キッチンを長峰が担当してくれているから、私は掃除機をかけたりゴミをまとめたりした。
こうして大掃除をしてみると、この部屋には貴文の痕跡がたくさんある。
2セットある食器類、趣味の車の雑誌、コルクボードに貼られたお互いの勤務表。同棲はしていなかったけれど、いつ泊まっても不自由しない程度に貴文の私物が置いてある。
捨ててもいいよね?
まさか荷物をまとめてお返しする?
それもなんだかなぁ。
ゴミ袋の口を開けたまま、うーんと悩んでいると「どうしました?」と長峰に覗き込まれた。
「いや、ね。元彼の私物を捨てるか返すか迷ってて」
「どれですか?」
「この雑誌とかTシャツとか……」
長峰は私が示すものを片っ端から掴むと、乱暴にゴミ袋へ投げ入れた。
「ちょっと長峰!」
「ゴミ出しの日に出すか、このまま元彼に返すかは結子さんの自由です」
「……ゴミ袋で返されるとかどんな仕打ち」
「仕方ないですよ、結子さんのことをフッたんだから。返されるだけマシですよね? それに結子さんがされた仕打ちのほうがヒドイ」
でしょ? と同意を求められる。
ソファには長峰のコートとマフラーが無造作に置かれている。あの日モミの木の番人から解放してくれたのは長峰だ。雪を払いマフラーを巻いて温めてくれた。癒やしてくれた。
貴文が私との約束をすっぽかしたあげく電話で簡単に別れを告げ、他の女とイチャイチャしていたという衝撃の失恋を、長峰があっさりと振り払ってくれたのだ。
「私みたいないい女をフッたんだから、捨てても文句ないわよね?」
「当然でしょ」
長峰がふんと笑う。いつものドヤ顔。
何で長峰がドヤるのよと思いつつも、心はほんわか。長峰はいつも私の味方をしてくれる。それがどれだけ救われているか、知らないでしょう?
……教えてもあげないけどね。
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