テラーノベル
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保健室のカーテンは、いつも半分だけ閉まっている。
「……またお前か」
ベッドの横に立ちながら、俺はため息をついた。
「こんにちは、じゃなくてそれ?」
寝ていたやつ——白石が、少しだけ笑う。
「毎回倒れて運ばれてくるやつに、優しい挨拶するほど暇じゃねえ」
「ひどいなあ」
そう言いながらも、白石はどこか嬉しそうだった。
白石は、よく倒れる。
詳しい病名は知らないけど、体が弱いらしくて、
少し無理するとすぐに熱を出したり、立てなくなったりする。
最初はただのクラスメイトだった。
保健委員の当番で運ぶのを手伝った、それだけ。
でも——
「水」
差し出すと、白石はゆっくり起き上がる。
「ありがと」
その動きがあまりにもゆっくりで、思わず眉をひそめた。
「無理すんなって何回言えば分かるんだよ」
「無理してないよ」
「してるからここにいるんだろ」
言い返すと、白石は少しだけ黙って、それから小さく笑った。
「……怒ってくれるの、君だけだよ」
その言い方が、妙に引っかかる。
「他のやつらは?」
「優しいよ、みんな」
「でも?」
聞くと、白石は少しだけ視線を逸らした。
「気を遣うから」
その一言で、なんとなく分かってしまった。
「……俺は遣ってないみたいな言い方すんな」
「遣ってないでしょ」
即答だった。
「遠慮なく文句言うし」
「それは——」
言い返そうとして、止まる。
確かに、そうかもしれない。
「でも」
白石が続ける。
「それが楽」
その言葉に、少しだけ言葉を失った。
それから、保健室に来る回数が増えたのは、
たぶん偶然じゃない。
白石が来る日を、なんとなく覚えていて、
気づいたら顔を出している。
「今日、倒れてないな」
ある日、教室で声をかけると、白石は驚いた顔をした。
「来てほしかった?」
「別に」
即答すると、くすっと笑われる。
「素直じゃないね」
その日の帰り道。
珍しく一緒になった。
「外、あんまり出ないんじゃなかったのか」
「今日は調子いいから」
そう言うけど、歩くスピードはかなりゆっくりだ。
「……危なくなったら言えよ」
「うん」
少しの沈黙のあと、白石がぽつりと呟く。
「ねえ」
「なんだよ」
「もしさ」
そこで言葉を区切る。
「俺が、ずっとこんなだったら」
「どうする?」
意味が分からなくて、少しだけ眉をひそめた。
「は?」
「ほら、急に元気になるとかじゃなくて」
「ずっと迷惑かける側だったら」
その言い方に、少しイラっとした。
「お前さ」
足を止めて、白石を見る。
「なんで勝手に迷惑って決めてんの」
白石が少しだけ驚いた顔をする。
「別に」
言葉を探しながら続ける。
「勝手に倒れるのはムカつくけど」
「……来なくなるほうが困る」
言ってから、自分で何言ってるんだって思う。
でも、もう止まらなかった。
「保健室、静かすぎてつまんねえし」
「お前いないと、なんか調子狂う」
白石は、しばらく何も言わなかった。
それから、ゆっくり笑った。
「それ、遠回しに必要って言ってる?」
「うるせえ」
顔を逸らす。
「……でも」
小さく続ける。
「そういうことだよ」
風が、少しだけ吹いた。
「そっか」
白石が、すごく優しい顔で笑う。
「じゃあ、もう少し頑張ってみようかな」
「無理すんなって言ってんだろ」
「頑張りすぎない程度に」
そのやりとりが、なんだかちょうどよくて。
完璧じゃなくていい。
強くなくてもいい。
ただ、隣にいられればいい。
そんな関係だった。
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