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「いよいよだね、翔輝!」
「……だな。しっかし、結局放送部の連中の手を借りることになったな」
「それは仕方がないよ。同じ日に芸能イベント……それもあの七石麻の海外ロケがかぶったわけだし、芸能部のスタッフも忙しいんじゃないかな」
今日は夏休み前の一学期終業式。
古根《こね》の男子にとっても霞ノ宮の女子にとっても、男女別学として過ごす最後の日だ。
何も知らない男子たちにとって、最初で最後のサプライズ演出が繰り広げられる日でもある。終業式はすでに校長の話を終え、今は夏休みに向けた指導の話に突入した。
そして俺たち生徒会は一足先に舞台裏に待機していて、教員たちの長話の間に霞ノ宮の女子たちと顔合わせをしている最中だったりする。
当初は放送部の連中の協力は必要無いはずだった。だが協力してくれるはずのスタッフの数が足りず、ままなりそうに無いことが分かったので下道たちを含めて結局手伝ってもらうことになった。
放送部の連中たちは機材関係を調整していることもあり、舞台裏には俺と純の二人しかいない。
――それはいいとしても、
「何でお前《新葉》がいるんだ? サプライズなんかどうでもいいとか言って無かったか?」
「むふふふ……どう? 賢い美少女に見えるでしょ?」
そう言いながら、新葉は胸を張りながら腰に手をやってわざとらしく髪をバサバサと振りまくっている。しかも今日に限ってメガネをかけていて完全に調子に乗っているようだ。
「メガネをかけただけでそう見えるとでも思ってるなら、男子を甘く見過ぎてるぞ。なぁ、北門」
「…………!!」
一方で主役の院瀬見と推し女たちはまだ姿を見せていなく、何故か幼馴染の新葉とこいつをサポートする数人の女子だけが舞台裏に姿を見せている。
サプライズ当日のスケジュール詳細は事前に聞いているものの、院瀬見は「楽しみに待っててくださいね」と言うだけで特に連絡を交わさなかった。もっとも院瀬見個人の連絡を聞いてもいないので、こっちとしても連絡しようがないわけだが。
「おい、純! どうした? 何ボーっとしてるんだ?」
「翔輝会長……この綺麗な人は誰?」
「あん?」
そういえば新葉と純は自己紹介の時に一度は会っているはずだが、その時は七石麻にしか印象に残っていなかった感じだった。
この反応はまさかと思うが――
「――う、美しい……。院瀬見さんと同等……ううん、引けを取らない美しさなんて僕の記憶には無いよ……」
第一印象すら残してないから当然だな。
しかし純は惚れやすい奴なのか?
院瀬見のことが好きだとか気になって仕方がないと俺に強い口調で言ってたくせに、もう心変わりかよ。こうなると新葉は変なスイッチが入ってしまうぞ。
「ふふっ、初めまして! 生徒会メンバーさん。わたくしは草壁――」
ほらな、変な人格が憑依した。
「く、草壁さんですね! 僕、生徒会に所属している副会長の北門純と言います。あの、これからよろしくお願いします!」
「北門さんですね。こちらこそよろしくお願いいたしますわ!」
「は、はいっっ! ぜひぜひ!!」
何やら興奮しまくっているな。新葉は確かに容姿端麗ではあるが、おそらく純の一目惚れにすら気付いていない可能性がある。
せいぜい純のこの態度に有頂天になってるだけだな。ドヤァしてるのが分かりやすすぎる。とりあえず石化しかかっている純にはサポート女子たちと話をしてもらって、落ち着きを取り戻してもらおう。
「彼のこと、お願いするよ」
「かしこまりました、生徒会長さん」
よし、純の方はこれでいい。
後はこいつだな。人格不明の憑依状態だしそのまま話を通しておくか。
「んん、そこの草壁さん。悪いが、そろそろサプライズの時間が近づいている。一応聞いておくが、そのままの姿でいいのか? それと、本気か?」
メガネで現れた新葉の格好はいつもの女子の制服ではなく、おそらく選抜時に着ていたドレスだと思われるが、一応新葉に最終確認をすることにした。院瀬見たちがまだ来ていない以上、まずはこいつをサプライズするしかないからだ。
「スー……ハーっ、スーーーっハァァァァ……」
深呼吸してるとか珍しいが――ってことは、めちゃくちゃ緊張してるのかよ。
「新葉。本当に大丈夫なのか?」
「ええ、構いませんわ。時間が来たらショーを始めてもらってもいいわよ!」
「……ちなみに院瀬見《いせみ》は?」
「彼女は今日の主役。あたくしは前座。いくらサプライズでも、古根の男の子たちにいきなりメインディッシュをお披露目すると卒倒しかねないわ。だからこそのあたくしなの! お分かり?」
主役が院瀬見だということは理解してるわけか。変なキャラのままいくのはどうかと思うが、こいつの好きにさせるしかなさそうだ。
「分かった。もうすぐ幕が開くから、大人しく待っててくれ」
「オホホ……」
駄目だなこいつは。美少女選抜はコンテストだからいいが、それと違って実は新葉は多数の男子に免疫が無い。こんな状況でどうなるか不安でしかないぞ。
それにしても院瀬見は真面目に来るのか?
いつになく不安になっていると、女性スタッフらしき人と一緒に推し女の九賀が俺の前に現れた。彼女たちは制服姿のままで特に変化は無い。
「九賀、院瀬見は?」
「……草壁先輩が盛り上げてから現れる予定です、南さん」
「そ、そうか。それならいい」
「南さんこそ、どうしてそんなに落ち着かないんですか? いつもどおりにしてもらえます? こっちも不安になるので」
さすがに今日はいつもと態度が違うな。俺に対しても変に意地悪じゃない。それにしても、九賀の他に来ている女子がいつもの推し女じゃないのが気になるな。
「なぁ、九賀……」
「はい」
「壁に寄りかかってるメガネ女子は誰なんだ?」
「は?」
「いや、だから、そこの……大人しそうなメガネの」
気のせいか、俺を見て笑ってるようにも見えるメガネ女子だけど。
「気づかないんですか? いつも一緒にいるくせに……まぁ、本人も同じことを思っているみたいなので今すぐ教えてくれますけど」
「え?」
まさかだよな?
そうこうしていると、メガネをかけた長身の女子が俺の前に立った。
「翔輝さん。気づきませんか? こんなにも可愛く見せているのに、残念な視力をしているものですね」
「――い、院瀬見!?」