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JACK KINGSLAVE
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睡蓮
606
#異能力バトル
名無の男2
382
魔力を使い果たし脱力している王を横目に、大きな傷が残った城内を玉座の壇まで駆け抜ける。
王妃の席を覆う鉄柵のロックを掴んで破壊を願うと、鉄棒の接合部が次々と弾け飛び、積み上げたトランプタワーが崩れるみたいにボロボロと床に落ちて転がった。
「理紗っ!!」
ドレス姿の妹の肩を揺らし、声をかける。
しかし、目は閉じたままだ。
顔の前に手をかざすと、甲に細い呼吸を感じて一先ずの安心を得られた。
「理沙っ、怖かったよな。 ごめんな、巻き込んで……! もう、帰れるからな……」
リビングのソファーで寝てしまった理紗を持ち上げて部屋に連れて行くみたいに、ゆっくりと背負う。
「キラっ!」
「……アーシア。 ありがとな、お前がオレを信じて『決闘』をさせてくれたおかげで、妹とまた会えたよ。 でも……、お城ぐちゃぐちゃになっちゃったな」
「いいんです、いいんですよ……。 これまでエドお兄様は、無敵でした。 誰かが止めなきゃいけなかったんです。 ……私には、勇気も力もなかった。 ありがとう、キラ」
「……色々と出張っちまってごめんな。もう、オレ達は元の世界に帰るよ。 アーシア達からしたら魔王って奴を倒す希望を奪っちまうことになるんだろうし、代わりにオレが倒しに行く! とか言えなくてほんと悪いんだけど……、それでも、帰らなく、ちゃ……」
頭の内側が、鋼鉄の百足でも走り回ってるみたいに急に痛み始める。
「ぐ……っ!」
「どこか痛むの……!?」
「いやっ……、何でもねえ、大丈夫だ」
権能の副作用。
短時間で破壊を乱用しすぎちまった……。
「悪い、もう帰らねえと……」
「でもっ……、どうやって元の世界に帰るつもりなの? 少なくとも私は、『転生者』がどうやってこちら側の世界に進入しているのか知らない。 ……きっと、誰も知らないわ。 世界の行き来の方法、キラは知っているの?」
「……帰り方はさ、なんとなくだけど分かってんだ」
左手で背負った理紗が落ちないように押さえながら、虚空に向けて右手を伸ばす。
そして、破壊を願う。
「これって……!」
何も無いはずの空間に割れ目が開いた。
初めからそこに無いものは、壊すことは出来ない。しかし、ここには異世界がある。
少なくとも、オレはそう認識している。
だから、異世界に穴をあけたんだ。
マリアが現実に穴をあけて、異世界への通路を作ったみたいに。
試しに開いた割れ目に手を入れると、ひんやりと肌寒い空気が漂っていて、今いる場所とは違う空間なのだという印象を感じる。
中を覗くと、狭間の世界の奥に小さな光が見えた。
今のオレの視力なら分かる。あの光は、小さな景色だ。オレ達が異世界に飛ばされる直前の場所、あの礼拝堂の会衆席だ。
「間違いない……、これだ。 これが『窓』だ。 オレは現実の世界から、ここを通って異世界に来たんだ」
「じゃあ……、そこから、帰れる?」
「ああ、きっと! 色々ぐちゃぐちゃにして放置してってすまねえ、エドガーのこともケアしてやってくれ。 ……そんでよ、アーシア。 お前の夢見てた優しい国ってのをこっから作ってくれよ。 オレは見てやれねえけど、あっちの世界で上手くいくのを信じてるぜ」
「キラ……」
「それじゃあ――――、」
理紗を背負ったまま、足から『窓』に入ろうとしたその時だった。
エドガーの魔法に巻き込まれることを恐れて謁見の間から逃げ出した兵士たちが声を荒らげながら帰ってきた。
その発言が、オレの足を止めた。
「翼竜ッ! 伝説級の翼竜が城の上空にっ――――、」
兵士が報告を言い終える前に、爆音が遮った。
突如として崩壊した天井の瓦礫によって衛兵はペシャンコに潰され、その上に巨大な爪が突き刺さる。
「森の、ドラゴン……!」
巨大な体躯に、漆黒の鱗。
赤黒く負傷した左目は、アーシアが魔法剣をぶち当てた痕だろうか。
「どうして、こんなところに……!?」
「……上級のドラゴンは肉体の活動維持に必要な栄養素の一部を、魔力を使って擬似的に生成する能力があるの。 そのために、周辺の魔力行使を察知する器官が発達していると聞くわ。 ……恐らくこのドラゴンは自分を傷つけた私の魔法剣の術式を憶えて、同じ性質の魔力を持つエドお兄様の『七属性解放剣』を感知して、ここまで来たのよ……!」
「説明されてもよく分かんねえよクソっ!」
ドラゴンのあまりに暴虐的な立ち振る舞いに、城の造りが次々と破壊されていく。
このままでは理紗が危険だ。
逃げるにせよ、隠れるにせよ、何をどうするにせよ、妹を背負ったままでは動けない。
だが……、こんな状況でアーシアを放って元の世界に帰れるワケがねえ!
「……理紗。 再会できたってのに、また離れ離れだ。 でも安心しろ、必ず戻る。 ちょっぴり早く、家に帰っててくれ……」
『窓』に手をかけて、理紗の身体をゆっくりと倒す。
すると水面に乗った花弁みたいに、ふわりと浮いてそのまま穴の中の青黒い空間に流れていく。
そのまま真っ直ぐと、向こうの礼拝堂の景色へと向かって。
「キラ、早く貴方も元の世界に!」
「……オレは残る。 お前と戦うよ、アーシア」
「そんなっ……、どうして!?」
「お前には森で命を救われた。 お前がいなかったら、妹と再会できなかった。 だからオレにも役に立たせてくれよ。 理紗の安全が確保できた以上、一緒に戦わねえ理由はねえ!」
アーシアの隣に立つ。
彼女の腰から引き抜かれた剣に、ドラゴンが咆哮する。
「……後ろで呆けてるエドガーに見せてやろうぜ。お兄ちゃんの知らねえとこで、妹はしっかり成長してんだぞってな!」
―――――――――――――――――――――
雨音が叩くステンドグラス。
折れた十字の根元に横たわる学生服の女生徒。
長い黒髪を天使の翼みたいに床に広げて、薄暗闇で小さな寝息を立てる。
遠雷のフラッシュ。
遅れて到着した雷鳴と同時に、礼拝堂の扉が開かれる。
「理紗ちゃん!」
少女に駆け寄るは、びしょ濡れの他校の制服に身を包んだ学生。
校則に引っかからないギリギリを攻める秩序的なストレートヘアに、トレードマークの白縁眼鏡。
それは神無月煌の前の高校の友人、『いつもの場所』のメンバーである枢木仁だった。
「理紗ちゃん! 聞こえるかい、理紗ちゃん!?」
反応のない少女の顔の前に手を出し、呼吸を確認する。
続いて手首を握り、親指で脈拍を確認する。
仁が保健の授業で学んだ、倒れた人を見つけた際の確認行動を一通り行ない、携帯電話を出して救急に電話をかけようとしたその時。
「――――仁、さん」
「理紗ちゃん! 気がついたんだね!? 今救急車を呼んでるからそのまま動かないで……、」
「待って……、救急車、だめで、す……」
「えっ……!?」
理紗の力の入っていない細い腕が、被さるようにして仁の携帯電話を邪魔した。
「駄目だよ、動いたら! 僕は君のお兄さんにお願いされたんだ、妹さんがここに居るから助けに来て欲しいって……!」
急に様子がおかしくなった理紗について、煌が仁に相談した内容。
”理紗ちゃんと喧嘩になってしまうかもしれないけど、それは必要な喧嘩だと思う。 上手くやりなよ、煌。 それでもまた不安な時とか、何かあったらさ、僕を頼れよ。迷惑とか望み薄とか、そういうのは無視して。 僕と、君の親友たちをさ”
その言葉が、煌の心には強く残っていた。
煌は下足場で誘拐犯からの手紙を読み、礼拝堂に向かうまでの途中で誰かに助けを求めようと走りながら思考を巡らせていた。
しかし、相手は恐らく校内の状況を監視している可能性が高いことから、オカ研のメンバーには連絡できない。警察への通報はパトカーなんて目立つものが来るせいで察知されてしまう。そうなれば、誘拐犯は妹を連れて雲隠れしかねないと考えた。
そこで電話をかけたのが、仁だった。
仁は他校の生徒だから監視されていないだろうし、なにより、信頼できる親友だ。
”もしもし、仁! 悪いが今すぐ日継高に来てくれないか!? 妹が大変なんだ、礼拝堂っつー施設で……! ちょっと危ねえ状況かもしれねえんだ。 ……ああ、認めるよ! これは遊びでもドッキリでもねえ、恐らく例のテロリストが関係してやがる! 理由があって警察にも誰にも何も言えねえ状況なんだ。 ……お前だけなんだ、頼れるの! 全部終わったらちゃんと説明するから! 頼む、理紗を助けてくれっ!”
その電話で、仁は走り出した。
途中で雷雨が鳴り降ろうとも、友人のため。
コンビニで傘の一本すら買わずに雨曝しで。
細く開いていた理紗の目に、ゆっくりと光が戻っていく。
「お兄ちゃんが……、お兄ちゃん……っ」
「キラ君がどうかしたのかい……?」
「分かんない……、よく、思い出せない。 けど、私、すごく不安で……。 お兄ちゃんが危ないってことだけは分かる、の……!」
白いフラッシュ、轟く雷鳴。
理紗の力なき指が仁の制服の裾を引っ張る。
彼は何が起きているのか理解こそ出来ていなかったが、自分の知らぬ所で何か恐ろしい事が起きているのだけは分かった。
「……煌。 一体、君は何と戦っていると言うんだい……?」
コメント
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うわあああ第122話読み終えたよ…!!😭💦 キラが理紗ちゃんを自分の世界に送り返すシーン、もう胸がぎゅっとなった…「必ず戻る」って約束、絶対叶えてほしいよ…!アーシアとの共闘決意も熱すぎるし、翼竜襲来で一気に緊張爆上がりだし。最後の仁さん登場で現実世界とのリンクが来たのも痺れる構成だった…! 次が気になりすぎてソワソワが止まらん…!!🔥