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結局何も分からずじまいで2限分の授業が終わった。
この2限分の授業で3回も広瀬くんに助けられてしまった。
広瀬くんはカバンをもって教室から出るところだった。
私も慌ててカバンを持ち小走りで広瀬くんを追いかけた。
長い足でスタスタ歩く広瀬くんに追いついたのは教室を出てしばらく歩いたところだった。
「広瀬くん!」
広瀬くんはその場で立ち止まり流れるように私の方に体を向けた。
「○○さん。どうしましたか?」
「今日はほんとにありがとう。沢山助けていただいて…。」
「気づけてもらえて良かったです。けど、大丈夫ですか?」
「え?」
広瀬くんは心配そうな顔で言う。
「最近元気がないように見えて、体調、良くありませんか?」
顔を少しかたむけて私の視線が広瀬くんに合いやすいように調節してくれた。
その時、広瀬くんのサラサラの前髪が揺れ、メガネはカチッと小さな音を出した。
最近、やっと関わりが増えた広瀬くんでさえ気づくくらい、私は自分を見失っていたんだ。
確かに最近、寝つきが悪い日が多かった。
夜、1人の部屋で長い時間、深く考えてしまうようになってから。
知らぬ間に目の下にくまでもできてたのかもしれない。
私は気の抜けた声で「大丈夫、なんともないよ。」といった。
広瀬くんは納得いかない表情を見せたが、「そうですか。」と体制を元に戻した。
「けど、困ったことがあったらいつでも言ってくださいね。僕でよければ、相談に乗りますので。」
体育の時と同じ、優しくて、暖かい笑顔で広瀬くんはそう言った。
小春以外にこうやって言われたのは初めてだった。
小春はいつも「何かあればすぐ相談すること!」と言っていた。
けど今は、絶対に小春には相談できない悩みを抱えている。
だから、小春以外の誰かに、安心できる誰かに聞いて欲しかった。
「ありがとう、広瀬くん。」
私は半分泣きそうな顔だったけど微笑みながら広瀬くんにそう言った。
広瀬くんは一瞬目を丸くしたあと「はい。」と頷いた。
「あ、いたいたー、××!」
安心していたのも束の間、後ろから私の呼ぶ声がし、心臓と肩が跳ねる。
広瀬くんは私から目線を外し、私の後ろに向けた。
私も恐る恐る後ろをむく。
「びっくりした〜、カバンないから帰っちゃったと思った!」
小春は安心したように私を見た。
「葵!よっ!」
「あ、こんにちは…先輩。」
後ろには広瀬くん、小春の隣には黒尾先輩と、夜久先輩、孤爪くんがいた。
「え、あえ、?」
私は状況が読めずキョロキョロ目が泳いでしまう。
「さ!早く行こ〜!私もう、ウキウキ止まんないよー!」
私の手を優しく引っ張りながらそう言う小春。
「え、待って、行くって、どこに、?」
「えー!忘れちゃったの〜!?××が行こうって言ったのに〜!」
小春はプクーと頬を膨らませ怒ったように言う。
「カラオケ!一緒に行こうって言ったじゃん!私昨日からずっと楽しみにしてたんだから!」
私はハッと思考が一気に巡った。
そうか、昨日の昼に小春と約束していたんだ。
すっかり抜けてしまっていた。
「あ、あー、カラ…オケ…ね、?」
一瞬流れるように孤爪くんに視線を向けると心臓がまたドキンと跳ねた。
なんだかいつもより私を見る目が鋭い。
なんか昼と同じオーラが見える気がするし。
私はまた目が泳ぎに泳ぎまくる。
泳ぎながらも黒尾先輩の顔が目に入ると私は思い出す。
「え、じゃあ” よろしく ”って…。」
「なー葵〜!お前もカラオケ行かねー?」
「カラオケ、ですか?いや僕は…。」
「いーじゃんかー!俺らの仲だろ〜??」
「えっ、僕達、仲良くなりましたか?」
「ひでー!ってかお前もっと縮めよこんにゃろ!」
いつの間にか私の後ろにいた夜久先輩は、少し背伸びをしながら広瀬くんの肩に腕を回し、広瀬くんは前かがみになって困りながらも「分かりましたから離してくださいっ。」とOKを出した。
「あのね、カラオケ、孤爪くんたちも誘ったのっ!えへへ!」
小春は黒尾先輩と孤爪くんに背を向けたまま私に顔を近づけ小声でそう囁いた。
ん、待って待って待って。
「え、というと…。」
私はもう考えるのをやめたいぐらいに情報がパンパンだった。
「んじゃ行こーぜー。金曜だから混んじまう。」
「はい!行こ××!」
力が上手く入らない。
私は小春に手を引っ張られるがまま歩き出した。
私の脳内は『嫌な予感』というワードで埋め尽くされていた。
「えっとー6人で。」
「かしこまりました。」
私の前には、小春と黒尾先輩が店員さんと話す光景が広がっている。
小春はお父さんの会計姿を見る子供のように黒尾先輩の隣でぴょんぴょんはねていた。
あっという間にカラオケについてしまった。
私の足取りはほんとに重かった。
小春と孤爪くんと私が同じ空間にいる状況はこの間の昼食以来だ。
そして私が孤爪くんと話すのは、あの時の体育以来。
思い出すだけでにやけてしまいそうなぐらいだった。
けどその時の幸せは、その時自分の一生取り出せないほど奥底へと押し込んだ。
私は小春を応援すると決めたんだ。
孤爪くんとは話さない。関わらない。
今日は黒尾先輩だけじゃない。
広瀬くんも夜久先輩もいる。
私はこの場にいる誰にもバレないように深呼吸をした。
「わ〜なんか久しぶりだな〜!」
小春は部屋の扉を開け中に入り、画面の前で立ちながら言う。
私は1番最後に部屋に入り、扉を閉めた。
孤爪くんは1番奥の席にそそくさ座りスマホを触っていた。
黒尾先輩は小春のところに行き、画面を覗いている。
夜久先輩と広瀬くんは話しながら孤爪くんの隣を無意識に空けて座った。
既に第1の課題に突入していた。
私は孤爪くんの隣に空いた2人分の空間を見る。
そう、第1の課題はあそこに小春と黒尾先輩を座らせることだ。
あわよくば孤爪くんの隣に小春が行くように。
そして私は1番孤爪くんから離れた位置に座ること。
私は小春と黒尾先輩ところに向かう。
早速行動に出る。
「久しぶりにカラオケ来たね〜!歌いたい曲沢山あって困っちゃうよ〜。」
曲を探しながら笑顔で私にそう話す小春。
そんな小春の耳に、私は囁くように言った。
「孤爪くんの隣空いてるよ。早くしないと黒尾先輩に取られちゃう。」
それを聞いた途端、小春はら驚いて画面からペンをはなす。
こっちに顔を向けた小春は顔がほんのり赤くなっていた。
私の顔を見たあとちらっと孤爪くんの方を見てすぐに目を逸らした小春は恥ずかしそうに唇を甘噛みした。
私は小春の背中をポンっと叩き「頑張れっ」と囁いた。
小春は小さく頷き、最後の曲を入れ終わると黒尾先輩にタッチパネルを渡し、ガチガチに体を動かしながら孤爪くんに近づいて行った。
孤爪くんはそれに気づくと、小春の顔を見るように顔を上げた。
「えっと、隣、座っていいかな。」
小春は恥ずかしそうにした可愛らしい声で孤爪くんに声をかけた。
孤爪くんは少しの間じっと小春を見つめていたが「いいよ。」と言ったのが聞こえた。
小春がこちらを向いたので私は微笑んだ。
小春は孤爪くんの隣に座った。
黒尾先輩も孤爪くんに話しかけながら自然と小春の隣に座った。
緊張からか、小春は俯きがちだったけどとりあえず第1関門突破と言ったところだった。
私は孤爪くんとは反対の端の、広瀬くんの隣に座った。
「交わす言葉の記憶遠く口元の動きに揺れ動く」〜♪
「黒尾さん、歌唱力高いですね。」
「カッコつけんな黒尾〜。」
メガネをクイッと上げながら感心する広瀬くんと、煽る夜久先輩。
孤爪くんは呆れた顔で黒尾先輩を見て小春はそれを見て笑っている。
私も黒尾先輩の歌を聴きながらメロンソーダを一口飲んだ。
カラオケ開始から15分。
今のところなんの問題もない。
「お!絶対次俺だ!って、またお前かよ黒尾!!」
「あ、多分その次は私です、。」
「えぇっー!?」
まぁ強いて言うなら小春と黒尾先輩が最初に曲を入れすぎたせいでなかなか他の人に順番が回らないことぐらいかな。
少し不貞腐れた夜久先輩をみて私はあははと苦笑いをした。
ふと、ある疑問が私の頭に入る。
「あれ、そういえば夜久先輩たち、部活お休みですか?」
私は夜久先輩に訪ねる。
「ん?あー監督とコーチが二日酔いで休んじまってんだ。昨日オフだったから結構飲んだらしい。」
けらけらと笑いながら話す先輩。
「大変ですね。二日酔いには納豆が効くそうですよ。」
どこまでも知的な広瀬くんはこの場にいないバレー部のコーチと監督にまでアドバイスをしていた。
私は広瀬くんの色んな顔を見てきたけど、やっぱり今でもロボット気質なところはあるなと笑ってしまった。
「おお、言っとくわ。」
まさかの返答に夜久先輩もさらに笑ってしまっていた。
「あ、いいこと思いついた。全員でカラオケリレーしねー?」
私たちが笑い合う中、マイクでみんなに聞こえるように提案する黒尾先輩。
夜久先輩は「はー?」と黒尾先輩を見ながら疑問を持った。
夜久先輩だけじゃない、みんなが首を傾げて?状態だ。
「ここにいんのは6だから、15通りだな。全員が全員違うペア組んでデュエットすんだよ。」
孤爪くんと広瀬くんは何となく察したようで、少し気の乗らない表情をする。
小春は「楽しそう!」と両手を叩いて賛成する。
夜久先輩は「それなら全員歌えるな!」と喜び賛成する。
「けど、全員回るとなると、結構時間がかかりますね。」
広瀬くんはみんなを見渡しながら言った。
「んー、そだなー、じゃあ1番だけで!」
「それなら丁度よさそうです。」
黒尾先輩はみんなが納得したと思ったのか、「じゃあまず俺と××ちゃんね〜。」
私は内容は理解したものの、心の準備もなく突然指名されあからさまに驚いてしまう。
「曲は俺と小春ちゃんが入れた曲の残りと、その後は俺が履歴からテキトーに入れるから、順番で回ってきた曲歌うって形で〜。」
「え、なんかそれこわいですね!けどいい案です!」
「えっ、いやちょっと待っ!?」
「○○と黒尾のデュエットかー。『錦上に花を添える』ならぬ『錦上に雑草を添える』的な?」
「玉石混交的な感じですかね…。」
「お前ら失礼すぎね?」
「んーまぁいいや。はい××ちゃん。」と黒尾先輩は私にマイクを手渡した。
私は抵抗できぬまま立たされ、マイクを受け取った。
別に歌うことに抵抗はない。上手くは無いけど。
だかそのカラオケリレーというものが、私にとって第2の課題だった。
「次の曲はーと、やべもう始まる。××ちゃん、一小節ずつな!」
「あ、は、はい!」
黒尾先輩は画面を見る。
私もこれはやりきるしかないと息を飲み、次の曲のタイトルを見て目を丸くする。
『おじゃま虫』〜
「第1回カラオケリレースタートー!!」
黒尾先輩の掛け声に主に夜久先輩と小春が歓声を上げた。
(黒尾)
「好きって言って、好きって言って、他に何もいらないから」〜♪
次の瞬間、黒尾先輩が歌い出す。
(××)
「っっ!?….〜って言って、忘れないように、君以外はいらないから」〜♪
いきなりぶっ込んでくる曲に最初は戸惑いながらも歌う。
イントロ中に小春が「私の曲だ!××が歌うの初めて聞くな〜!」と目をきらきらさせている。
私はこのカラオケリレーの行き先が不安でしょうがなくなった。