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琴寧
38
#織田信長
常陸之介寛浩
173
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そうして、諏訪勢の裏切りによって捕らえられた信玄達は――
とうとう、方円の元へ引き出されていた。
「お久しぶりですね……兄上……???」
方円が、微笑みながら声をかける。
信虎の瞳が、わずかに揺れる。
「……やり遂げおったか、こやつは……!」
信玄の拳が、震える。
「……!!」
そして、信虎へ視線を向けた。
「すべて、父上の企みだったのですね!!」
信虎は、小さく息を吐く。
震える声で、静かに答えた。
「……最初だけな?」
「どういうことです、父上……!?」
信玄の声は、怒りと混乱に満ちていた。
「兄上、いかがです?」
方円は、槍を軽く握りながら微笑む。
「すべて、綺麗に戻りました」
「本来の土地の持ち主に、正しく返ったのです。」
信虎は、少し苦笑しながら答える。
「戦ばかりしていると言って、儂を追い出したが……」
「結果は、どうじゃ?」
方円の目が、鋭く光る。
「兄上も、同じだったのですよ――」
「同じだったのです!!」
信虎は、小さく頷く。
「それだけは、同意じゃな。」
小笠原長時も、諏訪の兵も、村上義清も続く。
「そうだ、そうだ!」
「いや、それは……。」
信玄の声には、まだ動揺が隠せない。
方円は、捕らえられた兄たちを見渡す。
「どうですか、兄上」
「身内に裏切られる気持ちは…」
「とても…お辛いでしょうね」
そして、瞳を細める。
「でも、“ 私“ はもっと!!!!」
信虎は肩を落とし、遠くを見るように呟く。
「ワシを追い出しておらんかったら、こんなことにはならなかったかもしれぬ……」
「せめて、包円を追い出さなければ……」
拳を握り、覚悟を滲ませながらも、言葉を続ける。
「ワシは、自らの行いゆえ、覚悟しておった……。」
「だが、包円はどうじゃ?」
「確かに、ワシに懐いておった」
「槍の腕も、素晴らしかった」
「だが、悪いことは決してしていなかった。」
「あの子は……優しく、明るい子だったのだ!!!」
信虎の声が、震えと絶望に満ちる。
「おぬしの、ひとつの行いが――」
「ここまで武田を狂わせたのだ……!!」
拳を握りしめ、視線は遠くをさまよう。
そして、小さな声で呟いた。
「……ざまあないわ……。」
その背中に、父としての悔恨が滲んでいた。
方円は、槍を手にしたまま、ただ無言で微笑んでいる。
勝利の冷たさと、すべてを掌握した者の静かな余裕。
「兄上方……覚――」
方円が言葉を続けようとした、その瞬間。
まるで、飲み込まれるように頭に、正蛇の声が響いた。
だが――不思議と頭は、痛くはなかった。
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『殺すのは、やめよ笑。』
『すぐに楽しみが終わってしまう!』
『もっと苦しめてやろうではないか!!』
『教育してやれ!』
『正しさのもとに!』
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「……いえ」
方円は、静かに言葉を続ける。
「兄上も、反省しているようですし……」
「兄上と、従っていた全員」
「“ 再教育“ し直すことで、まとめましょう」
その言葉には、柔らかさの中に冷徹さが潜んでいた。
「まだ、死んでいた方がマシと思うくらいに」
そして、わずかに目を伏せる。
「それに……これ以上、血を分けた兄弟を失うのはつらい……。」
信虎は、その言葉にただ驚いている。
そこには、誰も逆らうことのできぬ現実があった。
方円は、由布姫 へ視線を向ける。
「どうです、諏訪様」
「最終判断は、もちろんあなたに委ねます」
「お父上の恨みがありますからね。」
由布姫 は、小さく頷く。
その表情には、怒りでもなく、悲しみでもなく――
ただ、正しさと秩序の確認だけが残っていた。
「……恐れながら、見事な計略でした」
山本勘助が、わずかに目を細める。
「一体、どうやって我々を出し抜いたのですかな??」
「信玄の懐刀に言う必要はありませぬ」
方円は、静かに微笑む。
「そう……村上殿なら、言うでしょうね。」
そのやり取りを見て、村上義清が小さく息を吐く。
「ふっ……包円殿には、かないませぬな笑」
そう言って、小さく笑った。
「くっ……。」
勘助が、低く呟く。
「もはや、どうにもならんか……。」
そして、目を伏せる。
「やはり、最初から……詰みであったか」
……………。
「……」
信玄の喉が、わずかに震える。
そして、かすれた声で呟いた。
「……茜……」
「悪かった」
「許してくれ……」
方円は、その名を聞き、わずかに目を細める。
「その名は……懐かしい響き……。」
(ですが……私は、もう茜ではないのです)
(正蛇 方円……)
(その名の通り、正しい蛇となったのです)
「待ってくれ、茜……!」
信玄が、必死に声を上げる。
方円は、静かに微笑んだ。
「では、兄上達をお預けしますね」
「教育を、お願いいたします」
そして、その場にいる者たちへ向けて、穏やかに告げる。
「それでは皆さん」
「仲良く暮らしましょう」
「この包円が、平和をお守りしますわ。」
「待ってくれ、茜!!!」
武田信繁が、声を張り上げる。
「忘れてしまったのか!?」
「兄上と仲良くしていたあの、
“ 幼き日“ の思い出を……!」
方円は、ゆっくりと首を横に振る。
「……覚えておりませぬ。」
「追い出されてから、記憶がほとんどないのです」
「追放された時の記憶以外は、ほとんど……」
「何も感じません」
「ただ……苦しかっただけ……。」
「茜……!」
信繁は、唇を噛みしめる。
(くっ……)
(兄上を、あの時止めきれなかったばっかりに……)
(茜!!!)
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そうして――復讐は終わった。
甲斐国と信濃国には、正蛇の槍をかたどった置物が飾られ、
夕陽を受けて、金色に輝いていた。
その光を眺める包円の唇に、
――わずかな微笑みが浮かぶ。
甲斐、信濃には平和が訪れた。
正しく――
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「さあ、我が友よ!!!」
「お前と我は、一心同体」
「……もはや、茜ではない」
「正蛇 方円なのだ!!!」
「共に、甲斐国を導こう!!!」
「正義のために、民のために!!」
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それ以来――正蛇の声は、聞こえなくなった。
いや……正蛇自身が声を届ける必要が、もう不要となったからだ。
方円は、正蛇の存在に気がついていない。
いつものように正蛇との会話の記憶は消されたからだ。
だが、その声に導かれていたことも知らぬまま、 己の意思だと思いながら――
その後、方円は赴くこととなる。
正しさのため、 間違いを嗅ぎつけ、
関東の正義の戦へと、再び向かうこととなる。
~終わり~
コメント
1件
「第十五話 ~終着点~」読了したわ! 信虎の「ざまあないわ」が刺さったな……自分が追い出したせいでここまで狂わせたって自覚してるのが、父親としての悔恨と敗北感で溢れてて辛かった。包円(茜)が「覚えておりませぬ」って言い切ったのも、復讐の完成形としての冷たさが効いてたわ。 最後の「正蛇の声はもう不要」って展開、めちゃくちゃ怖いな。本人が気づかず正しいと思い込んで突き進む感じが、これからの展開にゾワゾワする。琴寧さんの世界観、今回もガッツリ引き込まれたわ🔥