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◆◇◆

 

 

マリアンヌ嬢。

まさかお手紙をいただけるとは思わなくて、凄く感激しています。

けれど、お加減はよろしいんですか?

 

手紙を書けるくらい、良くなったと思っていいのでしょうか。

突然、倒れられて、何か粗相をしたのか心配になりました。

マリアンヌ嬢は幼い頃から、ご苦労が絶えなかったと聞いています。四年前の誘拐も含めて、そう感じざるを得ません。

 

そんなにお体が強くないのを知っていながら、婚約者とはいえ、王太子殿下を紹介してしまうなんて。私の配慮が足りず、申し訳ありませんでした。

 

お詫びに、我がバルニエ侯爵家で開くお茶会にいらっしゃいませんか?

お茶会と言っても、私とマリアンヌ嬢だけです。あっ、エリアスの同行も構いません。

 

もう一度、マリアンヌ嬢とお話がしたいんです。今度はゆっくりと。

 

良いお返事をお待ちしています。

 

レリア・バルニエ

 

 

◆◇◆

 

 

レリアからの返事は、侯爵令嬢が伯爵令嬢に宛てた手紙とは思えない文章と内容だった。身分が上だから、そもそも敬語は必要ない。

 

本当に、憧れを抱かれているんだね。

 

そんな気持ちがとても伝わる文面だった。もしもエリアスから事前に情報を聞いていなかったら、絶対に驚いていたと思う。

 

さらに気になることがあって、傍にいるエリアスに尋ねた。

レリアの手紙を持ってきたのは、他ならないエリアスだったからだ。

 

「ねぇ、この“体が強くない”ってどういうこと? レリアはウチで働いていたのなら、体が弱いわけじゃないって知っていると思うんだけど」

 

倒れたから、そう感じたのかなと思ったけど、ニュアンスが違うような気がしたのだ。

 

「あぁ、それは孤児院でのマリアンヌの認識を基準に言っているだけだから、気にしない方がいい」

「孤児院の、認識?」

 

何それ。初めて聞いたんだけど。

 

「……薄幸の令嬢だと思われているんだ」

「え? 私、そんなに幸薄く見える?」

 

確かに、この世界で初めて目にしたのは、お母様の葬儀だった……。お父様を助けてほしくてエリアスを探して……。

 

私はハッとなった。

 

「幸、薄いかも……!」

「いやいや、認めるなよ、そこは」

「だって……」

「そこは、俺に頼るべきだろう」

 

どうやって? と首を傾げると、とんでもない言葉が返ってきた。

 

「幸せにしてください、とかさ」

 

しかも、照れた顔で言わないでよ、エリアス!

こっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃない!

 

「う、うん。それで、マリアンヌはお茶会に行くのか?」

 

エリアスは一つ咳払いをして、話題を変えてくれた。私も耐えられなかったから、有り難かった。

 

「勿論! 私もこれを機にレリアと仲良くなりたいもの」

 

今更だけど私には、貴族社会で友人と呼べる存在がいないのだ。

 

子供でも社交の場はある。けれど、四年前はお父様から外出を控えられていたこと。

リュカのように、以前のマリアンヌを知っている者と出くわす可能性があることから、私も強く言えなかった。

 

二年前から今に至っては、外出を満喫している最中だ。

折角、異世界に来たのに、ずっと邸宅から出られなかったんだもの。

行ってみたいところは沢山あった。

 

とはいえ、曲がりなりにも私はカルヴェ伯爵令嬢。

一年と数カ月後には伯爵夫人だ。

……そ、その前にデビュタントもあるし。社交界で横の繋がりを作る必要があった。

 

今度は私がエリアスを支える番にならなくちゃね!

 

「……なら、俺も行く。多分、いや絶対にレリアは暴走すると思うから」

「ありがとう。手紙だけでも凄く伝わってくるから、エリアスがいてくれると助かるわ。これじゃ、聞きたいことも聞けるかどうか、怪しいもの」

 

礼拝堂で会話した時も、勢いに押されてしまったから。

 

「それともう一つ、気になることもあるしな」

「何が?」

「お茶会だ。マリアンヌにとって、あまり良い言葉じゃないだろう」

 

確かに、王子ルートはお茶会が鬼門みたいな話だった。

舞踏会よりも、お茶会は仲間内で集まるから、いじめが起こり易い。オレリアが裏で糸を引いていたから、マリアンヌは欠席したくても、できなかったのだ。

 

でも、オレリアはいないし、王子の元婚約者もいない。手紙を読む限りでは、レリアが私を陥れるようなことはしないと思う。

 

「うん。そうだけど、レリアは私と二人だけでしたいって書いてあるし。エリアスの同行も認めている。問題はないと思うわ」

 

むしろあるのは、私の方だ。淑女教育として、テーブルマナーは学んだけど、実践はこれが初めて。

憧れと思われているのなら、尚更失敗はできなかった。

 

「それに、これからはお茶会が怖いからといって、ずっと敬遠するわけにはいかないんだよ。少しずつ慣れていかないと」

「なら俺も、頑張らないとな」

「エリアスは十分、頑張っているじゃない。お父様の仕事を少しずつ、任されているって聞いたわ。無理し過ぎないでね」

 

ポールがいなくなってから、代わりの執事が見つかるまで、エリアスがその職務についていた。

 

今はまだ、伯爵の地位はお父様だけど、いずれはエリアスが引き継ぐ。

だから早々に執事を見つけなければならない。しかし、お父様はエリアスに合った執事を用意してあげたいと仰っていた。

 

ポールのような平民、もしくは孤児を卑下する人間ではない者のことを言っているのだろう。他にも条件があるのか、なかなか後任が決まらなかった。

 

「大丈夫。もう制限はなくなったんだ。疲れたら、マリアンヌに癒してもらうよ」

 

そう言って私を優しく包み込む。エリアスの鼓動を聞いて、逆に私の心が穏やかになった。

 

エリアスが支えてくれるように、私も支えたい。頼りにならないだろうけど。それでも――……。

 

目を閉じて、私もエリアスを抱き締め返した。

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