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「クンシラン公爵令嬢が聡明だとは存じておりましたが、そこまでとは……素晴らしい。では、その兵士たちのことを少しお話いただけますか?」
そう言われ、アルメリアは城内の兵士たちのそれぞれの顔を思い出しながら話し始めた。
「とりあえず、新入りの子達ではなく以前からいる兵士たちのことをお話ししますわね? まず私の領地出身のトニーですけれど、彼はとても足が早くて、その上持久力もありますわ、ですから伝達係がよろしいかと思いますの。それとウォリックですけれど、彼はとても純真な性格で騙されやすいですから、城内よりも自身の領地で自警団と警備にあたる方がよろしいかもしれませんわね。フランク、エリック、ライアン、ティム、トムは、剣術や体術に優れていて、しかも同郷なので同じチームの城内第一攻撃体へ入れるのが得策だと……それとゲイリーですけど」
そこでパウエル侯爵がアルメリアを制した。
「お待ちください。まさか城内の兵士全員の特徴を覚えておいでなのですか?」
アルメリアは頷く。
「えぇ、そうなんですの。私相談役ですのに、こんなことしかできなくて」
パウエル侯爵はそう答えるアルメリアをしばらくじっと見つめていたが、優しく微笑むと言った。
「今日は初日だったのでこんなに重要な情報を聞けるとは思わず、迂闊にも書記を連れてきておりません。今取り急ぎ呼びますからお待ちください」
そう言うと、背後にいるペルシックに視線で合図を送った。するとすぐに書記が呼ばれてきた。
書記の準備が整ったところでアルメリアは質問する。
「どこからお話しすればよろしいかしら?」
「何度もお話しするのは大変でしょうが、最初からお願いします」
「では、お話ししますわ。トニーですけれど」
そこでパウエル侯爵は、再度アルメリアを制した。
「すみません私の言い方が紛らわしかったようです。騎士団の編制の話からお願いします」
「編制のところからですの? 私はかまいませんけれど、そんなに重大なことは話してませんし、その話の内容でしたらいつでもお話しできますわ」
パウエル侯爵は苦笑した。
「貴女は自身がお話しされる内容の価値と、重要性をわかっていらっしゃらないようだ。貴女の発言は取りこぼしのないよう全て記録させる価値がありますよ。正直、貴女が敵国の人間でなくて本当に良かった。もしそうだとしたら、ロベリアは壊滅していたでしょうね」
そして頷くと、呟くように言った。
「それにしても、殿下が貴女にこだわる理由がよくわかりました」
その後、アルメリアは最初から全てゆっくりと書記に説明して話した。この日は結局これで話し合いが終わった。こんなことで本当に役に立てたのか不安に思ったが、パウエル侯爵は満足した様子だった。
「しばらくこちらに通わせていただくかもしれません。通う日は前日に連絡を入れるようにしますので、ご予定があるときは仰ってください。では今日はこれで失礼いたします」
そう言って頭を下げた。と、そのとき横で黙って話を聞いていたリアムが口を開いた。
「アルメリア、今日は昼食をご一緒できませんか?」
パウエル侯爵は微笑みながら首を振ると、リアムに言った。
「リアム、突然食事に誘うなど失礼だぞ。クンシラン公爵令嬢にもご予定があるだろう。それに、殿下がなんと仰るか」
リアムが執務中に食事に誘うのは始めてだったので、アルメリアはなにか話したいことがあるのだろうと思った。
「侯爵、大丈夫ですわ。城内ではリカオンも控えておりますし、二人きりになることはありませんから」
そう言って微笑んで見せた。パウエル侯爵は申し訳なさそうに頭を下げる。
「そういうことなら、宜しくお願いします。リアム、失礼のないようにな」
そう言って自身の執務室へ戻っていった。その背中を見送るとリアムはアルメリアに向き直った。
「突然の申し入れなのに、聞き入れていただいてありがとうございます」
「いいえ、いつも一人で食事ですもの。他の方と食事するのも楽しいものですわ。お誘いありがとう」
手を差しだすと、その手を取ってリアムはアルメリアをエスコートし、専用の食堂へ向かった。
食事中は天気の話や、ルーカスの治療法など当たり障りのない会話をし、二人とも料理を堪能した。一通り食事が運ばれ、デザートに差し掛かったときにリアムが真剣な顔で言った。
「そう言えば殿下が最近、クインシー男爵令嬢と接触しているようなのです」
アルメリアも、ペルシックからムスカリがダチュラと接触し始めたとの報告を受けていたので、その件は知っていた。
「そのようですわね」
「はい。ですがおかしいと思いませんか? あんなにもアルメリアとの婚約を望んでいる殿下が、隠すことなく他の令嬢に興味のあるような行動をなさるなんて」
確かに、そう言われればそうかもしれない。だが、恋は盲目と言うように、ムスカリがダチュラに一目惚れしたのなら、政略結婚せねばならないアルメリアのことなど気にしなくなるだろう。惚れた相手に夢中になり周囲の目もかまわず、ダチュラを追いかけるのではないだろうか。なんと言っても、アルメリアの記憶にあるゲーム内のムスカリがそうだった。
「きっと殿下は恋をしたのではなくて? それならそれで素敵なことではないかしら」
アルメリアのその返事にリアムは複雑な顔をした。
「本当にそうならば、なぜ殿下はアブセンティーに通うのでしょう? そもそも私は殿下が、恋をしたからといってなりふりかまわず一人の令嬢に入れ込むとは思えません。それに本当にそうなら、アブセンティーに参加しなくなるのではないかと思うのです」
それを聞いて、アルメリアは苦笑した。
「そんなこと、わかりませんわ。アブセンティーに参加しているのは、政略的なものかもしれませんでしょう? ところで、リアムもクインシー男爵令嬢とお会いしたことはありますの?」
リアムは困惑した表情になった。その表情を見てアルメリアは、リアムもダチュラに接触したに違いないと思い、率直に訊いてみることにした。
「リアムは、クインシー男爵令嬢にどんな印象をもちまして?」
「まだそんなに親しくもありませんから、なんとも言えません」
歯切れの悪いリアムの返事に、もしかするとリアムもダチュラに惹かれているのかもしれない。と、そんなことを考えた。
「リアムが殿下の行動を不思議に思う気持ちもわかりますわ。ですけど殿下のなさることですもの、なにかしらのご意向があるのかもしれませんわね」
「はい、そうですね。なぜか嫌な予感がしたもので、アルメリアの意見が訊きたかったのです。確かにもう少し様子を見た方が良いでしょう」
そう言うと、リアムは突然アルメリアに優しく微笑みかけた。
「どうしたんですの?」
「いいえ、最近こうして二人だけの会話を楽しむ余裕がなかったですね。せっかくですから、この二人の時間を楽しみましょう」
リアムは熱っぽくアルメリアの瞳の奥を見つめる。あまりにも真剣な眼差しで見つめるため、アルメリアはどうして良いかわからずそのままリアムを見つめ返した。
そのときリカオンが口を挟んだ。
「厳密には二人きりではありませんよ。お嬢様、早く食事をすませませんと、午後の予定が押しますよ」
リカオンに言われアルメリアは、はっとして時計を確認した。
「あら、本当ですわね。急がないと、もうすぐアブセンティーの時間ですわ」
アルメリアは急いでデザートを食べると、慌ててみんなを迎える準備をした。
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