朝から紅茶の匂いでいっぱいになっているこの部屋は、白井家のお屋敷の数ある部屋のうちの一つだ。いつもこの部屋で、主人のしろ王子と従者のりぃちょとメイドのじゅうはちが部屋で作業をしていた。
💙はあ〜…
🩷朝から溜め息ついてる
💜また婚約者様のことですか?
💙ああ
💜なかなか誤解が解けませんからね
🩷でもあれは殿下も悪いと思いますけどね
💙うぐっ…
🩷普通にダメージくらってるw
俺には婚約者いる。
王家の息子である俺は、16の時に父と母が選んだ女性と婚約をすることになっていた。
だが婚約なんてはなから興味のない俺だ。誰が自分の婚約者になっても正直どうでもよかった。
婚約者が決まり、お互いの両親とも顔合わせをする日が訪れた。
めんどくさいし、適当に笑って済ませておこう。俺はそんなことを考えていた。
「初めまして」
相手の顔を見た瞬間に俺は心を奪われた。綺麗な緑色の髪、吸い込まれるような美しい紫の瞳。
彼女の名前はまちこりーたという。
彼女は他の女性とは違い、色々とおかしい。でもそれが俺にとっては見たこともないことばかりで。彼女の言葉に、考え方に、指先の動きでさえ心が動かされた。
しかし、当時はまだ幼かった。俺は自分の気持ちに気付いていたが認めたくなくて、まちこ嬢にあたってしまった。だが優しい彼女はそれでも俺のそばに居てくれた。
そんな日々が続く中、彼女は俺に興味がないのではないかとふと疑問に思うことがあった。基本的に出かけるのも食事も誘うのは自分からだった。男性から誘うのもマナーかもしれないが向こうから誘ってくれてもいいじゃないか。
だが彼女からは実務や業務的な時にしか誘われることがなかった。
そこで思いついたのが「他に好きな人ができた」と言うことだった。もちろん嘘であるが、少しでも動揺しているところが見てみたい。ただそれだけの理由だった。
王家の命令は絶対。だからといって全てを「はい」と受け入れることはないだろう。一瞬でも瞳が揺れ動くのを見たらすぐに嘘だとバラそう。そんな軽い悪戯のようなものだった。
悪戯のつもり。
俺はそう思っていた。彼女は動揺することも焦ることもなかった。ただ笑って、俺の言うことに頷くことしかなかった。
俺は罪悪感により彼女にすぐ嘘だと言おうとしたがどうしても自信がでず、話しかけることができなかった。そのまま本当か嘘かもうやむやなまま、彼女は2年間の隣国留学へ行ってしまった。
いまだにまちこ嬢は俺と距離がある。
確かに俺は王家の生まれで幼い頃からヤンチャをしてきた。ずっと妃になるため教育をしてきたまちこ嬢とは全然違う。それでも、政略結婚だとしても、もう少し近づきたいのだ。
💙どうすればまちこ嬢ともっと近くにいられる…
そんな時、ドアが叩かれた。「どうぞ」と返事をすると目の前のドアがすぐさま開く。
💛おっじゃまっしまーす♪
❤️毎度ながらすみません…失礼します。
部屋に入ってきたの俺と同じく王子のニキ。そして、従者のキャメロンだ。
ニキとは昔からの知り合いで旧知の友の1人。なんやかんや気が合うため長期休暇にわざわざ隣国から来て、俺の部屋にくつろぎに来る。
💛で、お前の婚約者となんかあったの?
💙なんで知ってんだよ
💛部屋の前から聞こえた
💙どんだけ地獄耳なんだよお前は。それに今回は俺が悪いんや
💛それならすぐに謝ればいいじゃん
💙そう言う問題やないんよ
💛?なんかよくわかんねぇけど、相談なら相棒の俺に言えよ。力になるぜ
こう言う時のニキは本当に頼りになる。過去に相談に乗ってもらったことは数多くある。俺はニキ達に今の状況を事細かに説明した。
コンコンッ
💙今日はまた一段とお客が多いな
💛ほんとだなぁ
💙いやお前らもな
❤️本当にすみません。お邪魔しております…
💜私が開けに参りますね
じゅうはちが扉へと近づき、扉を開こうとするとガチャリと先に開いた。
「えっ」とじゅうはちが驚いていると扉の奥から小さく声が聞こえてくる。
「あっ、ごめんなさい。」
この声はまさか….!
顔を上げるとそこに立っていたのは、今までの話題の人物。俺の婚約者のまちこりーただった。
💚突然の訪問、誠に申し訳ございません。このお屋敷に所用がございまして。すぐにお暇しようと思ったのですが「屋敷に来てもらったしせっかくならしろに会ってあげて」と王妃様から….ってニキ様!?それにキャメロンさんも、
💛やぁやぁ、まちこりーた嬢。久しぶりだね。そんなに畏まらなくて大丈夫だよ
❤️まちこりーた様、お久しぶりでございます。
💙ところでまちこりーたい嬢?所用って何か聞いても大丈夫なやつ?
💚えっ….と、ここでは、
そう言うとまちこ嬢はチラリと申し訳なさそうにニキの方を見る。それに気づいたニキは「俺もコイツも口は硬いし誰にもバラさないよ」と言った。信用したのかまちこは口を開き話し始めた。
💚私がこの屋敷に来た理由は、婚約破棄のためです。
💙………え?
俺の頭はそこでシャットアウトした。完全に脳が理解しようとする力を制御している。「婚約破棄」と言う言葉が頭の中でぐるぐると回っている。
何がどうなってそんなことになっているんだ!?
💚殿下のことは十分理解しております。好きな方がいらっしゃるのでしたよね。何年も婚約者として付き纏ってしまって申し訳ございませんでした。
💙ま、待ってまちこりーた嬢…。
💚お母様とお父様からのサインは頂いております。もちろん私のサインも。なのであとは殿下からのサインのみです。
まちこ嬢に話が伝わらない
何を言っても否定し受け流される。
💚殿下?
💙まちこりーた嬢は…、まちこりーた嬢は俺と婚約破棄したいの?俺のことは嫌いだった…?
💚決して嫌いなのではありません。ただ殿下のためにと思って
ニコといつもの作り笑いをする。
またこの顔…!
思わず唇を噛む。俺は彼女にはとある癖があることを知っていた。それは本心を飲み込む時、とびきりの作り笑顔と手のひらをギュッと握ることだ。
💙すまないまちこりーた嬢!
💚へっ//な、なぜ抱きしめ
💙お願いだから聞いて欲s
💚これ以上期待をさせないでください…泣
殿下のためにを思って私は今まで行動してきました。なのに、貴方を好きになってからはどうしても会いたい気持ちがいっぱいで自分のために動いてしまって、迷惑しかかけてない…!泣
💙そんなこと!
💚あるんです。でも殿下には好きな人ができた。ならばもう私は必要がない。婚約破棄こそが殿下のためになる。私は…もう殿下には必要がn
💙そんなことあるわけないだろうが!!
💚っ!泣
💙すまん…! 突然怒鳴ってしまって。怖かったよな?ごめん。本当にごめん。
💚いえっ!ビックリしただけで私は大丈夫です。
そう言うまちこの手は震えていた。
ごめんという気持ちと少しでも落ち着いてくれたらと、まちこの手を握った。
💚….殿下?
💙….ずっと、ずっとずっと言えてなかったから。だからこんなことになったんだろうな….。 他に好きな人なんかいるわけがない。俺が好きなのはまちこりーた嬢しかいません…
💚え?
💛俺の親友はこう見えて結構な“シャイ”でね。自分からは動き出せないくせに、ずっとまちこりーた嬢って呼んでるけど俺らの前ではずっとまちこ嬢って愛称で呼んでるしw
💙ちょっ!おま!!
🩷そうですよ。殿下じゃなくてしろ様って呼んで欲しいと今日もおっしゃってました
💙バラすな!// ハァー…
💚ビクッ
💙ごめんこんな男で。君はもう呆れてしまっているかもしれないけど
💚そんなことはっ
💙それで相談なんだが、
💚え?
💙最後にチャンスをくれないか?馬鹿な男だと、哀れな男だと思われてもいい。それでも俺はもう一度君と話がしたい。次こそ間違えないようにするために。あなたとは本音で話し合いたかった。
💚…..ど、どうしてそんなに?
そんなの決まってる。
💙貴方は俺の、俺だけのたった1人の大切な婚約者だから。
そして今まで一度も伝えられなかったあの言葉。
幼いながら、羞恥で伝えることができなかった大切な言葉。
初めて出会えたあの日から、今でもずっと変わらない綺麗な紫の瞳をしている美しい君に。
どんな時も俺を見て、信じ、ずっと隣で支え続けてくれた優しい君に。
いつだって楽しそうに笑うかわいい君に。
俺の初恋とごめんをこの言葉に載せて。
たった一言
💙『愛している』
俺は君と話がしたい。
部屋が静まり返っていることに気づく。
それよりもまちこ嬢の反応がない
いまさらのように縋り付いているんだ。失望されても仕方がない。
顔を上げるとまちこ嬢は
💚「……っ」
泣いていた
💙ま、まちこ嬢!?
💛お前ついに泣かしたな!!
🩷うわー。女の子を泣かせるなんて流石にないよ
💜女の子泣かせるなんて最低ですよ!!
❤️まちこりーた様大丈夫ですか?
💚あっ、ごめんなさい!違くてっ泣 そう言ってもらえるなんて思ってなくてっ
🩷まちこりーた様…
💜日頃の行いですね
💛静かにっ
💙これからは本音で。ずっと前から心から笑えてなかったと思うから。俺はこの国のことを大事にしているのと一緒で同じぐらい君を大切にしたい。ダメかな..?
💚…それは命令ではないのですか?
💙ああ…これは俺からのお願いだ
💚お願い….なら仕方ありませんね クスッ
💛あ!
🩷笑った…
💙こんな可愛い婚約者を傷つけて俺は酷い男だな
💚そんなことっ
💙その笑顔が何度も見たくなった。早速庭でお茶をと思ったがいろいろやることが山積みでね。
💚もちろんお手伝いさせてください。私は殿下の婚約者ですから。
💙頼む。だが一つだけ
💚えっ。私何か粗相を
💙いや、ただ俺のわがままなのだがいいかな?
💚はいなんでも!
💙俺のこと…しろって呼んでくれないか?しろ殿下でもしろ様でも、もちろん呼び捨てでも構わない。
💚呼び捨てっ//!?
💙呼びやすい呼び方でいいよ。殿下じゃ距離があるように感じて、他の付き纏う女性には嫌だがおなたになら…
💚…。
💙いやっ!もちろん今じゃなくて少しずつでいい!だんだんとでいいから読んでくれたらって…
❤️ヒソ 日和ましたね
💜ヒソ 男らしく言っては如何かと
🩷ヒソ そんな勇気ありますかね
💛おいもっと頑張れよー!!
💙うるせえ!💢
💚…し
💙ん?
💚….しろ..さま。//
💙も、もう一度!
💚….しろ様//
💙うわああああぁぁっぁ////!!!
💚え?え?え?//
💛あー大丈夫だよまちこりーた嬢。嬉しすぎて舞い上がってるだけだから。
💚そ、そうなのですか。
💛ところでまちこりーた嬢って長いから俺もまちこ嬢って呼んでも構わない?これから仲良くなるんだし
💚はいっ!嬉しいです!
💛やったー
💚ぜひ皆様も公の場では流石にまずいですがこう言った場だけ…その、まちことお願いできますか?私心から話せる友人が少なくて…
🩷もちろんです!!
💜とても嬉しいです!まちこ様!
❤️僕たちも喜んで呼ばせていただきます!
💙なんとなく嬉しさが半減したような…
💛まーまーそんなこと言うなってw
💙お前なあ
💛まちこ嬢ー!なんか不服そうな王子がいるぞー!
💙ちょっ!
💚しろ様ダメでしたか?
💙そんなことはない。ただ特別感が…
💚特別感…それなら
💙え?
💚チュッ
💙….ええ//!?
💚これは私たちしかできませんから…その特別ですよね//?
💙〜〜///ほんと可愛すぎるっ!!
💜見せつけられましたね
💛ああ
🩷ほんとよかった
❤️ですね
💙これから忙しくなるぞ
💚ええ。 これからは誰よりも近くで応援させていただきます
💙よろしくな
💚こちらこそ!
fin
コメント
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初コメ失礼します!♪ 単刀直入に言わせてもらいます… あの…猫神様の小説の書き方とか本当に大好きです!✨ どの話も面白くて最高だし、設定とかも凝ってて好きッッ…!!!💕 本当にありがとうございます。
すごいです!!供給がすごくて嬉しすぎる!!しかもどの設定もめっっちゃ面白い… 本当にごちそうさまです!