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あくまで個人の趣味であり、現実の事象とは一切無関係です。

スクショ、無断転載、晒し行為等はおやめください。



何もかも上手くいかない日だった。人に迷惑をかけたり、それとは別で理不尽に叱られたり。どちらかと言えば気持ちの切り替えは得意な方だと思う。でも散々だった今日と、最近続いてる不調のせいでイライラした気持ちが消化できないでいた。眠るのが恐ろしくなるくらいには不安で落ち着かない。寝室に入りベッドの中を覗き込むと、規則的に上下する肩があった。そりゃ寝てるよね。


「キャメさん」


この静かな空間でも響かないくらい小さく呟いた。繊細なコイツはほんの小さな物音でも目を覚ます。


気づかないで。起きないで。


そう願いながら名前を呼んだのは、気を使わせたくないから。


「ん、り…ちょ、くん…?」

寝起きの掠れた声で名前を呼ばれた。ああ、起こしてしまった。迷惑だって分かってて声をかけた俺が悪いんだけど。

「起こして、ごめん」

寝ぼけながらウーウー唸ってたのに、俺のちっさい謝罪は器用に拾い上げた。

「なぁに。眠れなかった?」

「…うん」

キャメさんの低くて柔らかい声に、喉がキュッと絞まって鼻がツンとした。柄にも無く泣いてしまいそうだった。

「そう。じゃあ眠れないりぃちょくんだけ特別に、一緒に寝てやるよ。ほらおいで」

そう言って布団を捲った。俺を迎え入れるように暗闇が覗く。恐ろしいはずの暗闇が、優しくて暖かかった。もぞもぞと素直に入り込めば、温い彼に包み込まれる。

「んふ、いらっしゃい。…ところで」

「ん?」

「聞いてもいいの?話したいなら聞くよ。それとももう眠れそう?」

話したい。聞いてほしい。でも明日の仕事は早いよ。

「キャメさん、は…寝なくていいの。さっきまで、寝てたじゃん…」


起こしたのは俺だけど。


「バカだねぇ。君が一人で泣くくらいなら寝なくていいの」

「ないて、ないし」

「泣いてるよ。泣きたかったんでしょ。…俺を呼んでくれてよかった」

なんでそんなに優しいの。寝てるやつの事わざわざ起こして、挙句の果てには眠れないって駄々こねて一緒に寝させてるんだぞ。

「おれ、迷惑しかかけてない」

「いいじゃん。迷惑も我儘も可愛いもんだよ。それにね、泣いたらいいよ。それだって迷惑じゃない」

「だって、だっ、て」


迷惑で、面倒で、嫌われたくなくて。色々気にしてたから。


「ああ、ほら見たことか」

キャメさんのゴツゴツした手が俺の目元を撫ぜた。止まらない涙がこの人の手を濡らしていく。頬を摩る手の音だけが響く少しの静寂。それからキャメさんはやっと口を開いた。


「あのね、りぃちょくん。泣いていいんだからね。ただ一人で泣かないで。誰でもいいんだ。メンバーでも親でも友達でも。りぃちょくん泣いてスッキリするタイプじゃないでしょ?元通りにしてくれる人の側で泣きな」

寝起きで低くて枯れた声。不機嫌そうに聞こえて、優しさしかない言葉。世間も静まり返った妙な時間。多分いろんなことが重なってポロッと我儘が溢れてしまった。


「キャメさんがいい」

「…え、」


たった一文字の困惑の声に血の気が引いた。嫌われないようにって思ってたのに。どうしよう。面倒だったかな、男のくせに気持ち悪かった?

「っ、」

「ちょ、ごめんごめん!そんなに不安そうな顔で泣かないで。嬉しくてびっくりしただけだから」

涙を拭っていた大きな手が離れてしまう。しかしすぐにしっかりと抱き寄せられた。

「ありがとね、俺がいいって言ってくれて。泣きたくなったら俺のところにおいで。明日うちの鍵をあげるから、好きな時に来て。今日みたいに起こしてもいいし、俺を呼びつけてもいいから」

「あ、え、え?かぎ、キャメさんの家の鍵…?」

「うん。合鍵。もっとカッコよく渡したらよかったね。でもりぃちょくんが泣くための鍵として使ってもらえるならダサくてもいいかなって。泣きたい時以外でも使ってくれたら嬉しいけど」

ボロボロ。いつの間にか止まっていたはずの涙が、また流れ始めた。


「今日は特別泣き虫だな。目ぇ溶けちゃうよ?」

「う〜、うれしぃ、からぁ」

「んふ、うれしいかぁ。じゃあしばらく我慢してた分泣いちゃいな。明日はちょっと早く起きてお風呂入って目冷やそうね」


あとは何したい?なんて、一段と優しく聞いてくる。


「ずっと、一緒にいたい。ぜんぶ、一緒にする」

「ふはは、そうね。ずーっとずーっと一緒にいようね。まずはほら話、聞かせてくれるんでしょ?」


その言葉には何を言っても受け入れてくれそうな優しさがあった。


多分とてつもなく長いけど、今日だけは最後まで聞いてね。



「   」




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