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「お帰りなさいませ。お客様」
クロノアさんの過去を見た俺。そんな俺は、何とも言えない感情に浸っていた。クロノアさんの病気。それは俺も初めて知った。きっと、話したくなかったのだろう。
俺がそう考えて黙っていると、マオさんは、
「さて、お次は天乃 絵斗さんですか?」
「えッ……、俺、なんにも言ってませんよ?」
「問答無用です。彼の生き方に強く憧れていたでしょう?」
「それは……、そうだけど、」
だけど、もう、誰かになるのをやめたい。こんな風に、クロノアさんの話したくなかった過去を漁って、強引に見て、そんな俺が、大ッ嫌いだ。ワケがあって話さなかったはずなのに。俺が……、壊した。
「お客様。まだ、自分のことをそんなふうに思ってらっしゃるのですか?」
「ぇ、?」
「でしたら、彼の生き方を見ていってください。」
トンッ と優しく背中を押される。
「扉の向こうは、彼の過去です。いってらっしゃいませ」
この人は何をしたいのか。よく分からない。でも、貴方が言うなら……と彼の優しい物言いは説得力を持たせてしまう。一瞬、逡巡した後、ドアノブに手をかける。
「………、いってきます」
すると、優しい笑みを浮かべて、
「いってらっしゃいませ」
と包み込むような声で言った。ドアを押して外に出る____
「……、ぅ」
眩しい光に目が眩む。ゆっくりと目を開く。すると、少し見慣れた風景が広がっていた。
「あれ?………ここって……、?」
もう一回周囲を見渡す。やっぱり、そうだ。そうなんだ。
「ッ!うそ、なんで……、?」
ここは、ぺいんとの近くのでっかい公園だ。この公園、最近できたはずなのに……しかも、俺の身長も現在とあまり変わらない。じゃあ、意外と過去じゃない、ってことだ。
「何がしたいんだよ……マオさん……、」
俺は両サイドに常緑樹の生えた並木通りを歩く。
「ぁ……ッ、」
ふと顔を上げると、ベンチにぺいんとが座っていた。それも、涙ぐみながら。
「ッ、ヒック……ッウッ、」
「…、だ、大丈夫ですか?」
ちょこんと隣に座る。どこかで落としたのか今ハンカチを持ってない。どこで落としたんだっけ?
「……、放っておいてください」
「……、そっか。」
でも、俺はそのまま立ち去ることも出来ず、ずっと座っていた。
「…、なッ、何なんですか、貴方?放っておいてくださいよ!」
「、天乃さん、俺はずっとここにいるだけだから。何も気にすることないよ。」
「は?気にせざる終えないでしょ?ッ…、」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」
少し驚きながらも、ぺいんとは目線を下に向ける。
暫くして、落ち着いてきたのか、自分のことについて話し始めた。
「……、なんで、」
「?」
「なんで、こんな俺なんかに構ってくれるんですか、?」
「なんで、って?」
「…、俺、実況者、なんですよ。」
唐突にでも、耳を傾けてしまうもので、俺は黙って聞いていた。
「ごめんなさい。知らない人にペラペラ喋るものじゃないんですけど、」
いや、それが知ってるんですけどね? と思いながら、続きの言葉を待った。
「増えていくリスナー、大きくなっていく期待。最初は趣味程度で始めたんですけどね。でも、気づいたら、大舞台に立っていた。」
「ぺ…、あ、天乃さん……、」
「その中で必死になって、メンバーの気持ちに気付かずに、それで、喧嘩になって、それで……、壊れた。」
ギュッ と唇を噛んだ。【壊れた】その三文字がとても重く、俺の心を締め付けた。
「…、今、活動休止してるんですけど、もう、なんか、復活してくて、いいかな、って……ッ」
そのぺいんとの横顔は、諦めたように儚かった。
「無理なんですよ。どうせ。最初は楽しくって始めたんです。そんな軽々しい思いで、大舞台に、立って良いんかな、って…、」
……、今、俺は、彼になんて言葉をかけたら良いのだろう。比べてはいけないけど、クロノアさんや、しにがみさんの過去は、周りが悪い、という部分もあったけど、ぺいんとの悩みは、自分自身だ。
俺は、暫く逡巡した後、優しい声で言った。
「……、諦めちゃうんですか?」
「え、?」
「ここまで、趣味程度とはいえ、頑張ってきたでしょう?」
「……、それは、まぁ、そうだけど、……」
「ここまで、築き上げてきたでしょう?」
「でも!期待が……、重くて…、」
なるほど。スランプが8割。クロノアさん達との互い違いが2割ってところだな、と純粋に考えてしまった。
「期待なんて、どうでも良くない?」
「ッ…、!……、わかるわけないだろ!お前には!大舞台に立って、段々と期待が増えていくことの不安!そりゃあ、ちょっとは嬉しいけど…、」
「嬉しいんでしょ?」
「ッ……、」
ぺいんとは何も言えなくなる。そうなんだ。嬉しいんだ。俺も、最初は嬉しかった。けれど、あまりにも大舞台で、足が竦んでしまった。
「本当は、本当は撮影、したいんじゃないの?」
「ッ……、」
「自分の感情に素直にならなきゃ。自分は、何がしたくて、何を求めてるの?もっと、ワガママになっても良いんじゃない?」
息を呑む声が聞こえた。そして、暫くしてすすり泣く声が響いた。
「……、ぅん、みんなとッ、一緒に、撮影ッしたい……ッ」
「じゃあ、その思い、皆に伝えなきゃ」
「でも、皆、そう思ってないかも、しれないし……、」
「きちんと、皆と向き合って。話し合わなきゃ」
「むきあう……、」
ぺいんとがリピートした後、何故か俺もドキッとさせられた。なんでだろう?俺が言ったくせに俺が心に刺さっている。
俺は、何と向き合ってないんだろう?
「だからさ、皆と向き合おうよ。きちんと。真正面から。」
「でも、俺のこと、嫌いにならないか、不安で、……、」
「長い付き合いなんでしょ?きっと、相手も受け入れてくれるよ。」
ぺいんとは、考える仕草を見せた後、ほくそ笑んで、
「そうかも。俺、ちゃんと向き合ってなかったんだなw」
「でも、意外だな。天乃さんがそんなこと考えたことがあったなんて」
「失礼だな!俺も、悩んでるよ。悩みがない人間はいない。」
「ッ…、」
「神様は、意地悪で、人々の悩みとか、苦しみとか、平等にしてくれないんだ」
まあ、確かに。世界には、俺よりもっと苦しんでる人も居れば、俺よりもっと豪華な悩みに苦しんでる人がいる。
「…、でも、俺の友人が、言ってくれました。その世界の皆を見て、自分自身を我慢しちゃダメだって。」
高校生のクロノアさんがね。
けれど、ぺいんとは驚いたような顔をした。
「それ、クロノ……、俺の友人も言ってました 」
「そうだったんだw」
「…。貴方は?」
「え?」
ぺいんとの目が俺の目を貫いた。
「人には、悩みがあるんでしょう?貴方は、誰に相談してるの?」
「俺ッ…、は…、」
一回、ぺいんとに相談しようと声を出してみたことがある。だが、マネージャーからの電話で中断されてしまった。それからは、何も相談していない。でも……、今度は……、
「、俺は、自分が、どうしようもなく、嫌いです。多分、このままだったら、一生、嫌いなままだと思います。」
俺は全部話した。まぁ、名前とか、そこら辺は濁してね。
どうせ、記憶が無くなるんだ。だったら、本人に、俺の人生を大きく変えた本人に、俺がこうなってしまった原因とも言える本人に、話したいな、って…。
「結局ッ…、勝手に皆を妬んで、ッ勝手に想像して……ッ勝手に見て……、そんな俺が、大ッ嫌いなんです。」
「それは違うよ」
突然の否定。ぺいんとは、何故か泣いていた。
「それは、違う。俺も、妬んだよ。俺も、勝手に皆は俺より恵まれてるやつって想像したよ。そんな自分が、嫌いになったよ」
ぺいんとは泣きながら訴える。けれど、目線は俺から離さない。
「でも、自分を嫌ってたら、何も始まらない。それこそ、自分自身を『受け入れる』んだよ」
「自分自身を、受け入れる……、」
「うん。俺は仲間を受け入れなかった。対して君は、自分を受け入れてない。」
「……、」
鋭く、でも、事実だから、何も言えなくなる。
「自分自身のこと。過去に犯してしまった過ち。自分のコンプレックス。自分のどうしようもないところ。すべてを、受け入れて、自分のものにするんだよ」
「そんなの……、できないッ…、」
「できるよ」
ハッ と顔を上げる。そのぺいんとの顔は美しく、綺麗で、本当、羨ましいくらいに輝いていた。
「なんとなく、貴方はきっと、いつか成功します!多分、絶対、確実に。」
「その根拠はどこから…、」
「うーん……、」
少し、ぺいんとは顎に手を添えて考えた後、思いっきりの笑顔で、
「俺の感、かな!!」
「……、」
思ってもいない、180度反対の答え。思わず俺はポカンとした後、思わず吹き出してしまった。涙が滲んできた。笑いすぎたせいだ、多分。
なんでぺいんとはそんな根拠のないことを言うんだろ。でも、その根拠のない自信に俺は救われてしまった。そんな自分が、すごく、馬鹿馬鹿しく思えた。
「ありがとう。天乃さん。俺、自分自身を、……、今はまだ、好きになれないし、こんな自分を受け入れられないけど、向き合ってみるよ。」
「その答えが聞けて、俺は嬉しいよ。俺は、皆と向き合って、受け入れる。正直、リスナーの期待は重いし、応えられない時があるかもしれないけど、きちんと、向き合うよ。」
と宣言し、小指を俺に向けてきた。
「?、」
「やだなぁ!指切りげんまんだよ。ここで貴方と会ったことは、忘れない。ここで宣言したことも、放棄しない。」
ニパッ と花が咲いたように笑顔になり、俺に小指を出すように促す。
「約束!!」
「………、ふふっ、うん。いいよ」
俺とぺいんとは小指を絡ませた。
「ゆぅーびきりげんまーん嘘ついたら肩パンすーるぞ、指切った!」
「肩パンすんの!?」
「肩パンが1番合うでしょ?」
「なんだよwそれw」
俺等は、少ない時間で楽しさを分かち合える友達になった。受け入れる、それが、俺達に掛けられた【約束】である。その約束をいつか達成させる。そうじゃないと……、肩パンされるからねw
「あれ?もうこんな時間だ」
ぺいんとが空を見上げて言う。空は綺麗なオレンジ色が遠くの遠くの空まで広がっていた。
その時、鐘の音が聞こえた。もう、時間か……
「俺、行きます。ありがとうございます。天乃さん」
「いや!こっちこそ!よければ、連絡先……」
「、天乃さん、約束ですよ?」
「え?うん?」
「またね!ぺいんと!」
「あっ、ちょっ、待って! 」
「え、?消えた……?」
俺……、天乃絵斗、またの名を、ぺいんとは、誰かと話していた。
「てか、なんで、俺の名前、あの人知ってたの……?」
なんで、天乃さん、って…、最後は、ぺいんとって呼んで……、
「って、何、言ってんの?俺、」
俺はここに、リフレッシュしに来たんだ。何となく、公園で。
俺はスマホを取り出して時間を確認する。
「何、してたんだろ、?」
ふと、マインクラフターの日常の皆のことが頭によぎった。
「撮影、したいな……、」
俺はいつの間にかクロノアさんに電話を掛けていた。
「もしもし?クロノアさん?久しぶり。」
自分でも、何してんだよ、と思っていた。
「あのさ、クロノアさんの意見、もうちょっと聞かせてもらえない?俺、撮影したいんだ。誰もが、気分が良くなるような、撮影方法で。」
クロノアさんは、驚いた様子だった。そりゃあそうだろう。急に電話を掛けてきたと思えば、撮影しよう、だなんて。
「うん。しにがみにも伝える。え?急だって?俺でもなんで今なのか分かんない。ただ……」
俺はオレンジ色の空を見あげながら、宣言した。
「皆のこと、もっと受け入れてみようかな、って。」
そして、もう一つ。俺はある人のことが気になっていた。
「あのさ、トラゾーって知ってるでしょ?あいつも、仲間に入れないか?………え?突然だって?なんとなく、あいつがいたら、もっと良くなるような気がするんだ。」
トラゾー……そいつは、俺の手伝いをしてくれる仲間だ。あいつはいつも、どことなく、元気がない。だから……、
「力になれたら、って、余計なお世話かな?」
まあ、今度誘ってみよう。
でも、俺の感によると………、
あいつはきっと、日常組を引っ張ってくれて、俺達の力だけじゃ見れない景色を見させてくれるんだ!!
そして、その俺の感は見事に的中する。
そんな、気がした。
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