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日本探索員協会が満を持して送り出した最強の4部隊。
彼らが各地の未踏ダンジョンにて戦っている一方で、オペレーターたちも膨大かつリアルタイムで書き換わる情報と目には見えない戦いの最中にあった。
「楠木監察官! 南雲さんの新スキルの情報、更新したっす! 確認お願いします!」
山根健斗Aランク探索員。
彼は南雲修一の右腕として、主に上官をおちょくる事に精を出しているが、見えないところではきちんと仕事をこなしている。
「はい。受け取りましょう。それにしても、南雲くんはどんどん強くなりますね。ボク程度の実力しかない者でもハッキリと分かるのだから、大したものですよ」
楠木秀秋監察官。
アトミルカ殲滅作戦中は、「本部後方防衛司令官」として五楼京華上級監察官の代役を果たしている。
文官に大きく寄った監察官の彼にとって、書類関係の仕事はお手の物。
南雲修一監察官の情報更新申請書に判を押す。
「ところで、山根くん。この、ナグモ必殺技集と言うのはなんだい?」
「そこに気付かれるとは、さすがっす! 楠木さん! それはっすね、南雲さんの結婚式の余興で流そうと思ってるんす! 許可をお願いします!!」
「うーん。許可か……。まあ、そうだね。五楼上級監察官に許可を求める訳にもいかないからなぁ。分かった。私の名前で通しておこう」
「ひょっほう! 楠木さんはやっぱり話が分かるっすねー!!」
山根が自分の端末に戻ると、凄まじいスピードで操作を再開した。
多分、作戦行動とは全然関係のないことをやっているのだろう。
「楠木さん。木原さんから言伝を預かって来ました。オレ様そろそろ仕上がってんだけどよぉぉ! 敵の襲撃はまだかよぉぉ!! との事です。あの、私、号泣した方が?」
「木原くんのモチベーションが高いのは結構な事だけど、襲撃されるのは困るね。適度に休憩を取りながら、コンディションの維持に努めてもらってくれるかい。それから、雷門くん。今日は監察官がボクも含めて本部には3人しかいないから、泣かなくても大丈夫だよ」
「いえ! いいえ!! そんな事はありません!! 絶対に私のセリフを読んだ人は、最後の号泣した方が良いですか、まで目を通してようやく! あ、こいつ雷門善吉か……ってなるんですよ!! 私は知ってるんですから!!」
「いや、雷門くん? セリフを読んだ人って何だね? 落ち着きなさい」
自己診断がきちんとデキる男。雷門善吉監察官。
そんな雷門はオペレーター室から動けない楠木の代わりに、彼の手足となって協会本部建物内を行ったり来たりしている。
縁の下の力持ちとは彼のためにある言葉なのだが、それと影の薄さは関係がない。
「私に何かできる事はありますか?」
「現状、雷門くんだけではなく、ボクにも大きな仕事はないからね。まあ、それに越したことはないですよ。今回の作戦は現場が9割以上のウェイトを占めるものだから。ボクたちの仕事が増えるのは好ましくないですね」
「ですが、こうも順調だと何か起きれば良いのにと思ってしまいますね。はっはっは!」
雷門善吉監察官。
今回フラグを踏んだのは彼であった。
2部隊のオペレーターを兼務している福田弘道Aランク探索員と、五楼のメンタルケアに忙しい日引春香Aランク探索員がほぼ同時に首を傾げた。
その違和感は、すぐに数字となって勢いを増す。
「楠木司令官。ご報告があります」
「こちらもです! 少し無視できない内容です!!」
楠木の表情が引き締まる。
続けて「どうぞ。順番に、端的な報告を」と彼は告げた。
まず福田が端末を操作しながらの報告を謝ったのち、短く発言する。
「4部隊の攻略中のダンジョンですが、2つのダンジョンに強い煌気反応が検知されました」
「なるほど。君がそのように言うのなら、モンスターとは違うのですね?」
日引がのちの報告を引き継ぐ。
「明らかに人間の発している煌気です。どちらも少なく見積もってSランク相当の煌気で、片方は増大を続けています」
「メインモニターに出力を」
いつの間にか仕事に復帰していた山根が楠木の指示に応じる。
「こちらで処理するっす! えーと。1つ目は五楼隊の担当しているルブリアダンジョンの下層っすね! 2つ目は南雲隊の担当! コラヌダンジョンの……こちらも最深部に近い地点っす!」
モニターに表示される煌気総量はかなりの規模であり、無視できないものであった。
「ひとまず、まだ現場への報告はしないで。情報の精査に尽力するように。Bランクのオペレーターは5人ずつ、山根くんと日引くんの下について情報処理の補助を」
慌ただしくなるオペレーター室。
そんな中、声を震わせる男が1人いた。
「せ、せやかてぇ……! 私、私は、別にほんまに起こると思ってなくてヒッグブーンッ! 不謹慎な、発言やったかもウグンナァーフゥヒィ! 知れへんけどぉ! ちょっと、出番が欲しかったナッフゥハァハァァニッ! 軽い、軽い冗談やったんですゥゥゥエンエンォォン!!」
「うん。雷門くんの気持ちは伝わったから。ちょっとアレだね。忙しくなるからね。君は食堂で甘いものでも食べて来てください。落ち着いたら戻って来てね」
雷門監察官、無事に出番を果たして一時退室を命じられる。
口頭で情報が飛び交う中、感極まった雷門ほど邪魔になる存在はいない。
探索員のレベルがフォーカスされがちな日本探索員協会だが、オペレーターの質も世界トップクラスである。
世界最初の探索員協会として常日頃から人材育成に努めている彼らにとって、有事こそが日頃の訓練を発揮する場。
熱を帯びていくオペレーター室の中で、情報だけは冷静に弾き出されようとしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
山根が最初にデータベースとの照合を完了させた。
「楠木さん! これ、まずいっすよ! 五楼隊のいるダンジョンの下層に出現した煌気、特定できたっす! 監獄ダンジョン・カルケルに収監されていた、元アトミルカ3番、ロブ・ヘムリッツが適合率95パーセント!!」
彼は現在のアトミルカナンバー4。
「人造人間プロジェクト」を進めている、アトミルカの頭脳その2であった。
続いて、日引もデータ照会を終えた。
「報告します! 南雲隊のコラヌダンジョンに出現した人物もデータベースに載っていました! 監獄ダンジョン・カルケルに収監されていた脱獄囚、姫島幽星です! こちら、ものすごい速さでダンジョンを逆走しています! このままでは、30分以内に南雲隊と遭遇戦になる恐れが極めて高いかと思われます!!」
姫島幽星は現アトミルカのナンバー6。
秘密裏に行われて来た作戦行動にほころびが生じる。
理由は分からないものの、アトミルカのシングルナンバーが2人も攻略中のダンジョンに出現すると言うイレギュラー。
しかも姫島幽星の方は南雲隊と接触する可能性が高いと言う。
楠木の判断は速く、適切だった。
「五楼上級監察官と南雲監察官に連絡を。五楼隊には煌気の出力を下げて敵に気取られないよう留意させ、南雲隊は接触が避けられないのであれば、姫島幽星を捕縛するように命令を出してください」
楠木の指示に、山根と日引が頷いた。
楠木は顎に手を当てて思案する。
「煌気反応の動きを見ている限り、現状では偶発的な出現だと判断しても良さそうですが。偶然がこれほどまでに悪い方へ作用するとは……。困りましたね。ボクたちには人事を尽くしたあと、祈ることしかできないのが口惜しいです」
こののち、速やかに該当のダンジョンを攻略中の五楼隊、および南雲隊に急報が届けられるのであった。
コメント
1件
いやあ、雷門くんのフラグ回収が早すぎて笑いました(笑)「出番が欲しかった」って泣きながら謝る姿、めちゃくちゃ可愛いです。オペ室のプロフェッショナル感と、山根の「必殺技集」の申請とかの緩さのバランスが絶妙ですね。しかしアトミルカのシングルナンバーが二人同時に出現って…これはもう偶然じゃないですよね。楠木さんの冷静な判断力が光る回でした。次が気になります!