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生徒達のざわめきやまだ下手なトロンボーンの音を背に、電気のついていない被服室を前にして立ち尽くす。
(ここで、合ってる…はずだよね…)
被服室の前の廊下は人通りが少ない。用のある生徒がほとんどいないからだ。
そんなところにわざわざ来た訳は、勿論家庭科部員だからである。正確には、入部するためだが。
そう、初めての部活。私が入ろうとしているのは、この中学の中でも極端に少ない部員数で、目立たない、家庭科部。現時点で三年は二人、二年は三人しか居ないという。
その人達が部室にいないのは放課後清掃が遅れているからだと分かっていても、もしも日程を間違えていたらと考えると怖くて、確認を取りにも行けない。ただただ、立ち尽くしていた。
そんな時、廊下を歩く音が聞こえた。向くと、そこには、いかにも暗いタイプの子がこちらは歩いてきている。少しバサついた黒髪を後ろで一つにまとめているが、毛量が多いのか、髪が落ちてきていて、顔を見事に隠している。
下を向いて歩いているため、こちらに気付いていないのか、そのまま私を通り過ぎる。けれど、そのまま被服室の前で立ち止まる。見上げて誰も居ないと気付いたのか、辺りを見回して焦っている。
それで私がいることをようやく認識したらしい。髪の隙間から見える目を見ると、知らない私を見てさらに焦っているようだった。
かといって私が平然としているかというとそうでもない。おそらく家庭科部員であろう子に出会えて嬉しいが、話しかけても大丈夫か、もしかすると引かれるんじゃないだろうか、と頭の中で悶々と迷っている。
けれど、やっぱりこのまま不安に苛まれたままでいるより、仲間としての安心感を得たいと思った私は思い切って声をかけた。
「あ、あの、家庭科部に入る…の?」
少し裏返ってしまって頬が赤くなるのを自覚していると、ふっと笑った声が聞こえた。
「うん、そう」
やっぱりそうだった、と思ったと同時に、その笑い声が優しくて、安心できたからなのか、はしゃいだ声で、
「やった、仲間だ!仲間がいた!」
と叫んでしまった。
またしても恥ずかしくなっていると、堪えきれないかのような抑えた笑い声と共に、
「一緒に顧問の先生、探しに行く?」
と問いかけられる。
断るどころか不安で悩み続けていたことが解決出来そうなその提案に、私は迷いなく頭を頷かせた。