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――三日目の朝。
「……あれ?」
ベッドから窓の外を見てみると、すでに陽が高かった。
多分、これは12時くらいの高さ――
……部屋の時計を見てみれば時間はその通り、12時3分を示していた。
おお、1・2・3が並んでいる……というのは置いておいて、これは豪快に寝過ごしてしまったようだ。
昨日の夜は遅かったし、そもそもその前の日だって、たくさん寝たとは言い難い睡眠時間だ。
今日は最大のイベントもあることだし、きっとこの寝過ごしは必要なことだったのだろう。
……大体ジェラードのせいのような気もするけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ママ、おはよーなの!」
「アイナさん、おはようございます!」
食堂に行くと、リリーとエミリアさんが出迎えてくれた。
サンドイッチなどの軽食と一緒に、エミリアさんのまわりには露店で売っていそうなメニューが並んでいる。
「おはようございます。
……えっと、これはどういう状況?」
「メイドさんが、アイナさん用に軽食を作ってくれたんです。
いつでもすぐ食べられるように……ということだったんですけど――」
「思いっ切り寝過ごしてしまいました……。
それで、こっちの露店メニューは?」
「これはわたしとリリーちゃんの昼食です!」
「もしかして、買ってきたんですか?」
「はい! アイナさんが起きてきたら、一緒に食べようかなって思って」
「なの!」
「ありがとうございます、それじゃ食べちゃいましょうか。
ちなみに、他の人はどうしてます?」
「お屋敷にいるのはセミラミス様くらいですね。
ルークさんは仕事に行かれましたし、ジェラードさんは『海を見たい……』ってどこかに行っちゃいました」
「海……。
……まぁ、すぐそこにありますけどね」
嫌なことがあったとき、海を見に行くのは鉄板だ。
でも、海が地元にあったらどうするんだろう。遠くの海に行くものなのかな……。
そのまま食事をとりながら、リリーの昨日の話を聞いていく。
演奏会を2回も聴いたほどだし、その語り様は熱かった。
さすがに|語彙《ごい》が少ないから多少繰り返しに聞こえたりもしたけど、それでもしっかりと言いたいことは伝わってきていた。
もしかしてリリーは将来、音楽の道に進むかも?
……なるほど、親っていうのはそうやって、子供に期待していくものなのかもしれない。
ま、私としては楽しく元気にやってくれていれば良いんだけど。
――そして気が付けば14時過ぎ。
楽しい時間はどうしても早く過ぎてしまうものだ。
「……ところで今日は、どうしますか?
私は16時頃にポエール商会の方に行かなければいけないんですけど」
「わっ、そうするとあと2時間くらいですね!
でも昨日で大体のところはまわりましたし、あとはセリシアちゃんの露店……くらいでしょうか」
「そうですね。それじゃ、まずそこに行くとして……。
……そこでのんびりしたら、時間になっちゃうかな……。
リリーはどうする?」
「今日はね、人魚さんの島に行くの!」
「あはは、人魚さんと仲良しになったんだね?」
「なの!」
人魚たちもきっと、昨日の演奏会で精神的に疲れていることだろう。
今日はのんびりしているのかな?
「じゃ、マイヤさんたちによろしくね。
私も凄く感動したって、それも伝えて欲しいな」
「分かったの!」
元気良く言うリリーに、手土産のきんつばを持たせて……。
あ、もしかして今日は、人魚たちで打ち上げとかやるのかな?
……スケジュール的に、絶対参加できないんだけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ガルーナ村の露店の場所は、午前中にエミリアさんが調べておいてくれたらしい。
しかも遠目で見るだけで、再会は私と一緒に……という配慮付きだ。
「アイナさん、あそこです!」
エミリアさんと一緒にその場所に行くと、懐かしい顔ぶれが集まる露店を見つけた。
実際に会うのは一年以上振り。まさに再会、そんな感じがしてくる。
「こんにちはー」
「はい、いらっしゃいませ!
ここはガルーナ村の工芸品を売っていますよ!」
私が挨拶をすると、威勢の良いおじさんが返事をしてきた。
……うん、知ってる知ってる。このおじさん、私が診た記憶がある。
そして品揃えの中に、こっそりと紛れ込んだ例のアレ。
おー、まだ作っていてくれたんだ。お姉さん、とっても嬉しいよ。
それはもちろん、ガルーナ村の名産――にしたかった、ガルルンの置物だ。
「これ、売れてます?」
私は迷うことなく、おじさんに聞いてみた。
「はい、一部でとても人気があるんですよ――
……って、あれ? アイナ様! アイナ様じゃないですか!!」
「あはは♪
どうも、お久し振りです。お元気してました?」
「ももも、もちろんっ! お久し振りです!
来てくださったならすぐに言って頂ければ良かったのに!!
村長ーっ!!」
そのおじさんは挨拶もそこそこに、慌ただしく村長を大声で呼んだ。
村長……というのは、私とルークがガルーナ村で最初に話したランドンさんのことだ。
しばらくすると、ランドンさんが小走りでやってきた。
どうやらこの一帯は、ガルーナ村で出している露店のようだ。
「――大声を出して、どうしたんだ?」
「いやいや、村長! こちら! アイナ様!」
「え?
……おお、アイナ様! お久し振りです、ランドンです!!」
「お久し振りです!
収穫祭が終わってからお話を――っていうことだったんですが、露店も見てみたくて。
ちょっとだけ、お邪魔しています」
「それはそれは、ごゆっくり!
何というか、何からお話すれば良いのか……。
私ども、たくさんお世話になっておきながら、アイナ様の大変なときには何もお手伝いすることができませんで……」
「あはは。私もさすがに、ちょっと想像以上のことがいろいろ起きてしまって……。
だから、ランドンさんが気を病むことは無いですよ。怖がらないでいてくれれば、それだけで大丈夫ですから」
「怖がるだなんて、そんな――
……いえ、アイナ様もいろいろと有名になってしまいましたからね。
しかし、うちの村でアイナ様を怖がる者なんていませんよ!」
「ありがとうございます。
これからも御縁があれば、ガルーナ村のみなさんとも上手くやっていければと思っています♪」
「それはありがたいお申し出……。
――さて! アイナ様に会いたいという者なら、いくらでもいるんですよ。
ちょっと呼んできてもよろしいですか?」
「はい、もちろんです。
セシリアちゃんにも会いたいんですけど、いますか?」
「一番会いたがっていたのはセシリアですからね。
それでは少々お待ちください!」
そう言うと、ランドンさんは露店から離れてどこかに走って行ってしまった。
「それではエミリアさん、露店を見ながら待っていましょう。
ところでほら、これ見てください!」
「え? 何ですかー?
……あ、ガルルンの置物!!」
「私は結局何もできませんでしたけど、ガルーナ村の人は売り続けてくれたんですね。
ちょっと私、感動しています」
「良かったですね!
……売れてるのかは不安ですけど」
不安……。まぁ、爆売れはしていないとは思うけど……。
でもまだあまり広告をしていない段階だし? ガルルンの爆売れはきっとこれから起こるはず。
だからガルルンの置物も、この街の名物にして――
そんなことを妄想していると、良い感じのところでランドンさんが戻ってきた。
そしてその横にはたくさんの人が――
……見覚えがあるような、無いような、そんな人も何人かいるようだ。
「アイナ様、こんにちは!」
「セシリアちゃん!
ごめんね、ずっと連絡が取れなくって」
「いえ、大丈夫です!
それに納品しようと思っていた残りの半分も、ガルーナ村に戻ってきちゃったんですよ。
また今度、納品に来ても良いですか?」
「うん、もちろん!」
本当だったら王都で受け取るはずだった、残りのガルルンの置物たち。
没収などはされてはおらず、発送元に戻っていたようだ。
今まで行方が分からなかったけど、あるべきところに戻っていたんだね。
セシリアちゃんと少し話をしたあと、次は横の男の子が話し掛けてきた。
「アイナ様! 僕のことは覚えていますか?」
この男の子も懐かしい。
疫病がどうにかなりそうになった矢先の、次の騒動――
……『疫病のダンジョン・コア』の餌食になってしまった、小さな男の子。
「ジョージ君!
セリシアちゃんもそうだけど、大きくなったね!」
「はい、おかげさまで!」
「ジョージはアイナ様を目標にして、錬金術師を目指しているんですよ。
勉強なんてろくにしなかった子が、家の仕事の合間に勉強を……ぐすっ」
「へー、凄いね!」
「えへへ……♪」
別れ際、確かにそんなことを言ってくれていた。
しかし本当に錬金術師を目指してくれているとは、私としてはかなり嬉しいことだ。
「――失礼。
私たちもよろしいですか?」
セシリアちゃんやジョージ君と一緒に話をしていると、やや強引に割って入ってくる人たちがいた。
ランドンさんが連れてきた、5人ほどの集団だ。
「えっと……、どこかでお会いしましたっけ?
ガルーナ村の方……ですか?」
私がそう聞いた瞬間、5人のリーダーのような人が突然、私の手を取って顔を近付けてきた。
「初めまして!
……ずっとお会いしたかった! お会いしたかったです!!」
「ひゃっ!?」
その迫力に驚いて、私は数歩下がってしまった。
しかしその男性は構わず距離を詰めて、なおも近付いてくる――
……だ、誰だっけ? 見覚えは、確かにあるんだけど……っ!
コメント
1件
ガルーナ村の人たちとの再会、ほっこりしたわ〜!セシリアちゃんもジョージ君も元気そうで、しかもジョージ君が錬金術師目指してるって、アイナちゃんの影響力すごいな。ランドン村長が「怖がる者なんていませんよ」って言ってくれたのが沁みた。最後の突然の男性、誰だっけ?あのテンションはただ者じゃない気がする…続きが気になる!