さんさんとした朝の日の光を取り込んだ教室。俺と虎杖は教室に来ていた。どうにも虎杖の顔色が優れない。さっきから体調が悪そうに机に突っ伏している。
ガラガラガラガラ
虎杖に声を掛けようとしたとき、教室の扉が開かれる。ここにも顔色が優れない女子が一人。「・・・おはよ」「応、おはよ・・・」「おはよう」「・・・虎杖、あんたすごい隈できてるじゃない。」ニュッ「昨晩は大層叫んでいたな、なかなかに滑稽だったぞ、小僧」ベチッ「お前は黙ってろ。・・・そう言う釘崎もなかなかじゃねーかよ」「まあね・・・伏黒は・・・ビックリするくらいいつも通りね。昨日目が覚めたりしなかった?」「特には・・・それより俺は二人の顔色が心配だな、保健室行った方がいいんじゃないか?」「ぜんっぜん元気みたいね・・・」「だな・・・」「もしかして・・・昨日のことか?」「そうだよ、あの音が頭から離れなくてさあ・・・」「あたしも・・・夢ン中で何回あの音で叩かれたか知れないわ」
※注釈的なナニカ
「あの音」とは、昨晩棘が悟に向かって喰らわせたビンタの音のことである。バチコーーーーーーーーーーン!!という音がしたので一年ズは「バチコン」「あの音」などと称して呼んでいる。まだ今の時点では三人はビンタの音であるということを知らない。そして昨晩の出来事のことは一年ズにより「バチコン事件」と名付けられた。後にバチコン事件を知る関係者にこの呼び名が広く親しまれることとなる。
「確かに、狗巻先輩の機嫌が悪いままだと空気が淀みそうだし、早く落ち着いてほしいな」「「そっちじゃねえよ!」ないわよ!」
虎杖と釘崎が机を拳で「ドン!!!」と叩きながら涙目で叫んだ。
「うおっ」「俺もっ非があんのは五条先生の方だって思うけどよっにしてもあんなバチコン喰らって無事でいるなんて思えねえだろっ」「遠くで聞いたあたしらがっこんなんなってんのにっバチコンもろ受けた先生の身を思うとっ最強が聞いて呆れるわっ!!」
言い終わると二人は机に突っ伏しておろおろ泣き始めた。顔が見えないため嘘泣きかガチ泣きか分からないがとりあえず俺は後者だと思うことにした。後で聞いた話だと虎杖は昨晩両手で数えきれない程の金縛りに遭い、その度に叫びながら飛び起きてしまったらしい。ツッコみどころが多すぎるが宿儺がさっきその旨の発言をしたように本当のことみたいだ。隣の部屋で寝ていたのによく起きなかったなと俺は何となく自分を称えておいた。一方釘崎は目は覚めなかったが、その分バチコンが夢に幾度となく襲ってきたのだと言う。せっかく五条先生に買ってきてもらったお土産(ルル・・・何だっけ?)を一枚無駄にしてしまったと嘆いていた。
「そういうことか・・・あのバチコンが夢に出ててしまうくらい衝撃が強かったのと、そのバチコンを喰らった五条先生が心配で二人は寝付けなかったってことなんだな」「あんたは違うって言うの!?」
悲痛な叫びと共に目をウルウルさせた釘崎が顔を上げる。
「まあ・・・あの人なら大丈夫だろ」「伏黒ってホントドライだなっ!!!」「ドライねっ!!!いつか干からびるわよっ!!!」
俺は純粋にあの最強と言われる人ならどうにかなってそうって思ってるからなのに、二人は信じてくれない。
「じゃあバチコンは!?バチコンは平気だったってことね!?正気じゃないわよあんた!!」「あれ音と一緒に呪力も上乗せされてただろ!?それは大丈夫なのかよ!!」
俺は合点がいった。二人がこんなにも深刻にダメージを受けているのは呪力の影響もあることが分かったからだ。あの呪力は実戦で出すような本気のそれだったから、この前まで非呪術師だった虎杖と実戦慣れしていない釘崎の身にはいささか負担になってしまったのだろう。俺は呪術師としての実戦経験だけなら二人よりあるから寝て治る程度のダメージしか無い理由にもなる。遠くにいた俺たちにそれだけのダメージを受けさせたんだから近くではさぞすごかったんだろう・・・音に呪力をのせるとは言うものの声に留まらないのか。
・・・というかどんなパワーでどんな理由があって先輩は先生をバチコンしたんだ。そればかりは本人に聞かないと分からなさげだが、あの状態ではとても話を聞かせてくれそうにもない。時間に頼るほか無いかと少し息を吐いた。
「・・・虎杖、釘崎。まだ二人ともバチコンの呪力のダメージが回復しきってない。先生には言っておくから今日は休んだ方が良い」「そっか・・・伏黒がそう言うなら休ましてもらうかあ」「手間かけるわね、伏黒・・・」「いや、大丈夫だ」
色々話している内にいつの間にか一限の開始時刻は過ぎていた。担任が遅れてくるのはいつものことだが、それにしても少し遅い。責める程の遅刻だ。
ガラガラガラガラ
虎杖と釘崎が席を立ったその時、教室の扉が開かれ、長身黒ずくめのシルエットがこんにちはした。二人は悟を心配していた為こうしてまともに会えることに大層嬉しそうに先生のもとに駆け寄った。
「せんせー!!おはよー!!ちょっと遅かった・・・・な・・・・?」「先生、生きてて良かったわ・・・・ね・・・・・・?」
様子がどうもおかしいので俺も席を立って先生の近くまでいった。
自分の目を疑った。
「おはよ、皆。いい朝だね。」
そう言う五条先生の左頬に、手の形をした青タンがあった。わずかに呪力の気配も感じられる。
バチコンって・・・ビンタの音だったのか。
虎杖と釘崎は昨晩の疲れを一時的に忘れて先生に事情を聞いた。俺も一瞬メイクかなんかかと思ってよくよく見たがやはり皮膚の下で内出血が起こっていることを証明するかのようにやや紫を帯びた青色だった。
「・・・先生、生きてる?」「亡霊みたいだよね・・・今の僕。でもちゃんと足はあるよ」
目隠しをしていてもその下はさぞ目を瞑りたくなるような惨状が広がっているのだろう。今の状況の先生からはまるで生気が感じられない。言いたいことは多すぎるが一つずつ解いていくことにした。
「五条先生、まず昨日何があったんですか?何やらかしたらそんな痕付けられるハメになるんですか」
そう言うと先生は一度深呼吸した。
「そっからだよね・・・うん、話すね」
そしてもう一度。
「棘とイチャイチャしてたらビンタされた」「・・・・・・・・・それだけですか?」「それだけ」「ビンタで青タンできるとか聞いたことないですけど」「ちょっ伏黒っ先生らも色々あるんだろうからさっそんな追及するようなことな「大丈夫、悠仁が思ってるようなことはしてないよ」「そっか・・・良かった」
何が良かったのかはよく分からないが虎杖は納得したようだった。
「それよりイチャイチャしてたらビンタされたって、何でイチャイチャしてただけでビンタされるのよ。調子乗りすぎたんじゃないの?」「野薔薇は・・・そう思う?実はね・・・・・・・・」
そう言うと先生が急に深刻なムードになったので俺たちは息をのんで次の言葉を促した。(ゴクリ・・・・・)
「ぼくもわからなあああああああああああああああいいいいいいいいいい」
急に泣き叫びながら俺たちに抱き着いてきた。情緒壊れすぎだろ、アラサーの言動とはとても思えない。やってることは小学生だ。というか、分からない?
「ぼくもなんでとげおこらせちゃったのかわからないいいいいいいとげのねがおのしゃしんみんなにみせたっていっただけなのにいいいいい」
なんでえええええええ。と先生はただひたすら俺たちに泣きつく。顔が見えないため嘘泣きかマジ泣きか分からないが俺はとりあえず前者だと思うことにした。
「っっ暑苦しいわよっ!!・・・ああ写真って、あの白目のやつね。結構面白かったけど見せてるってことホントに先輩に言ってなかったのね」「だって言ったら怒るの目に見えてるじゃん。棘寝起きだったから聞き流してくれるかなと思ってつい言っちゃったけど」「でもせんせー、先輩が寝顔晒されたくらいでそんなひどいビンタするの?」「そーよそこなのよ!!!怒らせた理由それしか思い浮かばないのに棘がそれで怒る理由が見つからないんだよおおおおお」
確かに不思議だ。俺の知る限り狗巻先輩は寝顔を晒されたくらいで激怒するような人でもこんなビンタを人に喰らわすような人でもなかったはずだ。
「先生、そのビンタ無下限抜きで喰らったんですよね?一応聞きますけど壁ぶち抜いたりしませんでした?」「僕のほっぺが全部受け止めてくれたから壁はぶち抜いてない。でも久しぶりに痛いっていう感覚思い出した」「俺たち学生寮にいたけど、音と呪力の影響もろに受けたよ。」「え、マジ?そんなエグかった?」「ってそうだ。虎杖と釘崎はそのダメージがまだ治りきってないから今日は休むべきって言ったすぐ後に先生が来たんだった。」
俺がそう言った途端二人は自分たちが疲れていたことを思い出したようだった。重い足取りで教室を出る。
ガラガラガラガラ
「先生、また明日ね」「その痕どうにかしなさいよ、また明日」「うん、お大事に」
二人の姿が見えなくなった頃、俺は先生に聞いた。
「・・・先生は呪力に関しても物理的なダメージに関しても大丈夫ですよね?」「うん、大丈夫。」「じゃあ何でそんなやつれてんですか」「恵まともな恋したことないでしょ」「あ゛?」「キレないでよ。・・・恵、僕、誰にビンタされた?」「・・・・狗巻先輩です」「棘は僕の何?」「・・・・・・・・・恋人です」「そう、そういうこと。こんなこと初めて」
つまりこの人が言いたいのは精神的なダメージが大きかったということだろう。
「先生も初めてには弱いんですね」「棘限定でね」「そういえばビンタの跡治さないんですか?」「治そうかなとも思ったけど、治す気が起きないかな。」
先生ならすぐ治しそうですけどね、って言おうとしたけど今の先生の状態を見るととても口には出せなかった。
「恵、今日は授業無しにしよ」「え」「慰められる時間が欲しい」「・・・・そうですか」「恵、慰めてって言ったらどうする?」「・・・・俺ほっぺに青タン作られたことないんで先生にかけるべき言葉が分からないです、すみません」「案外真面目な回答返ってきた・・・ありがと」
本当に、この人のしょげた姿を見たことが無かったので、きっとこの先も無いので、俺はただ驚いていた。
「そういうことなら失礼します、明日は授業ありますか?」「今日の結果によるね。また連絡する」「分かりました。先生、また明日」「うん。あっそうだ恵」「はい?」「棘が怒った理由って分かる?」「それについてはもっと分からないです」「そっか、分かった」「はい」
そんな訳で俺は自分の部屋に戻る。今日は一日本でも読んで過ごそうかなと思いつつ、まだ解決していない疑問を考える。
「・・・狗巻先輩は一体何を怒ってるんだ?」
「・・・棘は一体何を怒ってるんだ?」
場所は変わって、校庭。
「さあな。そればっかりは本人に聞かなくちゃ分かんねえだろ。・・・でもまあ、今はそれどころじゃねえな」
「だな」
二年生の一限は外での体力づくりなのだが、校庭には真希とパンダしかいない。もう一人はというと。
つい先ほどのこと。
昨晩と同じく鬼の形相をしたままの棘が言った。
「昆布っツナマヨっ辛子明太子!!!!」
「・・・は?今日は一人で練習したいって?」
「しゃけ」
「特に止める理由もねえか・・・良いぜ。次の授業には間に合えよ。」
「いくらっ!」
・・・と、そんな訳で棘はどこかに行ったっきりだ。
「一晩寝たくらいじゃおさまらなかったなあ」
「んなもん分かりきったことじゃねえかよ」
「にしてもだよ。棘がずっとあのままだと調子狂うからさっさと仲直りしてほしいんだけどな」
ニュッ「何で僕と棘のことだって分かってるの?」
「「うわっ」」
「急に出てくんな!いつからそこにいたんだよてか聞いてたのかよ!!」
「ブフッ悟wwwwすげえ顔wwwwwwww」
「そこのレッサーパンダ笑いすぎ」
「パンダだ殺すぞ」
「お前授業はどうしたんだよ」
「悠仁と野薔薇が昨日の件で疲れ切ってたから休まさして、僕も時間が欲しかったから今日はナシ」
「お前のせいだろうが」
「そうだよ。棘をあんなにできるなんて悟くらいだろ」
「そうかあ・・・分かっちゃうかあ・・・」
そして一息。
「真希、パンダ。慰めてって言ったらどうす「「断る」」
「・・・最後まで言わせろよ」
「そのセリフ使うならもっと元ネタに近い状況で使えよ」
「ヤダよ。そんな状況未来永劫来ないから」
僕もう行くね、と言って悟はその場を後にした。
「・・・そんなに大事ならたったと謝れよ」
「そろいもそろって不器用で素直じゃないな」
「だな。・・・っと、そろそろ私らも始めるか」
「ああ。先に一本取ってやるからな!!」
「そりゃ私のセリフだ!!」
校庭に元気な声が響く。そして一限の終わりのチャイムが鳴ったころ棘はちゃんと戻ってきたのでホントに一人で練習したかっただけだったのかと真希とパンダはどこか安心していた。ただ鬼の形相は消えることを知らなかったが。
その頃悟は高専中を歩き回りながら慰めの一言と、棘がブチギれた原因を聞くのに必死だった。
「やっほーーーーーーナーーーナミーーーーーン!!!!!」
「!!」
悟の真面目な後輩は後ろから来る異様な気配を即座に察知し紙一重で避けた。流石一級。流石後輩。流石七三。
「っ!!危ないですよ五条さん!!・・・ってその顔の痕どうしたんですか。」
「そっか、昨日高専いなかったっけ七海」
「ええそうですが・・・。・・・なかなかに滑稽ですね。何があったかお聞きしても?」
ナナミンはあの五条悟に痕一つでも付けれる呪霊などそうそういないだろう、という興味から聞いたのだが悟にとってはノロケのチャンスでしかなかった。
「棘にやられた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうですか。それは出過ぎたことを聞いてしまいました。忘れてください」
「待ってよ七海僕棘にやられたしか言ってないけど!?」
「その痕を付けたのが何者なのか分かっただけで十分です。ついでに何となく理由も分かりましたし。どうせあなたが何かしたんでしょう」
「察し良くね・・・?まあ分かったならいいや、七海、慰めてって言ったらどうする?」
「お断りします」
「そっかあ、じゃあ棘が何でこんな痕付けるまで怒ったのか分かる?」
悟はビンタまでの経緯を簡潔に話した。七海の返答は一択だった。
「あなたが分からないなら私に分かるはずないでしょう」
「そっかあ・・・そっか。そうだよね。任務頑張ってね」
「・・・え?ええ」
少し、いや大分いつもよりしおらしい悟にナナミンは少し驚いたが放っておくことにした。
悟は事務処理をしていた補助監督の後輩のところへ来ていた。棘がブチギれた理由を聞くのはさっきの七海の言葉で何となくやめておいた。
「伊地知、これ見た率直な感想どうぞ」
悟は左頬を指でつついたまま伊地知が振り向くのを待つ。
「うわおうふっび、びっくりした・・・五条さんですか。どうしました・・・・ってええええええ!?!?!?」
まるで貞子に遭遇したかのようなリアクションだ。
「今までで一番面白い反応だな・・・んで感想どうぞ」
「か、感想!?感想ですか・・・えっと、その・・・」
「あーこれやったの棘ね」
「い、狗巻くんですか・・・意外です。えっと、すみません五条さん。私、未熟者なものであまりそういうことは詳しくなくて、えっと、それで、かけるべき言葉が見つからないです・・・」
「恵タイプかい」
「え?」
「いや、こっちの話。うん、そっか。OKOKOK牧場」
そう言って悟はどこかへ過ぎ去っていった。伊地知はゲリラ豪雨のように来てどこかへ行った悟を見送ってから昨晩こぼしてしまったコーヒーの匂いがほのかに香る机で事務処理の続きを始めた。
「学長~いる~?」
相変わらず呪骸を作っている学長さんのところに悟は来ていた。そしてまた左頬をつつきながら学長が顔を上げるのを待つ。
「・・・?悟か、何の断りもなしに来るとは、何の用・・・それどうした」
「(⌒▽⌒)アハハ! すごいでしょこれ」
「昨日の晩あった音はそれか? 悟」
「ご名答。皆察しが良すぎて怖いよ」
「それで? 誰にやられたんだそれは」
「棘」
「そうか」
・・・。・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「え!?!?!?それだけ!?!?!?!?!?」
悟の通りの良い声が響く。
「つまりそういうことだろ。俺が特にその間に割り入る理由は無い」
「いや怖い~!察しが良すぎる~!学長僕の部屋に盗撮カメラ仕込んでますよね!?怖い怖い帰って確認しなkyってうぎゃっ」
学長の手の内にあった呪骸が突如として襲い掛かってきた。無下限があるのでノーダメージだが普通に悟はビックリした。
「お前たちの問題だろ。自分たちで何とかするんだな」
「学長も昔はさぞ色々あったんでしょうねえ・・・」
「顔の痕追加してやっても良いが?」
「結構です。あと学長にはこんな痕付けれないと思います」
「ほお?」
「これは棘にしか付けれない痕なんで」
そう言い残して悟はまた別のどこかへ去っていった。学長はさっきの呪骸を撫でながら独り言をつぶやいた。
「・・・痕という名の呪いだな、あれは」
悟はそろそろ慰めをもらうという行動に限界を感じてきていた。先ほど京都にいる歌姫に慰めを乞いたところ「知るか!!!!!!!!!!!!!!!!!」と耳元で鼓膜が潰れそうなほどのクソデカボイスで叫ばれたあと「ブチッ」という虚しい音と共に電話を切られ、冥さんには「フフフ・・・君のパートナーがそんな大胆なことをする人だったとはね・・・。人は見かけによらないな。それで、慰めが欲しいと言ったね?それなら私がその道のプロに話を通してあげても良いよ?その代わり紹介料はガッポリもらうけどね・・・ウフフフフフ」と怪しい匂いが鼻に突き刺さるような感覚を覚えたので悟は丁重にお断りさせていただいた。
こうなったら最後の手段。昔からの友を頼ろう。という結論に悟は至った。
ガラガラガラガラ
保健室の扉が開かれる。中で書類の整理をしていたらしいお医者さんは悟の顔の悲劇を見た途端昨晩の出来事と重ね合わせて何が起こったのかすぐに察したようだった。
「やあ硝子。笑ってくれる?」
「笑いを通り越して呆れるばかりだぞ私は。まさかお前の顔にそんなくっきり手形が残る日が来るなんて・・・・・んっふふ」
「笑ってんじゃん」
「あんまりミスマッチな組み合わせだからな」
「笑うくらいならさ、慰めの意味を込めて痕消してもらうなんてことはできちゃったりしないかな家入先生?」
「それは無理な話だな。」
「ソウデスカイインデスドウセケスツモリナイシ」
「もっと言うなら慰めもめんどくさい。私はそういう心理学的な方面は詳しくない」
「詳しくても慰めてくれなかっただろうし僕お暇するよ・・・。硝子が最後の砦だったのに」
「そうしてくれ・・・ちょっと待て五条」
「んー?」
家入は今まで「悟の話を聞いた誰もが少し疑問に思っていたがあえて誰も聞かなかったこと」を聞き出した。
「お前、狗巻に直接話は聞いたのか?それで謝ったのか?」
「え?・・・まだだけど」
「慰めをもらう暇があるなら本人に直接謝ってこい。バカかお前は」
「ホントに・・・?棘の怒ってる理由が聞きたいって言おうか迷ってたんだけど」
「狗巻に直接聞けバカ!!!!!!!」
「それ本気で言ってる・・・?」
「逆に何で私が知っていると思ったんだバカ」
「バカって言った方がバカだもんね」
「少なくとも今のお前よりバカなやつはいないだろうな」
「僕、そんなバカ?」
「バカだ。なぜ直接聞かない?」
「何でって・・・棘すごい怒ってるだろうから・・・聞く勇気が」
「お前が面と向かって話さない限りはずっとそのままだろうな」
「それはヤダ」
「ならさっさと自分のやるべきことをするんだな」
「うん・・・ありがとう硝子。行ってくる。」
ガラガラガラガラピシャ―――ン!!!
かなり勢いをつけて出ていったから保健室の扉が悲鳴を上げているのを横目に家入は仕事に戻った。
「不器用で素直じゃないのは昔からだな・・・。今の五条を見たらアイツはどう思うだろうか・・・意外と応援してたりするかもな。
《随分と可愛らしいコ捕まえたんだね。大事にしてあげるんだよ、悟。僕の分までね》
・・・・・・・・なんてな」
家入は一人微笑んで休憩がてら煙草を吸いに喫煙スペースに向かった。
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