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あの日、光のもとに連れ出してくれた君をおれは今でも恋い焦がれている__
ジリリ…
今までより少し早い時間帯に鳴る目覚まし時計を、大倉るいは寝ぼけながら止める。今日は高校の入学式なのだ。急いで身支度をし、家を出ると彼と出くわした。そう、るいが密かに恋心を抱いている幼馴染の宮瀬ゆづきだ。
「ゆづちゃん!ナイスタイミングだね!」
この片思いはもう数年以上拗らせているのだ。今更、出会ったくらいで動揺などしない。
「ドンピシャだな!運命的すぎ笑笑」
思わずドキッとさせる思わせぶりなゆづきの発言にもスルーできるほど拗らせているのは、自分のことながら少し哀れに思うが。
ゆづきは中学の時は身長が167cmでるいが175cmだった。しかし中学の後半になってから急に伸びたせいでゆづきとるいは178cmと同じ身長になってしまったのだ。今までは横並びに歩いていると、ゆづきのほうを向いていてもゆづきにはバレなかったのにな、とのんびり考えつつゆづきと談笑しながら登校する。クラス表を見てみると今年もゆづきと同じクラスだった。
「すげえ笑今年も同じだぞ笑もう8年になるのか?」
ゆづきが笑いながら話しかけてくる。るいは毎回春休みに入るとゆづきと同じクラスになりますように、と毎日お祈りしてるのだから努力が認められたかのように同じクラスになって喜んでいるのだが8年も一緒となると運命を疑ってもいいような、、そんなわけないかと自分でセルフツッコミしつつ、とぼとぼと教室へ向かった。
教室に入ってみると、新クラスらしく静まり返っていた。
「いっぱい人がいるね…」
アホっぽいことを言ってしまったなと後悔しながらゆづきの返事を求めると
「マンモス校なんだから当たり前だろ」
と、なんともゆづきらしい返答がくる。 40人もいてこんなに静かなのは如何なものか、、先程の会話も通常の声量でしていたがなんせ静かなためみんな聞こえていたらしく全員興味深そうにこちらを見ていた。
友達がたくさんできるといいな、100人作っちゃおうかなと意気込みながら自分の席の、いわゆる「青春席」へ着席する。隣席の人をちらちらと確認してみたのだが、、なんと寝ていたのだ。彼は緊張というものがないのだろうか?んん、と寝起きの体を起こしたので、 緊張をものともしない彼に軽い尊敬を抱きつつ声を掛ける。
「あの、おはよ笑おれるいって言います!名前なんて言うの?」
ドキドキしつつ話しかけると彼はこちらを向いて笑顔で挨拶し返してくれた。
「おはよう笑昨日緊張しすぎて寝れなかったから反動きたわ笑おれははるきだよ、これからよろしくな」
上半身うつ伏せにして寝ていたからわからなかったがはるきは相当モテそうな顔をしていた。寝起きに声をかけたのにもかかわらず優しく接してくれたはるきに早くも好感を持ちながら会話を続けてみる。
「部活なにはいるかもう決めた?!まじで多くて迷っちゃうんだよね」
マンモス校ということもあってこの学校はとても部活数が多い。一応春休みの間にも何に入るか考えてはいたものの結局決めれず新学期になってしまったのだ。
「おれはサッカー1択!多くて迷ったけどやっぱサッカーやってたし安定枠取っちゃった笑」
「え!サッカーしてたの?!すげえ!! 」
など、和気あいあいと会話していたら何やら鋭い視線を感じてそちらを見てみるとゆづきがこちらを見ていた。どうしたのだろうか、なにか伝えたいことがあるのだろうか、るいにとってゆづきは第一に優先するべき存在である。はるきとの会話を早々に終わらせてゆづきの席へ向かう。
「ゆづちゃん!どうしたの?おれのことめっちゃ見てたじゃーんおれのこと好きすぎかよー!」
軽いノリで喋りかけてみると、
「ん、、なんで来たの?隣のやつと楽しそうに喋ってたじゃん、もういいのか?」
は?食い違った言葉でお互い首をひねる。明らかに見ていたのにゆづきは無意識だったのだろうか?ツンデレのような発言をしていたためもしや嫉妬か?と、勘違いしてしまいそうになるのだが、るいは中学3年生のころ痛い思いをしていたのだ。
あれは中学生で最後のバレンタインの日。るいもゆづきもそれなりに顔が整っているため毎年女の子からチョコをもらうのだが、なにしろチョコ1粒のダメージがでかい。凝縮されたチョコレートを毎年毎年瀕死になりながら食べているのだが中3のバレンタインの夜、ゆづきがチョコを1袋渡してきたのだ。え、、?!と色めき立ちながら確認してみる。
「これって、、今日がバレンタインだから渡してくれたの、?」
そうであってくれ、と半ば願望を秘めつつゆづきに聞いてみると
「そうそう!あげるよ あ、ねーちゃんとおばさんには黙っててくれ」
姉と母にも黙ってほしい、とはつまりるいの思っているような、そういうことなのだろうか?ゆづきも同じ気持ちでついに今年想いが通じ合ったのか?嬉しさのあまり少し涙ぐむ。ダサい姿を見せたくなくてバレないように俯いたのだが、、
「まじで女子からのチョコ多すぎて、、るいはどんくらいもらったの?おれ去年から5個も増えちゃってさ笑くれた女子には悪いんだけどるいも一緒に食べるの手伝ってよ。」
まさに青天の霹靂。こぼれかけた涙も目にも止まらぬ速さで引っ込んでしまった。脳天に直接雷が当たったのか、とでもいうくらいの衝撃を受けたのは今でも覚えている。バレンタインだからくれた、というのは女子からゆづきへ渡したことであって、るいのことではない。”違う意味”ですれ違ったのだ。ゆづきがるいのことを恋愛的な意味で好きじゃなかったとしても、少しでも気になる相手にはこんなこと言わないだろうし、しないだろう。やはり、完全に好きになってくれることはないんだろうなとその時悟ったのだ。
そんなこともあってか思わせぶりな言葉や態度は全部勘違いだと知ってしまい無を保てるようになった。だから先程の鋭い視線やツンデレを思わせる言葉はおそらく ”はるきと仲良くしたかったのにるいに先を越されてしまって見ていた” か、”にこいちであるるいが他の人と2人になるとおれが一人になってしまうから、そんなるいにいらだって見ていた” かのどちらかであろう。
もう13年も親友でいるとこんなことだってわかってしまう。自慢気に思う一方でそれ以上には発展しないんだよな、と自虐気味に考える。と、なんとなく考えていたらチャイムが鳴り、担任と思わしき教師が入ってきた。いかにも先生、というような感じではなくすこしよれた黒の上下ジャージで、上着は開けて中には白のシャツを着ていた。こんな中年オヤジのような人が担任なのだろうか、とがっかりしながら着席しHRが始まった。