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アイスとかき氷、どっち派!?
白×水
蝉の声がけたたましく響く七月の午後。
うだるような暑さの中、僕といむくんは、近所の公園のベンチに腰掛けていた。
「なあ、しょうちゃん」
突然いむくんが僕の方を見た。白いシャツの袖をまくりあげて、氷が入ったペットボトルの水を喉に流し込みながら、じっと僕を見つめてくる。
「……アイスとかき氷、どっち派?」
「は?」
あまりに唐突な質問に、思わず聞き返してしまった。
「いや、真剣な質問だよ。夏といえば、アイスか、かき氷か。どっちが好きなのかっていうのは、価値観を測るバロメーターだと思うんだよね」
「バロメーターって……そんな大げさな」
僕は苦笑しながらも、いむくんの真面目な表情に、少しだけ身を乗り出した。
「うーん……僕は、アイスかなあ」
「……っ!」
いむくんの顔が、ほんの少し曇る。
「そっか。アイス派かあ……なるほどね……」
「え、ちょっと待って。いむくんは?」
「僕は断然、かき氷派」
「そっちなんだ」
いむくんは膝の上に置いていた手をぎゅっと握りしめる。
「アイスは確かに美味しいよ? でもさ、かき氷って、一瞬で溶ける儚さがあるじゃん。あのシャリシャリっていう食感とか、舌に染みるシロップの甘さとか……なんていうか、夏の刹那って感じがして、好きなんだよね」
「なんか詩人みたいなこと言ってる……」
「バカにしてる?」
「いや、すごいなって思っただけ」
いむくんは少しふてくされたように唇を尖らせる。でも、すぐにいつもの柔らかい笑顔に戻った。
「しょうちゃんは、なんでアイス派なの?」
「んー、単純に美味しいから、かな。溶けるのは同じだけど、アイスは味が濃くて、ミルクとかチョコとか色んな種類があるし。食べごたえもあるし、あと……なんか落ち着くんだよね」
「落ち着く?」
「うん。なんか、ちゃんと甘やかしてくれるって感じがする。疲れてるときとか、泣きたいときとか、アイスって優しいじゃん」
いむくんはその言葉に少し驚いた顔をして、それから少しだけ笑った。
「……しょうちゃんって、アイスに甘えたくなるタイプだったんだ」
「うるさいな」
「でも、わかる気もする。僕がかき氷好きなのも、きっとそういうことなんだろうな。一瞬だけ、世界が冷たくなって、何もかも忘れられる感じ。暑さも、悩みも、全部シャリシャリって消えていく」
「そう言われると、かき氷もいいなあって思えてくる」
「じゃあ、試してみる?」
「なにを?」
「今日、かき氷を食べに行こうよ。しょうちゃん、アイス派からかき氷派に乗り換えるかもしれないよ?」
「そっちはどうなの? アイス食べる気あるの?」
「うーん、それは……しょうちゃんがあんまりにも幸せそうに食べてたら、考えてもいいかな」
「なにその上から目線」
僕たちは笑い合った。
蝉の声が、いつの間にか少しだけ遠く感じた。
いむくんに連れられて、僕たちは商店街の裏手にある小さな甘味処に入った。
のれんをくぐると、ひんやりとした空気と、どこか懐かしい匂いが僕たちを迎えてくれた。
「すみませーん、かき氷、二つください。いちごと、抹茶で」
いむくんが先に頼むと、僕も続いた。
「じゃあ、僕はミルクアイスで」
「え、かき氷じゃないの?」
「いや、さっき食べたくなったとは言ったけど、やっぱアイスの気分だった」
いむくんは、しばらく考えてから頷いた。
「まあ、しょうがないか。これは信仰の問題だしね」
「なんの宗教だよ」
ふたりで笑って、しばらくして注文が届いた。
目の前に置かれたアイスとかき氷。
いむくんはかき氷をスプーンですくって、一口、口に入れる。
「……あー、これこれ。やっぱ最高だ」
「いい顔するなあ」
僕もミルクアイスを口に含む。
濃厚で、甘くて、冷たくて。どこかほっとする味だった。
「ほら、食べてみなよ。しょうちゃんも」
「いむくんも、こっち食べてみなよ」
お互いのスプーンを差し出して、少しだけためらってから、口に運ぶ。
「……おお」
「……あれ、意外と……」
互いに顔を見合わせて笑った。
「これ、交渉成立?」
「かもしれないね」
いむくんは、テーブルの下で僕の膝に足を軽くぶつけてきた。
「しょうちゃん」
「ん?」
「……来年も、同じことで言い合いたいな。アイスとかき氷、どっち派?って」
「……うん。ずっと、言い合ってたい」
小さな甘味処で、僕たちはそれぞれの冷たい甘さを口にしながら、夏の一日をゆっくりと味わっていた。
もしかすると、それは一生続く対立かもしれないし、
あるいは、そのうち「両方食べればよくない?」って笑い合う日が来るのかもしれない。
でも、それも全部、僕はいむくんと一緒がいい。
どっち派かなんて、きっと問題じゃないんだ。
「しょうちゃん、今日もありがとう」
「こっちこそ」
蝉の声がまた近づいてきた気がした。
夏はまだ、これからだ。
コメント
5件
私はどっちも好き((((
待って青い(????? 爽やかな小説ですわ