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私がその腕を見つけたのは、偶然なんかではなく、友人からそんな話を聞いたからなのです。
確か最初は肝試しだかなんだかで、百物語でもしようではないかと、夏の暑さを和らげるよくある事でした。
順番よく話をしていって、友人がこんな話をしたのです。
「反物屋の向かいに路地があるだろう?そう、かんざし屋の隣の小さい細っこい路地さ。あの暗くじめじめしたような路地に入って、右、左、右、右と、とにかく塀に書かれている通りに歩くのさ。塀のどこかに書かれているものだよ。
するとどうだい、だいぶ広い所に出るそうだ。その広場のちょうど真ん中にな、腕が埋まっているんだ。細っこいおなごの腕さ。爪なんか紅を塗っていてとにかく綺麗だそうだ。
死体が埋まってるなんて思って近付くとこれが話すんだ。「もし、おまえさま」ってな。
「かれこれどれくらいここに居るか。人が通るのは久しぶり。どうかほんの少し話し相手になってはくれませぬか?」そう言うわりにはほんに綺麗な腕で、鈴の鳴るような軽い声だそうだ。そうして話し相手になっちまうともうおしめぇよ。数ヶ月のうちに死んで、この腕同じように埋まるんだそうだ 」
何を馬鹿な話を、と皆で笑いました。それほど怖く、美しい話だったのです。
私は惹かれました。見てみたいと思ったのです。
そうしてかんざし屋の隣の小さな路地に入って行ったのです。塀に書かれているという目印は見つけられない時もありました。それでも進むと次は目印がある。なんとも不思議な心地でした。
そうして私はその腕を見つけたのです。
えぇ、話し相手になりました。
頬がこけてきたでしょう。もう長くはないのです。いえ、お気を遣わずとも自分でわかるものです。
でもね、私は幸せなんですよ。あんな綺麗な声は聞いたことがない。あんな綺麗な腕は見たことがない。本当に。
聞いた通りの細っこい腕でね、爪に紅を塗っていてね。いや、本当に綺麗でね。本当に言うんですよ。
「もし、おまえさま」ってね。
これがね、思わず答えてしまうような声でね。いや、本当に。私はね、見てみたいとは思ったのですよ。でもね、答えまいと。どれほど恐ろしいことかと、答えまいとしていたのですよ。
それでもね、言ってしまったんですよ。
「なんだね?」と。
そしたらおしまいです。友人が言った通りにね。あの声に「どうか」と言われたら断れません。毎晩毎晩、話を聞きに行きました。楽しいこと楽しいこと。声がね、飽きない話を沢山してくれるんですよ。毎晩違う話でね。でも、次の日には忘れてしまう。けれど不思議とこんなことは覚えてる。
ねぇ、おまえさん。
私の腕は綺麗ですかね?
腕:END