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「教会らしい質素な食事だな……」
ゼンが朝のテーブルについてつぶやいた。
およそ一人分のパンとスープを四人でわけた皿を前にして、ユリは苦笑してうなずいた。
気をつかう二人とはちがい、タクヤは、昔のよしみで、遠慮なく言った
「いや、わかるけど、ハワイさん、これじゃあ栄養足りなくない?」
「ごめーん、いろいろなくはないんだけど、きちりチェックされてるの。留守番中に私がバクバク食べないかって。本来ならもう上の人が来る時間だけど、事故の対応とかで来れないみたい。まあ、ここに用意した分は遠慮しなくていいから、感謝して食べるがよい」
ハワイも席について小さなパンの欠片を手に取り、口にほおりこむと、一口でのみ込んだ。
「だったらそれ『王子が来たから』って報告すればよくない?」
「あのねぇ、君は軽く言うけど、うちのボス、めっちゃ厳しいんだから。基本、すべて事前承認。事後承諾は、たとえ許可されたとしても罰則付きよ」
「罰則とは?」
「たとえば、王宮内10周ランとか」
「健康的でいいじゃん」
「やめてよ、私そういうキャラじゃないんだから」
「え? ハワイさんって、てっきりスポーツ系かと」
「なによそれ、どこからそんな勘違いが。私のスタイルは、努力とかじゃなくて、天然よ。大切にしないと。ねえ、ユリ様、祈り師たるもの、体力ではありませんわよね~」
「いえ」とユリは首を横に振った。「わりと体力。むしろ、体力。今回、痛感させられました」
「じゃあ、ユリ様も私といっしょに王宮10周してもらえます?」
「いえ、それは、ちょっと……」
みんなが笑った。
新しい仲間が増えた、と思ったタクヤだったが、ハワイの意見はちがっていた。
「ねえ、みんなは今回のこと、どう思ってるの? 私、あまりニュースとか見てないけど、龍人族って、本当に許せないよね。言いたいことがあるなら言えばいいじゃない。なんで王宮に爆弾ぶち込むかな」
「そ、そうだよね……」
タクヤは考え込む。
黙ったままのゼンが、うつむいて、妙に慎重にスプーンを動かしている。
ユリは言った。
「それしか方法がなかったとしても、でもやっぱり、それだけは、やってほしくなかった」
「でしょ? いろいろ大変みたいだけど、それをやっちゃあおしまいよ」
タクヤは、唯一と言っていいほどの旧友のハワイに、できるだけのことを理解してもらいたいと思った。
「ハワイさん、僕はテロを擁護する気は全くないけど、彼らなりの本当の理由を察することも、大切かもしれないとは思う」
「じゃあ何よ、本当の理由って」
「いや、まあ、僕だってよくはわからないけど……」
「もちろんあなたの立場では、ここで話せないこともあるわよね。でもね、ずっと龍人族に寛容だった王宮を、龍人族が破壊したとなれば、理由は一つしかない。ベルベス利権。それを王宮の権力者たちが独占したからよ」
「はあ?」
「タクヤ君、あなたがどこまで知っているか知らないけど、私なりに、内側の話は聞いてきたわ。この王宮には、伝統の技術を、世界みんなで共有することをよしとはしない心の狭い人たちがいるの。すばらしいものは、全世界で共有すべきなのに。王だって、ずいぶん尽力されて、民間利用を進めていたわよ。憶えてるよね? 私がこの春に君と会った日、船が空に浮いて移動するショー。ああやって平和利用することを、王は心から願っているのに、そんな気持ちを踏みにじって固く閉ざそうとする人たちがいる」
「つまり、ハワイさんの考える本当の犯人とは?」
「犯人とか、そういうこと、言っていいのかな? いきなり王子タクヤが『反逆罪だ』とかいって私を処刑したりしない?」
「するわけないでしょ」
タクヤが苦笑すると、ハワイは意を決して続けた。
「じゃあ、あくまで、私の少ない情報から推察する巨悪とはなにかを言っちゃうと、亡くなられたタカコ王妃。そしてそのとりまきたちよ。彼らが、自分たちの利権を守るために、世界利用を阻止しようとしている」
タクヤは、どう反応すればいいかわからなくて、言葉が発せられなかった。
真逆の見方だった。
つまりタクヤが、ゼンとかメリルとか、タカコ妃の意志を継ぐものの仲間であるなら、ハワイは敵、ということか?
「ハワイさん」とユリが聞いた。「あなたは、最近、王とはお会いしていますか?」
「最近も何も、私は王とは、まともに会ったことはまだ一度もないですよ。ただ、ほら、決して自慢するわけじゃないけど、私は顔もスタイルもいいので、そばにいるだけで場が映えるという、それだけのお仕事。でもね、近くで話を聞くことは、けっこうあるわ。すると、感じるの。王がどれほど広い心を持って、全体をまとめようとしていらっしゃるか。国際利用を進める立場も、国家利権を守る立場も、どちらも理解しようとして、平和的な落とし所を探してらっしゃった。だから私は、王の不在を狙ったこんな卑劣な破壊に腹が立ったの。絶対に許さない。そうでしょ、タクヤ君?」
「つまりハワイさんは、我が国の技術を、世界みんなで利用したらいいと考えているんだね」
「そりゃそうよ。だって無重力装置が使えれば、山奥の山村に薬を運んだり、災害で孤立した地域に物資を運んだり、人々を助けたり。世界中の人たちが感謝するわ。それを、一部の人たちが利権としてキープするなんて、どう考えてもいいことじゃない」
「しかし」とゼンが口をはさんだ。「軍事転用するやつらもいると思うぜ。あの技術は、いろんな悪事に応用できる」」
「だ・か・ら、自由が大切なのよ。世界中の国が持ってしまえば、必殺武器とかじゃなくなるでしょ。あとは広く平和利用がまっているだけ」
「なるほど……」
すると、教会の扉をたたく音が響いた。
「だれだろう、スタッフは扉なんかたたかないし」
ハワイは首を傾げた。
ゼンは「裏口があるか?」と素早く聞いた。
「まあまあ、あわてなさんな。もし本当に襲いにきたなら、先に裏口をすべてふさいでからにするでしょう。心配しないで。不審なやつなら、この私が、断固追い返す。神の家を預かるハワイ様をなめるな」
ハワイは、ラフなシャツとショートパンツの上から、紺色の教会服を一瞬でかぶって、真面目さ全開の表情になって出ていった。