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ただ見詰めるだけ。
私は思いを伝えられない。
いつも配信を見てくれるあの人。
好きだ、と何回思ったか。
私は伝えたい。
のに、
彼はそんなことあるはずないと否定するだろう。
気付いてよ。
私は此処だから。
早く気付いて。
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部活から帰り、そそくさと部屋に入る。
今日もあの人の配信を見る。
パソコンを開き、待機画面を見詰める。
配信30分前だからあまり人は居ないが、配信10分、3分前と近づく事に人は増えていく。
配信が始まる前の恒例の「ピッ」というコメントを打つ。
自分のアカウントから「ピッ」とコメントが出る。そのコメントはあっという間にコメントの山へ流れていく。
まもなく始まる時に今日やるゲームの音がする。
今日はゆったり系のゲームなのか、アコギの優しい音がする。
待機画面が開けて、空間はその人の声でいっぱいになる。
変に取り繕わず素の声をさらけ出すその声は、何人を虜にしたのだろう。
今日も、あぁ、好きだなぁと感じながら配信を見る。
今日は何時までやるかな。
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背景を設定して、衣装も設定する。
ゲームを起動して、チャットを表示する。
これで配信の準備が終わった。
あぁ、あの人は今日も来てくれるかな。
なんてワクワクしてしまう。
あの人には会えないのに。
スパチャを通してメッセージを残してくれる。
それだけで嬉しい。
確かに他の方のコメントやスパチャも嬉しい。でもあの人の心情が分かるような気がして、嬉しいのだ。
「草」そんな一言でも笑っているのだと分かって嬉しい。
「わかる」共感して話を聞いてくれているのか。
たった一言でも私を喜ばせてくれる。
今日はどんなことをコメントしてくれるのかな。
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学校帰りに配信を見るのが当たり前になった頃、僕はこんな感情を抱いた。
「VTuberになりたい」と。
あの人みたいにキラキラ輝くステージに立ちたい。
楽しいことをして過ごせる。誰かが見てくれて話を聞いてくれるあの空間へ行きたい。
もちろん楽なことだけじゃないことも分かってる。
でも僕は憧れた。
あの人に。
あの人の立つステージに。
だから親に話すことにした。
ある程度知識や僕に信頼のある父親に話をしてみた。
怒られるかな。ふざけるなって言われるかな。もしかしたら良いって言ってくれるかな。
色んな感情がぐちゃぐちゃと混ざり、心臓が五月蝿い中父親に聞いてみた。
僕の緊張はなんだったんだと思うほどスルッと「いいと思うぞ」と認めてくれた。
そんなのでいいのか。一応将来の話してんだぞと自分で言った身だが思ってしまった。
だが許してくれたことは事実である。感謝を述べて、部屋を後にした。
母親にも聞こうと思ったが、母親はネットにあまり精通してない。VTuberなんて言ってもハテナが浮かぶだけだろう。
それでも一応説明だけしに行った。
説明したが案の定だった。ずっとハテナが浮かんでいる。
僕は結構語彙力がある方だと思っているが、そうじゃない可能性が出てきた。
いやこれは母親側か。
ともかくどうにかまとめて納得してもらった。
変なとこで納得してたが、まぁ良い。
とにかく親というものに納得してもらったなら敵は居ない。
勉強もしながら少しVTuberも考えて行こう。
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あっという間に僕は高校卒業の1歩手前まで来ていた。
VTuberの将来を考え、親に納得してもらって、そこからは早かった。
文化祭も、体育祭もして、勉強してるうちにあっという間にここまで来た。
親には高校卒業までに色んな知識を叩き込んでおくと言っておいた。
今は「にじさんじライバー募集」に応募するところだ。
震える指で応募を押した。
これであとは結果が来るまで待つだけだ。
結果が来るまで受かった時用のリアクションでも準備しよう。
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ついに今日、結果が送られてくる。
時間にスマホに通知が来たら合格、来なかったら不合格。
バクバクと主張する心臓が五月蝿い。痛い。
ついに時間になった。
息を飲む。
鼓動が早くなる。
スマホがブルっと震える。
スマホの上部に
「にじさんじライバー合格のお知らせ」
と通知がくる。
それを見てから叫ぶ余裕も無く、ただスマホを見て泣いていた。
じわりじわりと涙が溢れて止まらない。
親に見守られながらだった為、良かったな、おめでとうと言われながら背中をさすってくれている。
あぁ、ようやくそこにいけるよ。
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朝、通知の音で目が覚める。
今日は仕事も配信も休みなのになんだ?と思いながら眼鏡を掛け、スマホを見る。
通知欄ににじさんじ公式のポストの通知が来ていた。
開いてみると、
「新たにライバーがデビュー!」
と書いてあった。
どんな人だろうと通知をタップし、画像を見る。
私はその画像を見て固まってしまった。
それはそう。
だってその人は、
私が、
叶わないと思った人だったから。
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今日はデビュー初配信。
心臓がまたあの日みたいにドクドクと五月蝿い。
話題が飛ばない様に台本まで書いてきたんだから大丈夫だ。
そういい聞かせる。
時間になった。
配信を始めよう。
配信開始のボタンを押した。
「あ、始まってるかな…」
「初めまして、剣持刀也です。」