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『雨の匂い』
放課後の教室で、彼女は窓の外をじっと見つめていた。
雨の匂いがする――そう呟く声は、どこか懐かしい響きだった。
僕は思わず問いかける。
「雨、好きなの?」
彼女は少し考えてから言った。
「うん。だってみんなの声が小さくなるでしょ。静かで、安心するの。」
その日、僕たちは一緒に傘もささずに歩いた。
アスファルトに跳ねる水が、足元で踊るみたいだった。
帰り際、彼女が笑った。
「ねえ、雨の匂いってね、”誰かを思い出す匂い”なんだって」
次の日、彼女は転校していなくなった。
だけど、雨がたびにあの匂いがする。
――まるで、まだどこか歩いてるみたいに。
おしまい🌙