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wn × ri
※怪我表現有
※モブ有(モブの名前有)
┈┈┈┈┈┈┈┈ wn
ゴ ォ”ン ッ
辺りに大きな雷鳴が響いた。
カチッ ビー ………
すぐさまブレーカーの落ちる音と共に、部屋は暗闇に包まれた。反射的に、ライを抱え込むように守る。
「っ…ライ!大丈夫?」
「うん、大丈夫。びっくりした…」
声をかけると、驚いたようなか細い声が返ってきた。生憎二人ともスマホを別の場所に置いているため、灯りをつけることもできない。お互いに今無闇に動くのは危険と判断して、ここはひとまず待機することにした。暗闇の中、雷と雨、お互いの呼吸の音だけが聞こえる。
しばらくじっとしていると、不意にライが僕の服の裾を掴んだ。僕の存在を確かめるように、強く、しっかりと。それはどこか懇願のようで、小刻みに震えていた。
「ウェン、いるよね…?どこにも行かないよね…ひとりにしないで」
「…ここにいるよ。ライのそばにいるからね。ほら、大丈夫 」
ライのしなやかで小さな手を手繰り寄せ、慈しむように撫でる。そのまま、手、腕、肩、首となぞるように上っていき、顔に辿り着いて。くい、と顎を軽く引き寄せておでこがこつんとぶつかる距離まで近付くと、牡丹の瞳がぱちりと花開く。
「んふ、この距離なら見えるね」
「んなっ…!?そういうところ!!」
ライの顔が見たくて近付いたところ、ぐっ と胸を押して距離を取られ、そっぽを向かれた。咄嗟に僕も距離を取って謝罪する。
「あ… ごめん、嫌だったよね」
「え、ぁ… その、別に嫌なわけじゃない。ウェンが、誰にでもそういうことするのが やだ」
驚きのあまり へ、と間抜けな声が口から零れる。なんだよそれ、意味わかんない─
「っ…だから、勘違いさせるようなことすんなって言ってんの!無自覚なのがいちばんタチ悪い!」
「…気付いたら、もうすきになってたの。戻れなかった。ウェンのことばっかり考えちゃって… オレたち所属が違うからたくさん会えないじゃん?… でも、会ったら会ったで思わせぶりなことたくさんされるの!!許せない!ずるいんだよ ばかあ…」
そう一気に言い放ち泣き出すライ。声も出せなかった僕は手を伸ばしてライの華奢な体を探す。背中を見つけてさすると唸るようにライは涙を流した。泣きじゃくる姿はまるで幼子のようで。初めて見るライの姿に動揺が隠せない。
───ライが僕のことを 好き?
情報を処理しきれず、頭がパンクするのがわかる。震える手で背中をさすり続けていると、ライが勢いよく顔を上げた。 乱暴に前髪を避けてぐい、と手袋で涙を拭う。そんな強く擦ったら、きっと痛いはず。ライの手を顔から剥がして覗き込む。
「やだ、見ないで…今見せらんない顔してるから─」
「大丈夫、見えてないよ。ね …顔だけでいいからこっち向いて?」
見えてない、というのは嘘。窓から差し込む細く弱い光でほんの微かに見えている。
でも、どうしても、僕のことを見て欲しかったから。
赤くなった目尻を優しく拭うと、更に顔を歪めて涙を零した。ぐしゃぐしゃの顔と上擦った声でライは僕に謝る。
「…ごめん、すきになってごめんね。気持ち悪いよね。ウェン何も悪くないのに……
オレが勝手に嫉妬して、迷惑かけて、それで─」
「謝らないで」
苦しそうな声に耐えられなくて、声を被せて発する。僕の言葉にライは心を痛めたのか、う”ぅ… と言葉にすらならない声と共に唇を噛んだ。傷付けるつもりじゃなかったのに、余計ライを追い込んでしまい慌てて口を開く。
「あのね、全然気持ち悪いだなんて思ってないよ。嫉妬してくれてたの嬉しいし、迷惑なんかいくらでもかけてほしい」
「だから、謝らないで。僕の方が謝らないといけないんだ。ライにずっと伝えなきゃいけないことがあったの 」
どうせ、僕だって見せられない顔をしている。暗闇で見えないうちに伝えてしまえ──
ライの背中に添えていた手を頬まで動かして、目線を合わせる。うるさい心臓を少しでも静かにするために深呼吸をして。こつんと再びおでこを合わせる。
「あのね、ライ。好きだよ」
「言うの遅くなってごめ、…ぅわっ!?」
突如ライが僕に抱き着いてきて必死に受け止める。そのまま動けずにいると、ほんとに? と小さな声で問いかけられる。
「ほんと、ほんとだよ。ライが好き」
「…ばか、ウェンのばか 」
僕の肩にしっかりと腕をまわして頭をぐりぐりと押し付けてくるライがあまりに愛おしくて、仕返しとばかりに強く抱き締めると、軽やかな笑い声が耳元をくすぐる。
ああ、もうひとつ伝えないといけない。
軽く体を離して、ライの両手を包む。そしてしっかりと目を見つめて、息を吸う。
「ライ、僕と付き合ってください」
「…! こちらこそ、よろこんで」
外の天気とは真反対の晴れやかなライの笑顔はとても眩しくて、綺麗だった。
ふと 視線がぶつかり、引き寄せられるよう互いに近付く。さらりと前髪が交じり、まつ毛が触れる距離。
どちらからともなく唇を重ねた。 ライのうなじに指を這わせて頭を押さえると甘い声が漏れる。そうして開いた口に舌をねじ込んで、何一つ零さないように塞ぐ。驚いたようにライの長いまつ毛が震えて涙が溢れた。
「ん、フ…ん”んっ は、ふ」
「…ふは、ライ、鼻で息してね 」
返事を待つ余裕も無い。ちゅ、なんて可愛らしい音がしたのは始めだけ。舌を絡ませ、行儀の良い歯列、温かい口内を好き勝手なぞると きゅっと服の胸元を掴む手。慌てて口を離すと、ふにゃふにゃの笑顔でもたれかかってくるライ。涙をそっと拭ってやると、幸せそうに頬を擦り寄せる。それが愛おしくて更に頬を撫でた。
「んふ、…ウェンのえっち」
「な”っ!? それはライが…!」
「オレのせい? 」
「ぅぐ、 」
肩で息をしながらライは呟く。その一言を正面にくらってしまって。 主導権を握ったと思ったらすぐに奪われる。ずるいのはライの方じゃないか。答えることもできず口を噤む。
カチッ ビッ ブー…
ついに言い返そうと思った瞬間、待ち望んだ音が響いた。急な光に目が眩む。
「やっと電気ついた」
「停電でもウェンとなら楽しかったなあ」
ライはきゃらきゃらと楽しそうな笑い声をあげる。白光りしている視界には少し彼は眩しすぎて。耐え切れず、抱き締めるように肩に顔を押し付けた。
「…ずるいのはライの方だよ」
なんて小声で呟けば、僕の頭をぎゅぅっと抱いて笑うライ。そのまま髪をすいて、耳元に顔を寄せる。
「ふ、ウェン…だいす─」
キィッ…バンッ !
「ねぇ!!2人とも無事?!」
「………ごめんなさい、お邪魔だったわね」
ライが何か言いかけたその時、うるさい音を響かせて扉が開いた。電気が復旧して、僕らを心配した妻鹿さんが駆け付けたのだ。
瞬間、ライが僕から離れる。妻鹿さんに気を取られていた僕は簡単に吹っ飛ばされた。
「いや、ちがっ!!違くないけど…!えと…」
「ふはっ!僕が停電怖くって、ライが守ってくれてたんです。それだけ!」
真っ赤な顔であわあわと慌てるライが珍しくて、つい吹き出してしまった。恥ずかしそうなライを隠すように二人の間に動く。
本当に焦ったわよ!! なんて叫ぶ妻鹿さんを宥めながら話していると、とん と何かが背中に当たる。なんだ、と確認する前にその正体に気付く。ライが僕の背中に頭を押し付けていた。妻鹿さんの死角なのをいいことにぐぐぅ と頭を押し付けている。ライなりの照れ隠しなのだろうか。あまりの可愛さに話が頭に入らない。
そんな僕に気付いた妻鹿さんが う”ぅんっ、と大きく咳払いをして話を戻した。
「無事で何より。今日は念の為ここを閉じることにしたから。申し訳ないけれど、帰ってもらうために来たわ」
「赤城君のお家が近くなのは分かる。でも伊波君、電車が止まってしまってるらしいの」
どうする?と妻鹿さんがライに向かって問う。急に話を振られたライが動揺しながら返事をする。
「え?! あぁ えっと、ホテル取ります!」
「え!?やだ!」
次に動揺したのは僕。ライがホテル取るなんて言うからだ。どうせなら─
「僕ん家でいいじゃん!ホテルより近いよ」
「しかもなんと今なら!飲み放題だし、無料だし、赤城ウェン特製唐揚げ付いてくるんですけど!」
己の出せる良い条件を出して押し切りたい。何よりライともっと一緒に居たい。
「ねぇ、だめ?」
「ぁ、え……むしろいいの?」
心底驚いたような表情をされる。だめな訳がないのに。ライの手を掴む。
「もちろん!そうと決まれば早く行こ!」
「え!?ちょっ、ウェン!」
「妻鹿さんまたね!気をつけて帰ってね!」
「待ってウェン!!妻鹿さんありがとうございました!絶対また来ます!」
歩き出した僕の手を引っ張って止まり、妻鹿さんに感謝を述べるライ。礼儀の正しいとこも好きだな、なんて考えてしまう。
挨拶をし終えたライが僕の方へ向く。そしてにまりと微笑んだ。
「早く帰ろ、唐揚げが待ってる」
なんだよ、お目当ては唐揚げかよ。冗談だなんて分かりきっているけれど少し悔しい。ふい、とそっぽを向いてやると楽しそうにライが肩をぶつけてきた。
「嘘だよ、ウェンと長く居られて嬉しい 」
「な”!やっぱりライの方がずるい!」
勝てないな、と僕は思った。熱の溜まっていく顔を仰いで歩く。繋いだ手に力を込めると負けじと握り返されて。馬鹿みたいな小さな争い。けれど、それが幸せで堪らない。二人は玄関に置いていた傘を引っ掴んで大雨に向かって歩みを進めた。
┈┈┈┈┈┈┈┈ ri
「んはー!!雨えぐすぎんだろ!」
「あはは!!本当にやばい!!」
本部を出てウェンの家へ向かう。お互い傘を差しているにも関わらず、びしょ濡れ状態。声も雨風によって掻き消されてしまいそうで大声で叫ぶ。少しでも安心するために。雫を飛ばす桃色の隣に並ぶ。そういえば─
オレ、泊まるのに、何も持っていない。
「ねえ、ウェン!コンビニ寄りたい!!」
「え!?コンビニ?!分かった!こっち!」
よっしゃいくぞー!なんて手を引っ張られる。どっちも傘差してるのにそんなことしたら余計濡れるよ、ばか。それでも楽しそうなウェンにつられて笑ってしまう。ああ、ウェンとならどんなことがあってもきっと楽しいんだろうな。溢れる想いを再確認して、大きな水溜まりを飛び越えた。
┈┈┈┈┈┈┈┈
「必要なもの、もう大丈夫?他何かあったらカゴ入れてね」
「え、いやオレ払うからカゴ頂戴?泊めてもらう上に奢ってもらうとか本当にだめ!」
「あ、もう必要なものないね!じゃ会計してくるねー!」
「あ、ちょ!待ってウェン、ねぇってば!」
頑固なウェンに押されて少しだけ出して貰ったけれど、八割がた払うことができた。
コンビニを出る、その瞬間バケツをひっくり返したような大雨とご対面。ここまで来ると傘も意味をなさない。本当に帰れるのか心配になり、隣のウェンの方を見る。ウェン、どうしよう なんて言おうと思った途端、高らかな笑い声が辺りに響いた。
「ふは、あはは!!ライ、走れる?荷物持つから僕に付いてきてね!!」
「いこう!」
ゲリラ豪雨だって止んでしまうような青空の瞳に照らされて、息も忘れる。冷たい雨の中に居るのに、じんわりと心が温まっていくのを感じた。眩しい彼に負けないように笑顔で答えて走り出す。桃色の背中を追いかけて雨の中を駆けていった。
┈┈┈┈┈┈┈┈
「ただいま!そしていらっしゃい!」
「お邪魔します…!」
雨で全身びっしょりになりながらも何とかウェンの家に辿り着いたオレら。雨で濡れた服が気持ち悪くて仕方ない。そんなオレを見越してウェンが声をかける。
「ライ、シャワー浴びておいで。服は洗濯機突っ込んどいて、洗っちゃうから」
「え?いやいや、ウェンが先浴びてよ」
自分は泊めてもらう身だと言うのに、家主より先にお風呂をお借りする訳にはいかないのだ。それに、ウェンに風邪でもひかれたら─
そっちの方が何倍も嫌だ。ウェンに向かって頬を膨らませながら反論すると、子供に教えるように諭される。
「だーめ。風邪ひかれたら僕泣くからね?成人男性?いや、がっつりおじさんの泣き顔見たくなかったら早く入ってきて」
「う… 分かった、すぐ上がる」
好きな人を泣かせるなんて絶対にできない。結局オレはウェンに強く出れないのだ。渋々脱衣所に向かい服を脱ぐ。着ていた服を風呂場で捻ると大量の水が滴った。確かにこれは風邪をひいてもおかしくない が、やはりウェンに風邪をひかれる方が嫌なのだ。
ライは とある決心をして上裸のままウェンのいるリビングへ向かう。せっせとタオルや着替えの服を準備している桃色を見つけて、忙しなく動いてオレに気付かない彼のシャツの裾を くい、と掴む。
「ぅわっ!びっくりした、どうしたの?」
「え?なに、なになに引っ張んないで?!うぉっ、ちょっ!ライ?!」
裾をしっかりと握りしめて目的地へ向かう。後ろで騒いでいるウェンを無視してずんずん進み、脱衣所へ到着した。何かあった? とオレに聞くウェンの方へ向き、がしっ と両手で裾を掴む。そしてそのまま一気に持ち上げて服を引っぺがした。ウェンの理解が追いついて追い付いていないうちに服を奪い取り、洗濯機の中に突っ込んだ。
「よし」
「よし、じゃないよ!なに急に!えっち!」
「はあ”っ?!そういうんじゃないし!!」
の○太さんのえっち! と ほざくウェンを風呂場に押し込んで、自分も残りの服を脱ぐ。洗濯機のスイッチを押し、タオルを2枚分用意してウェンのいる風呂場に入った。
突っ走ったこの行動が自らの墓穴を掘ることになるとも知らずに。
┈┈┈┈┈┈┈┈ wn
「ねぇ、ライ、ライってば。背中流すからこっちおいで」
風呂場の隅っこにしゃがみこみ、ぶんぶんと首がもげそうなほどかぶりを振るライ。
コンビニで買った物の水気を取っていたら急にライに連行されて、脱がされて、押し込まれて…で、今に至る。ただでさえ狭い風呂場に成人男性が二人。正直、なにやってんだ という話ではあるのだが、あのライが自らこんな大胆な行動を起こしてくれたことが嬉しくて、ここから出られずにいるのだ 。
すくっ と立ち上がったライが風呂場のドアノブに手をかける。
「ウェン、オレやっぱだめ、ウェンの後に入る。先にシャワー浴びて、お風呂入って?」
「ええー?!絶対やだ。ほら駄々こねてないで、大丈夫だから、ね?」
おいで、と声をかけながら体を引き寄せる。なんだかんだ抵抗のしないライが愛おしくて仕方ない。しかし近付いたら近付いたで、また動かず小さくなっているライにシャワーをかけながらシャンプーを適量手に取る。
「痒いところはありませんかー?」
「………」
「なに、もう口も聞いてくれないの?」
だんまりを決め込まれてさすがの僕も寂しくなる。手持ち無沙汰になり、シャンプーを泡立てて彼の綺麗な髪を丁寧に洗う。ライの目元に泡がいかないように細心の注意を払いながら。前髪をかきあげると、いつもは隠れているおでこが露わになった。新鮮な髪型に心がときめくのが止まらない。心を落ち着かせるためにシャワーヘッドを掴み、自分の頭に水をぶっかけた。
「え?ウェン、なにして…んブッ あはは!」
「…! やっと喋った!!」
僕の様子がよっぽどおかしかったのか、ライ吹き出した。その拍子に僕の出した水がかかったようで つめたっ!と呟く。それすらもツボに入ったのかひぃひぃ言っている。
「ねぇ、ちょっと笑いすぎじゃない?」
「だって、んふ だってウェンが、あはは!」
「もうっ!あったかいのもかけてやる!くらえっ!!」
温かいシャワーを彼の頭にかける。シャンプーを洗い流してやり、手で髪を梳くと、んふ とライは微笑んだ。ふと、我に返り、ライをじっくりと見つめる。
当たり前に服は着ていなくて、恥部を隠すように丸まった体はほんのりと火照っていて。落ち着くために被った水が蒸発してしまいそう、なんて思えるほどに僕は興奮してしまっていた。そして別の感情が込み上げて、彼の頬に手を添える。白く綺麗なおでこに触れるだけのキスを落とした。
「…へぁ 」
よっぽど驚いたのであろう。数秒フリーズしたかと思ったら、はあ”っ?! と大きな声でライは叫んだ。口をわなわなと震わせて、真っ赤なまぬけ面を晒す。
「ッふ、僕も頭洗うから体洗っちゃいな」
その顔がやっぱり可愛らしくて笑みが零れる。これ以上何かするとまた口を聞いて貰えなくなりそうなので、一旦引くとしよう。背中にじとりとした視線が刺さっている気がするけど気にしない。僕は適量のシャンプーを手に取り、頭を洗った。
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ずるい、ほんとにずるい!
勢いでウェンをお風呂へ連れ込んだのはいいものの、弄ばれて散々な目にあっていた。
無計画に行動したのが悪かったんだ。入った途端、羞恥心がカンストして何も出来なくなった。思ってた何倍もウェンと近くて、目すら合わせられなかったのだ。声も出せず、動くこともできない。それを察してか、ウェンがオレの気を緩めようと動いてくれた。あんなに緊張していたはずなのに、すぐにじわりと心が溶けて、幸せを噛み締めてしまう。
ふいに、ウェンが黙った。 縦長の瞳孔がきゅっとオレを捉えて、ぶわりと全身が粟立つ。心臓がうるさいほど脈打って、彼の鋭く美しい青から目が離せない。
──逃げられない、本能的にそう思った。
そのまま少しの沈黙が流れて、オレの頬に彼の手が伸びてゆっくりとウェンが近付いてくる。大きな手のひらを目で追って、撫でられた温かさを感じていると、おでこに柔らかい感触。オレの不意を突いてウェンがキスをしたのだ。突然のことに驚いて、口から空気が漏れる。脳で処理するのに時間がかかり、理解した途端溢れんばかりの羞恥に飲まれた。
それなのに、オレのことを振り回し続ける張本人はなんのことないようにけろっとしていて。悔しくて、寂しくて、既にオレから背けた体をぼうっと見つめる。
少し感じていたけれど、オレとウェンは愛の大きさが違う、 多分。好きだと言ってくれたけれど、オレを泣き止ませるためだったのかもしれない。距離の近さだって、彼は気にしていないことにいつまでもオレだけが囚われて。なにより、オレと触れ合ってもウェンの表情が変わらないのだ。いつもと変わらない大好きなはずの優しい笑顔に胸が苦しくなる。 オレが一方的に好きで、でもウェンはそこまででもなくて─
やめよう。今、ウェンがオレのことを見てくれている、触れてくれる、笑ってくれる、それだけで幸せなのだから。これ以上求めてはいけない。遊ばれてるのは分かっているけど、離れられないのはウェンのことが大好きだから。歪んでゆく視界を閉じてボディソープを手に取る。
大人しく、言われた通りに体を洗った。
┈┈┈┈┈┈┈┈ wn
「一番風呂はだめ!家主が先!オレは泊めてもらってんの!!なんならオレもう上がったっていいから!ウェンが使って?!」
「いーや?!ライ、ゲストだからね?!招いた身なんだわこちとら!お先にどうぞに決まってんじゃん!!」
お互いに体を洗い終わり、いざ湯船に浸かろうとライを見やると、また膝を抱えて縮こまっていた。無理に押し切って招いた身であるから、せめてもの もてなしがしたいのに先に風呂を使ってくれと伝えると、逆に上がろうとされる。
双方一歩も譲らず、見つめ合う。どちらも相手が好きで、笑顔になって欲しくて仕方がないのだ。故にぶつかり合う。
─そうだ。いいこと思いついた!
「はぁ…わかったよぉ、入る」
「…!うん、オレ上がるね。体冷えちゃっただろうし、ゆっくりしてね」
ホッとしたように胸を下ろすライの両脇に手を差し込み、引き寄せながら持ち上げる。急な僕の行動に驚いたライが声をあげた。
「ぅわ”っ?!ちょ、ウェンっ何?!」
「あっ、ちょっと?!ねぇってばぁ!!」
抱き抱えてそのまま浴槽に入る。流石に狭いが、体を伸ばさなければ入れなくもない。未だ理解の追い付いていないであろうライは ば しゃりと水を立てて僕から距離を取る。
「え、え?お オレ出るって言ったのに、ウェンもわかったって言ってたじゃん!」
「んふふ ごめんねライ。僕ライと一緒に入りたくなっちゃったの」
「…あっそぉ」
ふい、と顔を逸らす。と言っても濡れて露わになった耳が紅く染まっていて本心を物語っていることを彼は知らない。先程取られた距離を詰めるように湯船の中を動くと、それに気付いたライがびく と方を震わせる。
「…そんなにビビんないでよ、ライの嫌がることは絶対にしないからさ」
「………オレに嘘ついたくせに」
「っ、だってあぁでも言わなきゃライをお風呂に入れられなかったからさあ…」
顔を逸らしたことでこちらを向いた耳に向かってごめんね と囁くと、………なら許す とライが何かを呟く。小さな声を聞き漏らしてしまい、焦りながらもう一回と強請ると、ヤケになったのか僕の肩口にごつんと勢い良く頭をぶつけて声を出した。
「ッだからぁ!抱き締めてくれたら 、ゆるす、っていってん、の………」
言っていて恥ずかしくなってしまったのか、終わりには消え入りそうな声になっていた。
あまりの愛おしさに我を忘れ、素で かわいと口から零れる。目の前で強張った細い肩に頭を倒して抱き締めた。素肌に触れる髪がくすぐったいのか、軽く身を捩って僕の背中に手を回すライ。湯に浸かっていなかった部分がお互いの体温によって温まっていく。
体勢を軽く変えた際に、ライと目が合った。
「っあ、もう…終わり?」
体を離されると勘違いしたライか上目遣いで僕に問いかける。ちょっと意地悪したくなり、ずるい質問を投げた。
「僕はまだこうしてたいんだけど、ライはもういいの?」
「ちが、まだ…もうちょっとだけ」
甘えるのが苦手な彼の控えめな願いに胸がきゅんと疼く。褒める代わりに頭を撫でてやると、ライが僕を見上げた。何か伝えたいことでもあるのか、僕の顔を見ながら口をはくはくとさせて言葉を紡ごうとしている。
「…あ、のさ、これ…痛む?」
「─え?… あぁ、大丈夫だよ。全然痛くない!もう治ったと思う!」
予想外の質問をされて答えるのが遅れてしまう。それを怪しんだライが前にもされたように腕を伸ばして頬をなぞる。お湯でふやけた絆創膏が剥がれて傷が空気に触れる。やはり、少しぴりぴりとするだけで痛くはないのだ。心配そうに動く指先がくすぐったくて、その手を捕まえて指を絡める。
「傷、残っちゃったらどうしよう。もしそうなっちゃったら、オレ、一生償うから… 」
「っは!ライは大袈裟だなあ。こんなん唾つけとけばいいの!…でもライが一生一緒に居てくれるのは嬉しいかも」
「っオレは心配してんの!ウェンの綺麗な顔に傷付けちゃったとか本当に許せないし、謝っても謝り足りないし、それにッ─」
「はい、そこまでね。僕気にしてないから、もう忘れよう?そんなことより僕ライとキスしたいんだけど、だめ?」
相変わらず頑固なライを言いくるめて話を逸らす。既に鼻と鼻が触れ合う程の距離で話していたのだが、キスしたいと言った瞬間に顔を離すのは彼がツンデレだからだろうか。
「な”っ、はあ、今ぁ?!」
「ふはは、そう、今したい。─ そうだ、ライからキスしてよ」
「え?… オレから?!…… う”、わかったよ」
言ったもん勝ち という訳では無いが、僕はそう言うなり目、口を閉じる所謂キス待ち顔とやらを作った。ばしゃ、ぱしゃりとライが動く水音が聞こえる。多方キスしやすいように膝立ちにでもなったのだろう。小さいけれど豆のある男らしい手が僕の両頬に添えられた。くい と上を向かされて、思わずぎゅっと目を閉じてしまう。っフ と堪えたような温かい吐息が顔にかかるのを感じて、心臓が跳ね上がる。少しの時間のうち、ついに待ち侘びた瞬間が訪れた。それは本当に一瞬で、確かかどうかも怪しいけれど、目を開いて映る景色が全てだった。
「っうぅ”〜ッ… これで、満足?」
「…ごめん、嬉しすぎて泣きそう。大満足した、ありがとうライ」
羞恥心がカンストしたライがまた口を聞いてくれなくなったので、キスする前の抱き合う姿勢に逆戻り。けれど、どちらも多幸感に溺れていて表情は穏やかであった。
そうしてどのくらい経ったのだろうか、温かい体と短い呼吸、早い心音が何故か心地良くて頭が溶けていた。腕の中のライがくたりと逆上せていることに気付いたときには遅く全身を真っ赤にさせたライを抱え、慌てて風呂場を後にした。
コメント
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うわあ、第5話読み終わりました…!停電の暗闇でライが一気に本音をぶちまけるシーン、胸がぎゅっとなりました。「勘違いさせるようなことすんな」って言葉に、ずっと溜め込んでた想いが溢れてる感じがして。お風呂のシーンも、距離が急接近した二人の甘さと照れが混ざった空気感がすごく良かったです。ライの「ずるい」連発に全部ウェンへの愛情が詰まってて、読んでてこっちまで温かい気持ちになりました。白嵜さん、素敵な話をありがとうございます!