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「もう心臓爆発しそうーーーー!!!!」
「ちょ、一旦落ち着こう、ね?」
昼休み、小春は私の机を両手で叩く。
だけど、ソフトに。
昨日の帰りと、おまけに今日の朝の出来事も話し終えた小春は顔が真っ赤で、パンク目前だった。
「けど凄いじゃん、朝は自分から誘ったんでしょ?」
「めっっっっちゃ緊張した!!まぁ、流石に2人きりではなかったんだけど。」
「少しは仲良くなれた?」
「うん、なれた気がする!ほんとに少し…だけど。」
私は照れくさそうに手をいじる小春の頭を偉い偉いと撫でた。
「えへへっ、あのね、孤爪くんはアップルパイが好きなんだって〜!なんか意外でびっくりしちゃった!」
楽しそうに孤爪くんの話をする小春。
少し心がズキっとするのを感じた。
孤爪くん、アップルパイ好きなんだ。可愛いな。
私はハッと我に返り頭に浮かんだもやもやを素早く揉み消した。
小春の話す言葉に、私は平然と返す。
「あ〜、なんか夢みたいに幸せだったよ〜。」
惚気けながら話す小春。
そっか、小春は今幸せなのか。
この笑顔が見れて、嬉しいんだ。
そう考えてから、私は口を開く。
「孤爪くんもこんな可愛い子と隣歩けて、幸せだと思うよ。」
「ええ、!そんなこと…ないよ…。」
私の言葉に、小春は困ったように眉を下げる。
小春は謙虚だからそういうことを言われてもあまり信じない。
「だって私が幸せだもん。」
だから小春にはこうやって付け足しをする。
「えっ!?んーもー、そんなの私が1番知ってる!!私が××を幸せにしてるんだから!」
小春はプクーと頬を膨らませて拗ねるようにそっぽ向いた。
「でしょ?だから孤爪くんも幸せなんじゃないかな〜って。」
私は自分で言う言葉にどんどん痛みを感じながらも小春の前では平然を偽る。
「ん、んん、、。」
こう言われると小春は弱い。
何も言い出せなくなり、うつ伏せになり顔を隠した。
私は小春をからかうように笑ったそのとき、私の視線が自然と教室の扉に流れた。
ずっと気にせず、無視し続けていた心臓の音が、大きく音を立てた。
私に意識させるように、はっきりと。
うちのクラスを通り過ぎる、孤爪くんがいた。
隣には黒尾先輩が紙パックのジュースを飲みながら歩いている。
「んっ?どうしたの?」
いつの間にか顔を上げて私を見ていた小春は、つられたように廊下のほうを見た。
その声が聞こえたのか、黒尾先輩がこちらに気づき、孤爪くんの肩を掴んで扉の前で止まった。
孤爪くんがこちらを振り向く。
私は急いで視線を逸らす。
小春は隣で真っ赤になって固まっている。
どんどんどん心臓の音が早くなる。
もう気にせずにはいられない。
「おーい、小春ちゃ〜ん、××ちゃ___」
黒尾先輩が私の名を呼ぶ瞬間勢い良く席からたった。
「えっ!?何!?」
小春は固まっていた体をビクッと動かした。
「あ、えっとー、あー!次の授業の課題忘れてた!」
私は咄嗟にそう言った。
孤爪くん達の方をちらっと見ると不思議そうな顔をして私たちのやり取りを聞いていた。
「え、課題___」
「広瀬くんに頼んでくる。小春、がんばれ。」
「え?ちょっと××〜!?」
私は焦っていたせいもあって少し早口で小春に告げた。
机から現文のノートを取り出し、逃げるように広瀬くんの席へ行った。
「ひ、広瀬くん!」
「おっ、びっくりした。どうしたんですか○○さん、そんな慌てて。」
広瀬くんは目を真ん丸にして書く手を止めた。
そりゃ驚きますよね。
よく見ると、さっきの授業の復習をしている。
流石すぎます。
「あ、その、ごめんね復習の邪魔しちゃって。えっと、次の授業の課題、忘れちゃって。その、教えてください!」
私はなんだか背後から視線を感じ、冷や汗混じりにノートを出した。
「珍しいですね、○○さんが課題を忘れるなんて。」
「ええーそうかな、?昨日疲れてすぐ寝ちゃったんだよね〜。」
焦りに焦りまくり、いつもと違う話し方をする自分。
「いいですよ。けど、僕なんかに教わらなくても平気なのでは?」
そんな私を何も気にする様子はなく、広瀬くんはカバンからノートと教科書を取り出した。
「あ、あはは、昨日の授業、居眠りしちゃって。」
「ますます珍しいですね。」
私は苦笑いで前の席の椅子を半回転させて、広瀬くんと向かい合わせに座った。
けど座った時しまったと思った。
この位置だと孤爪くんたちが丸見えだということに。
チラッとノートを開きながら扉の方を見ると、小春は黒尾先輩と話していた。
孤爪くんはそれを隣で聞いていたが、一瞬こちらに視線を向けた。
確実と言っていいほどにバチッと目が合い、胸がドキッと跳ねる。
私は慌てて目を逸らした。
「67ページです。時間もありませんし、僕のノートみてもいいですよ。簡単に解説もするので。」
「ほんとにありがとうございます。恐れ入ります。」
私は奥の方からただならぬオーラを感じながら少々震える手で広瀬くんのノートを写させてもらった。
斜め前を見ると気が滅入ってしまうので出来るだけ見ないようにする。
私がノートを写すスピードに合わせて広瀬くんは丁寧に解説してくれた。
これがすんなり頭に入る。
写してる間、広瀬くんは長い指で教科書の文を追いながら解説をする。
綺麗な指、大きくて、まるでマジシャンの手みたいだった。
「××〜!」
私は一瞬で背筋が凍った。
恐る恐る顔を上げると、扉のところで小春がおーいと私を呼んでいた。
その後ろでは黒尾先輩が扉に肘をついて小春をまるで娘を見るような顔で見下ろしている。
孤爪くんは…小春の横でどう見ても私を凝視していた。
見られているという事実に、心臓がバクバクする。
私は孤爪くんと目を合わせないように、小春だけに視線を集中させた。
「もうすぐ授業始まるから教室戻るね〜!また放課後〜!」
「放課後よろしくな〜!」
「あ、はーい、…へっ?」
小春はそう言いながら手を振ったが、その後すぐに黒尾先輩が手を振りながらそんなことを言ったことに思わず声を上げる。
3人は教室に戻って行った。
私は孤爪くんの顔が完全に見えなくなるまで視線を彼に向けることは無かった。
ん、なになに?
放課後よろしくね、とは。
「○○さん、もうチャイムはなりますが、写し終わりましたか?」
「えっ!?あ、うん!大丈夫、バッチリ!ほんとに助かったよ、ありがとう!」
「あ、うん、?どういたしまして。」
さすがにおかしいと思ったのか少し困ったような返事をする広瀬くん。
今私はそれ以上に困惑しているだろう。
広瀬くんにもう一度お礼を言って椅子を戻し、自分の席についた。
授業開始のチャイムと同時に先生が入ってくる。
私は考える。
よろしくってなんだ。
私は黒尾先輩に何をさせられる、?
それに対して小春はなぜ何も言わなかった、?
そのよろしくに、孤爪くんは関係があるのか、?
黒尾先輩のあの不敵な笑みは、一体何、?
私はぐるぐるぐるぐると思考を巡らせた。
けど今は何を考えても、真っ白な頭に明確な答えは出てこなかった。
「んじゃー、○○、ここなん段落だ?」
先生にそう質問されて、私は自分が全く授業を聞いてなかったことに気づく。
私はこのページかも怪しい教科書と、真っ白なノートをぐるぐる回しみたが、全くもって何の話だか分からない。
「ん、聞こえなかったかね、?この問6、どこの段落を表している?」
いや、聞こえてはいる。シンプルに解けない。
聞いていないから。
私は困り果てて目をキョロキョロ泳がしてしまう。
すると斜め奥の広瀬くんの机に目がいく。
広瀬くんは前を向きながら私に見える角度で手を1と0にして表していた。
気づきやすいようにか、少し横に揺らしながら。
「えっと、10、です。」
「10” 段落 ”ね。はい正解。」
私は深呼吸して、落ち着いたところで広瀬くんをもう一度見る。
今度は親指を立ててGoodという形で伝言された。
しばらくそうした後、広瀬くんは板書を続けた。
私はずっとロボットだと思っていた広瀬くんを、今は救いの神とまで思っている。
このままいくと、来週も広瀬くんにお世話になってもらいそうだった。