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俺は元々フォークではなかった。
味だってちゃんと感じれたし、小さい頃に受けた
検査でもその他だと診断されていた。
俺がフォークになったのは少し前。
個人の活動に加え、アンプとして活動を始めて今までの比ではない程に忙しくなった。仲間と一緒に色んな試練を乗り越えて、もっとこの6人で大きくなりたいと無我夢中で頑張っていたから、自分の体が悲鳴をあげているのに気付かなかった。
グループの会議の後、個人チャンネルで投稿する予定の動画の編集を終わらして一息つこうとコーヒーを飲んだ時、味がしなかった。
次の日朝イチで駆け込んだ病院で俺はフォークだと診断された。
おそらく最近の無理が祟って、体が少しでも負荷を減らそうとした結果、味覚が感じなくなってしまった的なことを医者は言っていたがその時の俺は放心状態で難しい話は入ってこなかった。
ただただこれから先食事をしても味が分からないことへの絶望と、いつか自分がケーキを襲ってし
まうかもしれないという恐怖に震えていた。
それから暫くは自分がフォークになったことがバレてしまうかもしれない、これだけ人の多い東京だといつかケーキとすれ違って襲ってしまうかもしれないと怯えながら過ごしていたが、薬のおかげで味覚がないこと以外は今までと変わりなく、フォークになったことがバレたりもしなかったし、ケーキともすれ違っていたかもしれないが全く気づくこともなく、だんだん普段の生活を取り戻していった。
味覚に関しても、食べ物の味が分からなくなったのは辛いが、逆に言えばどれだけ不味いものでも味が分からないので、味に関係なく体に良いものを食べれたり、悪い事ばかりではないかもしれないと前向きに捉え始めることができた頃だった。
その日は何故かけちゃおから甘い匂いがしていた。最初は気の所為かと思っていたが、段々と強くなる香りに流石に気の所為ではないと思い、近くにいたあっきぃに
「けちゃお今日なんかめっちゃ甘い匂いするくね?」
と聞いてみたが
「えー?そう?いつもと同じくらいだと思うけどなー」
というあっきぃの返事にやっぱり気の所為だったのだろうか、いやでも……などと考えていると、ちょうどけちゃおが話しかけてきたので俺は直接けちゃおに聞いてみることにした。が、返ってきたのはあっきぃの返答を裏付けるものだった。
しかしよく考えてみれば確かに強い匂いの苦手なコイツが香水をつけるようには思えない。ならばこの匂いはどこから匂っているのだろうか、などと考え込んでいたせいで間違ってけちゃおの水を飲もうとしていたことに気付かなかった。
「あ!まぜちそのお水ボクの!」
と言うけちゃおの制止も虚しく俺がペットボトルに口をつけた瞬間、中身が水であるはずのペットボトルから甘い味がした。 味を感じるのが久しぶりすぎてこれが味だと思い出すまでに時間がかかり少しボーッとしてしまっていたが
「まぜち?ごめんね大丈夫?」
というけちゃおの声でハッと意識が戻り、瞬く間に理解した。
(けちゃおは、ケーキだ)
気付いてしまうともうダメで、もっともっとと欲しがる本能を何とか理性で押さえつけて俺はレッスン室から飛び出した。
とりあえず近くのトイレで口をゆすいでみるが、脳にこびりついたあの甘い味は消えず、それどころかレッスン室の方から甘い匂いが漂ってくるような気さえしてきてとにかくレッスン室から離れようと俺はだいぶ遠くの会議室に駆け込んだ。
ここまで来ればもう匂いはせず、幾分か落ち着きを取り戻す。そして冷静になった頭で考える。
(けちゃおはケーキだった。あの甘い匂いもけちゃおの汗から滲んでたんだ。でも今までそんな素振り全くなかったのに……。)
という所まで考えて、薬の存在を思い出した。俺は確かに今朝飲んだから恐らくけちゃおが飲み忘れでもしたのだろう。しかし原因がわかったところで根本的な解決には至らない。これからどうすれば良いのだろうか。
グルグル考え込んでいるうちにまたあの甘い匂いがしてきて、 落ち着いてきた頭が一気にカッと熱くなる。間もなくしてこの甘い匂いを発している張本人のけちゃおが部屋に入ってきた。
本能がケーキを捕食したがるが、精一杯の理性でなんとか我慢して、とにかくけちゃおを部屋から追い出そうと必死になって、自分がフォークであり、そしてけちゃおがケーキであると知ったということをカミングアウトした。他にも キツイ言葉を言ったような気もする。だが、もはやそんなことを気遣ってる場合ではなく俺はけちゃおを追い返すことに必死だった。
けちゃおが部屋を出ていってからしばらく経って、あっきぃとぷーのすけが迎えに来てくれた。
きっとけちゃおが呼んでくれたんだろう。
「まぜ太ー、迎えにきたったでー」
「うわ、まぜちすごい汗だよ、大丈夫?」
「や、大丈夫……それよりけちゃおは?」
「けちゃおなら急に病院行くとかいって帰ったけど。」
その言葉を聞いてやっと一息つく。
そんな俺の様子を見てあっきぃが
「ねぇまぜち、けちちさレッスン室に戻ってきた時に顔が真っ白っていうか、もうとにかく尋常じゃない感じだったんだけどさ、なんかあったの?」
と聞く。
心配してくれてるあっきぃに心の中で謝って、
「さぁ、俺とは関係ないけど。」
俺は嘘をついた。これはけちゃおのバース性を勝手に話すわけにはいけないという気持ちと自分のバース性がバレたくないという保身からだった。
その後俺もレッスンを早退させてもらって、今後のことを考えた。
けちゃおが病院に行ったということは、明日からは薬を飲んで今までと変わらないようになるということ。だが、ケーキだと知ってしまった今では例え匂いがしなかったとしてもあの御馳走のような甘さを思い出してしまうだろう。その度に必死に欲望を押さえつけたとしても、それがいつまで続くか分からない。ならば関わらないことが一番の安全策ではないだろうか。
そうして俺は次の日からけちゃおを避け始めた。
次の日、レッスン室に着くと既にけちゃおはダンスレッスンをしていた。いつもなら俺が来たことに気付くと
「まぜち〜!」
と寄ってくるが今日は違った。きっと昨日あんなことがあった手前、俺との距離感を考えあぐねているのだろう。だがむしろこれは好都合だと思った。
俺とけちゃおは、公式配信の企画を考えたり、ライブに関するあれやこれやをスタッフさんと打ち合わせしたり、一緒にやる仕事が何気に多く、その分一緒にいる機会も増えてしまう。
仕事だから仕方がないとはいえ、なるべくけちゃおとの関わりを減らしたい俺にとっては都合が悪い。
だからこそ、けちゃおも俺を避けているこの状況を上手く利用して俺はけちゃおとの関わりを必要最低限に抑えた。
俺がけちゃおを避け始めて数日が経った。
何日も続けてくると案外この生活にも慣れてくるようで、どこか味気ないこの日々も日常へと変わっていった。
しかしここ最近になってけちゃおが俺に話しかけようとしてくるようになった。
毎回なにかと理由をつけて断っていたがさすがに不自然すぎたのかメンバーから「喧嘩した?」と聞かれてからは、不自然な断り方にならないようにとにかく予定を詰めまくった。
けちゃおは俺に本当に用事があると分かるとそれ以上無理には誘ってこず、ただ少し悲しそうな顔をして
「じゃあまた今度ね!絶対!」
と念を押して去っていく。そんなけちゃおの様子にチクリと痛む気持ちを気の所為にして、見て見ぬふりをし続けた。
こんな生活を続けていけば、今は何とかなっているがそのうち必ず限界が来てしまうだろう。その前に新しい案を考えないといけないと思い始めた頃、俺ではなく先にけちゃおの限界が来てしまった。
けちゃおは周りに気を遣いがちだが、存外絶対に譲れないところは自我を突き通してくる。
そんなけちゃおの性格をうっかり忘れていた俺は、2度目のあの甘さに誘惑されることになった。
コメント
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この作品がきっかけでカニバリズムや古代の生贄文明について調べ始めて、今では沼に入っております。。。 応援してます!
2話更新ありがとうございます…!!これは次回が楽しみすぎる展開…✨✨このお話めっちゃ好きです💕 もうプロですかって感じの書き方が素晴らしいです😭😭
ケーキバース+mz×ktyで性癖ぶっ刺さりなこの作品大好きです!!!!!!今回も良すぎました😭書き方上手すぎるし凄すぎます... もう誰よりも好きな自信あります笑