コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
このお店のレジ打ちの店員さんはかっこいい。
お店の制服とエプロンをばっちり着こなしている。ここまでかっこよく制服を着れる人は珍しいのではないかと思うほど。
ただ残念なのは営業スマイルが一切ないことだけ。
無表情に近い顔でいつもレジに向かっている。
彼から発せられる言葉は淡々としていて、少しも親しみ易さが感じられないほどだったりする。
わたしが彼に関することで唯一知っているのは、胸元のネームプレートに書かれた、【木手】という名字だけ。
今日もあたしは彼のレジへと並ぶ。
買い物カゴの中には野菜とかお鍋の材料とかお菓子なんかが入っている。
レジの順番が回ってきて、買い物カゴを置くと、いつものように彼は単調に商品をカゴからカゴへと移し替えていく。
「…お菓子、多いですね。」
「へ…、あ、はい。」
突然話し掛けられてびっくりした。
しかも彼からだ。
幸い、時間的に人は殆どいないから会話が聞かれることはない。
「今からお菓子食べるんですか?」
「そのつもり、です」
「体に悪いですよ」
「…すみません」
注意されてしまった。
いつもは笑わない彼が少し笑っていたような気がした。
「…今日は俺の誕生日なんです」
「はぁ…」
いきなり何なんだ、この人。
わたしが買った野菜をレジに打ち込みつつ、彼は話しを続ける。
「みんなメールで祝ってくれるんですが、直接はまだ言って貰ってないんです」
もうどうしていいかわからない。というか会話が成立していない。
彼は最後の1つをレジに通して、1926円です、と言った。
「あ、あの、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
お金を渡しながら彼に言うと、受け取りながらお礼を言われた。
「あと、これあげます」
わたしは彼に買ったばかりのプリンを差し出した。彼はちょっと不思議な顔をしたけど、プリンをきちんと受け取ってくれた。
「プリン、頂いておきますね」
そう言った彼の顔には、初めて見る笑顔があった。
彼はそのまま言葉を続ける。
「俺のレジに最初に来たときから好きだったんですよ」
火照る顔を隠すようにわたしはカゴを持ってレジを抜けた。
後ろで彼がわたしの焦る様を見て笑うのが聞こえたけど、わたしは黙々とビニール袋に品物を詰めた。
ビニール袋を持って、お店を出る。
悔しいけどわたしが彼に良い返事をしてしまうのは遠くない、かもしれない。