今日は、朝からすこぶる体調が悪かった。
目が覚めた時から頭痛がするし、からだも怠い。
このままベッドの上でだらだら過ごせたらどんなにいいかとは思うものの、勿論そうはいかない。山積みの仕事は待っちゃくれないし、それに今日は、夢にまで見た初冠番組の収録もある。
「…っし、」
気合いを入れて、油断したら閉じてしまいそうになる瞼を無理矢理こじ開け、ベッドから這い出す。
身支度を簡単に整えて迎えの車乗って、現場へ。
そして到着するやいなや、楽屋ではじめて顔を合わせたのは、よりによってリーダーだった。
(…ほんと、なんでよりによって)
それとなく顔を逸らしながら仁人に軽く挨拶して、先にメイクをするためその場を離れようとすると。
「…勇斗。」
やっぱり仁人は、何か言いたげな顔で俺の腕を掴んで引き留めた。
「…なに?俺先メイク行きたいんだけど」
「お前、俺になんか言うことないの」
俺の言ったことなんか無視して、仁人はサングラスとマスクとニット帽で隠せるだけ隠した俺の顔を覗き込み、問い掛けてくる。
やっぱりなと、軽く舌打ちしたい気持ちを抑えて、平静を装う。
「別に、なんもないけど。」
「なんもないことないでしょ」
「ねぇもんはねぇし。いいから離せって」
なかなか離してくれない手を振り解こうとすると、それを察して仁人は語気を強めた。
「体調、よくないんだろ。」
「…は?んなこと、」
「お前さぁ、どんだけ一緒にいると思ってんの。分かるから、そんぐらい」
まじでキレる5秒前くらいの圧で言われ、改めてやっぱりこいつには隠せないかと、降参のポーズで苦笑いして見せる。
「……バレたか」
「バレたか、じゃねぇよ」
はぁ、と呆れた顔で大きなため息をつき、仁人はやっと俺の腕を離した。
「ちょっと待ってろ、スタッフさんと相談して収録別日にできるか聞いてくるから。それが無理なら、勇斗抜きでって頼んでくる」
そう言って楽屋から出ようとする仁人の腕を、今度は俺が掴んで引き留める。
「やめろ仁人」
「勇斗!」
「伸ばしたって別の仕事あるから調整きびいし、俺らの初冠だぞ。全員いなきゃ始まんねぇだろ」
それに。
体調崩して仕事に穴開けるなんて、俺のプライドが絶対に許さない。
「けど…」
「絶対無理はしねぇって約束する」
真っ直ぐに仁人の目を見つめてそう告げると、仁人は開きかけた口をつぐんで、きっと色々言いたいであろう言葉を飲み込み、渋々頷いてくれた。
「…分かった。でも、本当に無理そうだったら引きずってでもやめさせるからな」
どこまでも真剣な目。
ほんとさすがだなぁ、ブレーキの自負がすごい。
きっとやりすぎたら、マジで引きずられて止められんだろうなと、ちょっとおかしくなって笑えてくる。
「ありがとリーダー。なんかあったら頼むわ」
「なんかあられちゃ困んだけど。」
その後、まさかの肉体労働な企画に冷や汗が出つつもなんとか収録は進んで。
ところどころ、ヤバイかもって時にはいつの間にか側にいた仁人に脇を支えられながら、エンディングまでこぎつけた。
あとひとやまば。あとひとくだり。
終わりまでのカウントダウンを始めたころ、目の前がチカチカしだして、ふわふわと自分の身体の感覚が遠のいていく。
まずいか、これ。
どこか人ごとのように感じているうちに、がくんと膝が折れ、自分の身体を支え切れず前のめりに倒れ込む。
…やったわ。
頬にあたる人工芝の感触。
気持ちは立ち上がらなきゃと焦るのに、自分の意思じゃ、指一本も動かせない。
どこか遠くで、必死に自分の名前を呼ぶ声がいくつも聞こえて。
大丈夫だよ心配すんなって答えようとする前に、視界が完全に、ブラックアウトした。
目を開けると、見覚えのない白い天井。
「起きた?」
降ってきた声の方に顔を向けると、苦いモンでも食ったみたいな、なんとも言えない顔をした仁人が、パイプ椅子に腰掛けてこちらを見下ろしていた。
「あれ?おれって…」
まだぼんやりとする頭でなんで寝てんのか考えていると、溜め息混じりに仁人が答える。
「倒れたんだよお前」
…たおれた?俺が?
その言葉に、一気に収録のことを思い出して、両手で顔を覆う。
「……まじでか。やってんな俺…」
なんちゅー失態。意識無くすのなんていつぶりだ?いや、てか。
「え、収録は?」
「ちゃんと終わった。カットかかった後だったからなんの問題もないって」
「…太智と柔太朗と舜太は?」
「めっちゃ心配してたけど、俺がついてるからっつって先に帰らせた」
とりあえず大事にはなっていなさそうで、ほっとすると同時に、無性に申し訳なさといたたまれなさに襲われる。
「…情けねぇとこみせちまったなぁ」
「どこがだよ。」
間髪なく飛んできた鋭い声に、驚いて仁人を見上げる。
「今のお前見て誰が情けないなんて思うかよ。そんだけ死ぬ気で頑張ってんだろ、間違ってもそんなこと言うな馬鹿」
まじだ。これ、まじでキレてる。
「モウシワケゴザイマセンデシタ…」
なかなか拝めないガチギレの仁人から、顔を隠すように布団を目もとまで引き上げる。
いや、言ってること優しいんにさすがに顔面が怖すぎるて。
そんな俺をしばらく怖い顔で睨んだ後、仁人はふっとその表情を崩す。
「…いや、謝るのは俺の方だわ。ごめん、はやと。俺のミスだ、やっぱあの時止めときゃよかった」
逆に申し訳なさそうに謝る仁人へ、首を傾げる。
「なんでそうなんの。仁人のお陰で仕事穴開けずにすんだし、収録中も支えてくれてたっしょ、あれまぁじ助かった」
「でも…」
「でももなにもねぇわ。こうして今も助けられてるわけだし?感謝しかねぇんだけど」
ほんとありがとなじんと。
布団を押し除けて、にっと笑ってみせると、みるみるうちに仁人の顔が歪んでいく。
「ははっ、なァんでお前が泣きそうなん」
ばしんと仁人の肩を叩く。
「泣くなよじんとォ」
「泣いてねぇよ。…でも、次はねぇからな。俺がヤバイって思ったら殴ってでも止める。」
「こえ〜わ」
「うるせぇ」
そう言い捨てて、仁人は突然ベッド脇にがばりと突っ伏した。
「じんと?」
「……勇斗さぁ、お願いだから無理しすぎんな」
「お前が倒れんのなんて見たくないよ」
「心臓、もたねぇんだよ」
ぼやくように呟かれる言葉を聞きながら、微かに震える後頭部へ、そっと手を伸ばす。
ちょっと、ブレーキの自負が強すぎんもの考えもんかもな。
「…心配かけてごめん、俺は大丈夫だから」
ありがと、仁人
限界かもって思う日でも、
こうやって心配してくれる君がいるから。
だから、もっと頑張れるんだって言ったら。
君はきっと 怒るんだろうな。
end.
愛を込めて。
なんでこう納得いかないんだろうか、、
文章力がおっつきませんでしたが素敵なリクエスト、本当にありがとうございました!
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