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ブロロロロロロロ__。
ソ連の美しい飛行機の音。そこからなにか、黒く、長細い物体が僕よりもずっと遠くにいるお母さんの方へ飛んでいく。両手位の大きさ?いや、もっと大きい。僕よりも、ずっと、ずっと。
ドガーン___。
あれ?え?お母さんが居ない。お母さんがいた辺り1面が炎に包まれている。まるで、暖炉の中のように。
『 はっ、 』
まただ。毎晩毎晩、同じ夢を見続ける。当時、僕は12歳。あれから3年が経った今でもあの衝撃だけは鮮明に覚えている。ソ連の麗しい飛行機に魅了されて、お母さんの事を気にかけなかった。気づけなかった。知らなかった。怖かった。
『 にぃに、大丈夫? 』
病室の横では、僕の妹の幸子と医介輔が居る。気づけば、僕は泣いていた。
『 あぁ、うん。 』
幸子は今6歳だ。僕よりもずっと先に、母も父も無くして、なんて不幸なのだろう。
『 栄一郎さん、今日は
退院の日です。お荷物をまとめて
お帰りください。 』
医介輔が僕に向かって言う。僕は颯爽と荷物をまとめて、シャツを来て、赤いネクタイを付けると、白いズボンに青いスーツ、そして、白い帽子を被り、幸子と手を繋ぐ。
『 今まで、3年間も、
ありがとうございました。 』
僕は深々と頭を下げる。幸子も頭を下げている。
『 こちらこそ。
焼身にはお気を付けて。 』
医介輔がこう言うのは、3年前、お母さんが受けた爆弾の衝撃で、火が僕に飛び移り、意識もうつらうつらで尋ねた病院がここだったのだ。その時は、幸子は親戚のおじさんと逃げていた為、僕とお母さんだけだった。
『 幸子、行こう。 』
僕は幸子の手をギュッと握り、空を見上げる。病院を後にして、見る空は一段と綺麗だ。三年経った今でも戦争は変わらず続いている。
『 なんだか、僕は今、
自由みたいだ。 』
そんな独り言を呟く。
『 にいに、さちもー! 』
幸子は両手をいっぱい振り上げて言う。
『 帰ろう、幸子。家に。 』
僕はそっと幸子に微笑む。
『 …にいに、家はもう無いの。
じぃじと一緒に行ったけど、
無くなっちゃってたの。 』
幸子は目をうつらにさせて、下を向く。
『 …幸子?今までどこに
居たんだ? 』
僕はその場にしゃがんで、幸子の肩に手を置く。
『 …じいじの家。 』
僕は幸子を抱き締めた。母も父も失い、養われる人が親戚のおじさんだけだなんて、、どんなに孤独で寂しい思いをしていたのかと思うと、僕の心はずきずき傷んだ。
『 じゃあ、行こう。
その家に。 』
僕と幸子は駅まで歩き、電車に乗って親戚のおじさんの家に向かう。電車は満員で、幸子は背がちっぽけだから、大人で埋もれてしまう。そのため、電車の車両と車両の間に出て、幸子と座った。貨物列車だから、それが出来る。それほどまで速くない電車に安心して、少し眠たくなってきた。
『 ぃに、にいに! 』
僕は幸子に起こされて、目を擦った。電車を降りると、隣町までの距離を歩く。長い階段を降りようとした時、幸子と手を繋いでいない方の手首を誰かに掴まれた。
『 あの、 』
それは、微かで儚い女の人の声だ。
『 はい。 』
振り返ると、そこには、白いワンピースに、白い帽子。可愛らしい、僕よりも二個下くらいの女の子が立っていた。
『 ここが、どこだか
分かりますか?電車に乗っている時
お母さんとはぐれちゃって、
勢いで降りたんです。 』
彼女は瞳を揺らして、不安そうに僕に聞いてきた。
『 ここは、僕の地元の町です。
田舎なので、隣町にあるので
ここからもう少し歩きます。 』
彼女の表情には少し赤みが戻ってきた。
『 ご一緒してもいいですか?
もしかしたら、お母さんが
その隣町に居るかもしれないの。 』
彼女は僕の横に来ると、そっと微笑んだ。まるで天使のように可愛らしい。辞典を横に3冊分の身長差は、僕と彼女の心の距離だろうか。