんか詩人みたいなこと言ってる……」


「バカにしてる?」


「いや、すごいなって思っただけ」


いむくんは少しふてくされたように唇を尖らせる。でも、すぐにいつもの柔らかい笑顔に戻った。


「しょうちゃんは、なんでアイス派なの?」


「んー、単純に美味しいから、かな。溶けるのは同じだけど、アイスは味が濃くて、ミルクとかチョコとか色んな種類があるし。食べごたえもあるし、あと……なんか落ち着くんだよね」


「落ち着く?」


「うん。なんか、ちゃんと甘やかしてくれるって感じがする。疲れてるときとか、泣きたいときとか、アイスって優しいじゃん」


いむくんはその言葉に少し驚いた顔をして、それから少しだけ笑った。


「……しょうちゃんって、アイスに甘えたくなるタイプだったんだ」


「うるさいな」


「でも、わかる気もする。僕がかき氷好きなのも、きっとそういうことなんだろうな。一瞬だけ、世界が冷たくなって、何もかも忘れられる感じ。暑さも、悩みも、全部シャリシャリって消えていく」


「そう言われると、かき氷もいいなあって思えてくる」


「じゃあ、試してみる?」


「なにを?」


「今日、かき氷を食べに行こうよ。しょうちゃん、アイス派からかき氷派に乗り換えるかもしれないよ?」


「そっちはどうなの? アイス食べる気あるの?」


「うーん、それは……しょうちゃんがあんまりにも幸せそうに食べてたら、考えてもいいかな」


「なにその上から目線」


僕たちは笑い合った。


蝉の声が、いつの間にか少しだけ遠く感じた。


いむくんに連れられて、僕たちは商店街の裏手にある小さな甘味処に入った。


のれんをくぐると、ひんやりとした空気と、どこか懐かしい匂いが僕たちを迎えてくれた。


「すみませーん、かき氷、二つください。いちごと、抹茶で」


いむくんが先に頼むと、僕も続いた。


「じゃあ、僕はミルクアイスで」


「え、かき氷じゃないの?」


「いや、さっき食べたくなったとは言ったけど、やっぱアイスの気分だった」


いむくんは、しばらく考えてから頷いた。


「まあ、しょうがないか。これは信仰の問題だしね」


「なんの宗教だよ」


ふたりで笑って、しばらくして注文が届いた。


目の前に置かれたアイスとかき氷。

いむくんはかき氷をスプーンですくって、一口、口に入れる。


「……あー、これこれ。やっぱ最高だ」


「いい顔するなあ」


僕もミルクアイスを口に含む。

濃厚で、甘くて、冷たくて。どこかほっとする味だった。


「ほら、食べてみなよ。しょうちゃんも」


「いむくんも、こっち食べてみなよ」


お互いのスプーンを差し出して、少しだけためらってから、口に運ぶ。


「……おお」


「……あれ、意外と……」


互いに顔を見合わせて笑った。


「これ、交渉成立?」


「かもしれないね」


いむくんは、テーブルの下で僕の膝に足を軽くぶつけてきた。


「しょうちゃん」


「ん?」


「……来年も、同じことで言い合いたいな。アイスとかき氷、どっち派?って」


「……うん。ずっと、言い合ってたい」


小さな甘味処で、僕たちはそれぞれの冷たい甘さを口にしながら、夏の一日をゆっくりと味わっていた。


もしかすると、それは一生続く対立かもしれないし、

あるいは、そのうち「両方食べればよくない?」って笑い合う日が来るのかもしれない。


でも、それも全部、僕はいむくんと一緒がいい。


どっち派かなんて、きっと問題じゃないんだ。


「しょうちゃん、今日もありがとう」


「こっちこそ」


蝉の声がまた近づいてきた気がした。


夏はまだ、これからだ。



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コメント

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私はどっちも好き((((

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