この作品はいかがでしたか?
201
この作品はいかがでしたか?
201
⚠️注意⚠️
・一次創作BL
☆全年齢
#黄昏ファンタジー応募作品
人は、死んだら星になるんだって。
それは、大きく輝く一等星かもしれないし、隣でひっそりと輝く二等星かもしれない。
次に会う時は、流星になって、君に会いに行くよ。
なぜ会えるかって?
流星は、地へと落ちていくものだから。
空と地が繋がる瞬間だから。
でも、流星になるためには、エネルギーが必要なんだって。
だから、地へ落ちるその日のために、力を蓄えておくんだ。
いつか落ちる、その日まで
_________________
ピッ… ピッ…
規則的な機械音が鳴っている。
生活感が一切無い真っ白な部屋。
まあ、此処は病室だから当たり前なのだが。
「流星、」
「ん〜?なに?」
俺の真剣な声に反して、目の前にいる奴は、 間延びしたお気楽な声を上げた。
「今日は身体…大丈夫か?」
「何だよ、心配してんのか?お前らしくねー(笑)」
「うるせぇよ」
葉月流星。
俺、七海 逢の幼馴染で、恋人。
高一の夏に付き合い初めて、丁度二年が経つ。
「逢はどうだ?受験勉強してるか?ちゃんと食ってるか?」
「お前は俺の母さんかよ…」
流星は、重い病気だった。
確か…不治の病、だったっけ。
長くは生きられない運命にあった。
でも、此奴は俺の心配ばかりした。お見舞いに来る度に「調子はどうだ」とか「受験勉強やってるか」とか……。
俺より自分の身体を心配してほしいのが本音ってとこ。
「飯は三食ちゃんと食べてるよ。受験勉強はまあ…ぼちぼち」
「ちゃんとしねぇと、第一志望受からねぇぞ?」
「もう俺は大学行けねぇから…せめて逢には第一志望合格してもらわねぇと」
「そんなこと言うな。流星も大学に行くんだろ?諦めんなって」
「…ありがと(笑)」
流星は、困ったように笑った。
嗚呼、どうかそんな風に笑わないでくれ。
そんな笑い方じゃ、もう死を受け入れてるようではないか。
「(…俺は認めない。絶対に。奇跡的に治る。きっとそうだ)」
流星が病気だと、もう治らないのだと知った時からの俺の信念だった。
これだけは曲げるもんかと誓った。
_______________
ミーンミンミンミン……
かっと照りつける太陽。
うるさく合唱する蝉達。
夏休みに入ってから、一段と暑くなった気がする。
汗ばんだ額を手で拭いながら、今日も俺は流星の居る病院へと向かった。
ガラガラガラ
「よぉ、流星」
「逢…毎日来てくれてるけど、自分のことはいいのか?」
「おい、来た途端説教はやめろよ」
「俺が来て嬉しいだろ」
口の端を上げてニヤリと笑う。
流星は、図星と言わんばかりにぼふんと顔を真っ赤に染めると、頬を膨らませた。
「うるせぇ!とっとと土産を渡しやがれ!」
「はいはーい(笑)」
照れ隠しの時は、顔を背ける癖がある。
そんな所も、全部好きだ。
「体調は大丈夫か?」
「おう。今んとこは」
「もうちょっとで退院できるんじゃね?」
俺が笑いかけると、流星は顔を曇らせた。
やべ、地雷踏んだ?
「……そうだな」
「…おう」
困ったように笑う流星に返す言葉が無く、乾いた返事をしてしまった。
「…ま、今日は色々持ってきたし、久々にゲームで対戦しねぇ?」
「お、いいな。俺の腕訛ってねぇかなー…」
「もしかして、今日は俺が勝つ日だったり… 」
「やめろ!それが本当になったらどうするんだ!」
「(笑)」
ゲーム機を二人分取り出す。
流星のお母さん…おばさんから、流星を楽しませてね!と言われて、ゲームやらなんなら色々持たせてくれたのだ。
「(…また、家でもできたらいいな…)」
仄かな期待に胸を踊らせる。
そんな日が来ないなんてこと、わかっているのに。
_____________
翌日。
今日は夏休みの宿題を進めにかかる。
いい加減宿題しろって流星がうるさくメールを送ってきたからな。
「……あー…やる気出ねぇ…」
早く流星に会いたい。
でも宿題やらないとキレられる。
「彼奴怒らせたら怖ぇからなぁ……」
はぁ、とため息をひとつ吐くと、渋々シャーペンを握り直した。
カリカリ……
カリカリ……
不規則に間を挟んで聞こえるシャーペンの音。 時折カチカチと芯を出す音も交えて。
集中していたら大分時間が経ってしまっていたらしい。もう夕方前だ。
「…流石にここまで終わらせたら、流星も怒らねぇよな…?」
「…うん。まあ、頑張った俺へのご褒美だよな!!」
無理やり納得させると、スマホと財布を片手に家を飛び出して行った。
母さんの驚いた声が聞こえるが、そんなものに構っている暇などない。
ガラガラガラ
「よっ、流星」
「逢……お前……」
「待ってください違うんですちゃんと宿題進めました」
「本当か…?」
扉を開けて早々、じとりとした目で此方を見てくる。
怒ってる所も可愛い……じゃなくて。
「本当だよ。昼飯食べた後からさっきまで宿題してたんだぜ?」
「……まあいいよ。お前が宿題終わってなくても俺は困らないし」
「とか言っといて〜?俺に会いたいとか思ってたんじy(((((」
「もう帰れお前ええええ!!!!!」
「まってごめんなさいごめんなさい!!!」
「……お前ここ病室なの忘れてたのか?」
「うるせぇ。お前が変なこと言うのが悪いんだ」
「えぇ…」
あんなぎゃあぎゃあ騒いでいたらもちろん他の病室や看護師さんにも聞こえてしまう訳で。
いつも優しい女性の看護師さんにめちゃくちゃ怒られて、今さっき解放された所だ。
「…はぁ。まあ、会いに来てくれたのは嬉しいよ。ありがと」
「はい認めたーさっきは否定してたのにー」
「うるせぇな…!!////////」
いつもの癖が発動した。
これは照れ隠しだ。
「はいはいとにかくさ、勉強してたんだけどわかんないとこあって。教えてくれね?」
「人に頼む時は?」
「教えてください葉月様」
「よろしい」
くだらない茶番をして。
たくさん怒られたり、笑ったりして。
こんな普通の何気ない日々でさえも、長く続いてはくれない。
……いや、今は目の前のことに集中しないとな…。
______________
そんな感じで一週間が過ぎた。
夏休みもあと半分って所で、今日も俺は流星のお見舞いに足を運んだ。
「(今日のお菓子はここら辺でも有名な店のケーキ…)」
「(いやぁ、母さんに土下座して頼んだかいがあったわ)」
母さんと譲れない攻防をしている場面を思い出して苦笑いをする。
流星が喜ぶ顔を想像して、また笑う。
うきうきしながら受付へ向かうと、その喜びは何の感情もない一言で一気に消し去った。
「すみません。今、葉月様は高熱を出しておりまして…身体の抵抗力も落ちている状態でしたので、かなり危険な状態となっていて、今は面会拒否となっています」
「………」
「……り、流星、は……もう、し、死ぬんですか」
必死に絞り出した声は、自分でも驚く程小さく、乾いていた。
「今はまだわかりません。後三日程で面会できるようになると思いますので、それまでお待ちください」
「………かり、ました」
看護師の冷静な声にまた打ちのめされた。
そうか。看護師はこういうの慣れてるもんな。俺と違って。
視線を下に移すと、先程買ったケーキの箱が腕の中で主張している。
泣きそうになるのをぐっと堪えて、病院から出て行った。
カァカァとカラスが鳴いている。
時折、何かの虫が鳴く音も聞こえてくる。
夕焼けに照らされて目の前に伸びていく影が、すごくちっぽけで。寂しげで。
「流星……」
死なないよな。
まだ、生きれるよな。
高校を卒業して、大学に行って、それから____
気づけば、影はさっきよりも伸びていた。
____________
「………」
既読が付かないメールを暫く見つめて、諦めると、ベッドに寝転んだ。
「はぁ……」
コンコン
「流星。昼ご飯できてるわよ!」
「いらねぇよ」
今はもう何も食べる気分じゃなくて、ここ最近も親にも反抗してばっかりだった。
まるで中学生の反抗期のようなやりとりを繰り返していた。
「いつまでうじうじしてるの!三食ちゃんと食べないともたないわよ!!」
「だからいらねぇって!!」
一歩たりとも引く気配のない母さんに嫌気が刺して、遂に怒鳴ってしまった。
しばらくしんと静かになったかと思うと、ガチャッとドアを開けて、ずんずんと俺の部屋へ入ってきた。
「は!?ちょ……」
「そんなんで流星君に会ったらボロクソ言われるよ!!」
「次、流星君に会える時、あんたが体調崩してどうするんだい」
「母さん……」
「ほら、さっさと食べなさい。勉強も捗らないよ!」
「………うん」
「もう…世話が焼けるわほんと…」
ぶつぶつ文句は言っていたけど、母さんは清々しいと言わんばかりに笑っていた。
なんだか複雑な気持ちだったが、言い返せないってことは、きっと俺にとってその言葉が図星だったということだ。
「(はぁ…ほんと、母さんには全てお見通しだわ…)」
深々とため息を吐いた。
しかし、それは憂鬱のため息ではない。
口角は少しだけ上がっていた。
_______________
ガラガラガラ!!
「あ、逢____」
「流星!!」
「おわっ!?」
三日間、ずっとうずうずしながら過ごしていた。
そんな気持ちは勉強に集中することで発散させた。流星に会った時に怒られないし、宿題も終わるしで一石二鳥ってやつだ。
ずっと既読が付かなかったメールに既読が付いた時の喜びと言ったら、それはもう言葉では表せない程で。
直ぐに家を飛び出して、院内を全速力で走って、病室に飛び込んだ。
「流星、流星…!!生きてる…よかったぁ……」
「逢…」
「……ごめん。心配かけた」
「本当だよお前…熱とか出しやがって…」
「もう大丈夫なのか?」
「おう。もう平気だぜ」
「はぁ…ったく…」
流星はいつもの明るい笑顔に戻ると、俺の手に下げられた箱を指さした。
「あれ?お前、それ…」
「ん?ああ、ケーキだよ。お前が前食いたいって言ってた店の」
「うっわマジか!!おい、早く開けてくれよ」
「へいへいわかったから待っとけ」
わくわくしながらキラキラ目を輝かせている様子は、まるでご褒美のおやつを欲しがる子犬のようで、くすりと笑ってしまった。
「ほら、」
「うわ美味そう…!!」
「どっちがいい?」
「こっち!」
「(笑)だと思ったわ(笑)」
流星が好きなケーキはチョコレートケーキだ。
そして俺が好きなのはチーズケーキ。
恋人として二年、それ以外も含めたら十年以上の付き合いである俺の勘を舐めないで頂きたい。
「うっまぁ…」
「そうか?ならよかった」
「(よかった…もう流星に会えないのかと思って、一人で二つ食べようとしてたからな…)」
ちょっと恥ずかしい思い出は今は置いといて。
目の前で夢中でケーキを頬張る恋人を眺めているとしよう。
「ごちそうさま」
「ん、ゴミは俺が家に帰って捨てるから」
「今日はもう帰る?」
「ああ、もう遅いしな。また明日来るよ」
「早く宿題終わらせろよ?」
「わかっとるわ!!」
いつものやりとりをすると、手を振って病室を後にした。
「…………」
病室が一気に静かになった。
まあ、うるさい奴が居なくなったもんな。
「はぁ…この命も、あと…」
___________
夏休みも後一週間ちょいになった時。
流星は、俺にこんな提案をしてきた。
「なぁ、逢。流星群、一緒に見たい」
「え?」
「ほら、ペルセウス座流星群。最近ニュースでもやってるだろ」
「ああ、流星群か。でもお前、外出できるのか?」
「もちろん許可証はもらってない」
「おい!!」
流星は、時折、真顔でギャグを言ってくるものだから、思わずツッコミを入れて笑う。
そんな俺を流星はまあまあと諭すと、ニヤリと何かを企んでいるような笑みをして言った。
「つっても、ここの屋上でも結構綺麗に見えるぞ」
「お、てことはつまり…?」
俺も流星と同じ笑みを浮かべると、二人で同時に言った。
「「夜中にこっそり抜け出す!」」
「いや、やっぱこれこそ病院の醍醐味」
「夏の醍醐味みたいな言い方やめろ(笑)」
「ふはは(笑)つーわけで、十三日は面会時間過ぎてもなんとか乗り切るっつーことで」
「うわぁ…上手くいかなかったらお前の所為な」
「はいはいわかったよーだ」
意地悪な笑みを浮かべた流星は、なんだか、すごく高校生らしい無邪気な笑顔だなと思った。
___________
ガラガラガラ
「今日も二十一時に消灯だからね。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
パタンと扉を閉めると、病室を仕切るカーテンを開けて、サッと閉じた。
「…お、検査終わったのか?」
「おう、ばっちり。後は屋上に行くだけだぜ」
夜。もうとっくに面会時間は過ぎており、本来ならばもう寝る時間だ。
「いやぁ、上手くいったな。看護師が来る度にベッドの下隠れりゃバレねぇし」
「親への連絡は?」
「ちゃんと入れといたよ。母さんからめっちゃメール来たけど無視するわ」
「うわ、怒られコース確定だな」
「マジで最悪…」
後から母さんの説教が待っていることにはため息が出るが、それでも俺に後悔はない。
夜に流星と病院を抜け出して星を見るなんて、なんともロマンチックではないか。
「んじゃ、早く屋上に行きますか」
「鍵かかってたりしねぇの?」
「大丈夫。あそこの扉古いから鍵は元からかかってないんだ」
「へぇ…」
これからの楽しい時間に自然と緩む口角を堪えながら、病室を出て行った。
ギィィ……
「屋上だぁぁーー! 」
「はぁぁ…緊張したわ…」
息切れ気味の俺に反して、流星はなんとも楽しそうに身体をくるくると回して踊っている。
「今何時?」
「今?今は九時半だから…見頃までにはまだ時間かかるな」
「そっか。じゃあ、寝そべりながら暫く話そうぜ」
「だな」
大きく大の字に寝そべると、視界の端から端まで、真っ黒な空に白色の星々が輝いていた。
流星は、ただ真っ直ぐと空を見つめている。
暗闇に溶ける恋人の存在を確かめたくて、おもむろに手を握ると、彼は少しびっくりしたような顔をして、頬を赤く染めながらも握り返してくれた。
「あー夏休みに良い思い出作れたわ」
「マジ?ならよかった。俺がこんなんだからお出かけとかできないし…」
「そんなこと言うなよ。俺はお前と恋人になれて良かったし、後悔だってしてない 」
「……そっか」
視線を流星の方に向けていないから、彼が今どんな顔をしているのかはわからないけれど。
でも、きっと笑ってくれているのだろうと、声でわかった。
「俺と逢って、もう何年の付き合い?」
「恋人関係になったのは…今から丁度二年前くらいだな」
「そっかぁ…早いな」
「あっという間だよ。もう卒業だぜ?」
「卒業まで生きられるかな?」
「そうやってネガティブになってると、幸せ逃げるぞ?」
「はは(笑)俺、お前のそういうポジティブなとこ好きだわ(笑)」
「お、あの素直じゃない=流星で有名な流星君が素直にっ…!!」
「おい??」
ガバッと起き上がってこちらを見下ろしてくる流星にふっと笑いを零した。
ああ、流星は今、こんなにも元気なのに、いつかは居なくなってしまうのだ。
「……逢は…俺が居なくなったら、新しい恋人を作るのか?」
「あぁ!?作るわけあるか!!俺はずっと流星一筋だわ!!!」
俺もガバッと起き上がって流星を睨んだ。
…なんかものすごく恥ずかしいことを言ってしまった気がする。
「あっははは!!(笑)お前、俺にベタ惚れじゃねーか!!(笑)」
「そうですよベタ惚れですよーー!!!」
「お前は?」
「俺もベタ惚れでーす!!(笑)」
「(笑)」
ふざけて、笑って、それを繰り返して、また笑った。
ついに、一時間程経った頃。
「…あ!!」
「ん?どうした?」
「流れ星!」
「え、マジで!?」
空を指さしてぴょんぴょん跳ねる流星が可愛くて、笑いながら俺も空を見上げた。
刹那、また流星が地上へ落ちてきた。
「お、俺も見えた!」
「まって願い事しないと…!」
空に向けて手を合わせた流星に、俺もつられて手を合わせる。
二粒、三粒…流星の数はどんどん増えていく。
まるで、神様からの贈り物のようだった。
「(神様、どうか、流星が___)」
「(神様、どうか、逢が___)」
「(長生きしてくれますように)」
一番大切な君を思って、静かに、真剣に、ずっと、ずっと……願い続けた。
「俺もそのうち、あの星たちのひとつになるのかぁ」
「ばーか。俺がさせねぇよ」
流れる星々を見ながら笑う流星の横顔は、もうとっくにすべてを諦めているような、受け入れているような、そんな笑みで。
ああ、もう俺には何もできないのだと、嫌でも思い知らされて、自嘲的に笑った。
「あーあ。また明日から美味くもない病院食だよ…」
「(笑)また美味い菓子持ってってやるから」
「マジ?楽しみだわ(笑)」
神様。
まだ、日常を続けさせて。
終わらないで。
連れていかないで。
…いや、流星はまた…俺と笑ってくれるよな?
居なくなったり…しないよな?
「…なぁ、逢」
「ん?」
「俺…俺な、」
「後、一ヶ月の命なんだ」
「は?」
「な、なぁ、冗談はやめろって。な?」
「ううん、冗談じゃないよ。本当」
「………」
嘘だ、違う、と何度も自分に言い聞かせているけれど、そんな薄っぺらい守りは、流星の真剣な瞳が粉々に壊していく。
「この前…熱出した時さ、言われたんだよ」
「もう、もたないってさ」
「……そん、な、」
「…だから、ね、逢___」
「違う!!!!」
静かな声で諭すように言う流星に俺はついに限界が来てしまって。
気づいたら、辺りはしんと静まっていた。
「そんな事言うなって!!流星はちゃんと卒業して、大学行って…!!」
「逢」
「もっと、もっと生きて!!俺と…!!」
「逢!!」
「…!!……」
流星の肩を揺さぶっていた両手を離すと、力なく落ちた。
きっと俺は今、酷い顔をしている。
涙は辛うじて堪えているけれど、瞬きひとつでもしたら、零れてしまいそうだ。
「もう、辞めよう。俺は…辛い」
「は、?辛い、って……」
「逢。もういい加減、俺の死を認めて。もう俺は治らないんだ」
「んなことできる訳ねぇだろ!!」
ついに溢れてしまった。
ボタボタと、大粒の涙が頬を伝う。
「急に病気だって言われて、不治の病だって言われて…!挙句の果てにはそれを受け入れろって!!頭おかしいんじゃねぇの!!?俺がどれだけ悲しいと思ってるか…知らないくせに…っ!!」
「じゃあお前は、俺が死ぬことをどう思ってるのか、言えるのか?」
「……」
流星の、気持ち。
そういえば、今まで俺がそういう話題は避けてきたせいで、ちゃんと聞いてなかった気がする。
「俺は、最期は笑って終わりたいんだ」
「たくさん思い出作って、もう後悔はない!ってくらい遊んでさ」
「逢。もう先が短い俺からの、最後のお願いだよ」
「……りゅう、せい……」
俺は信じていた。有るはずのない”永遠”を。
でもそれは結局、流星が居なくなってしまう恐怖心に負けてしまったから信じ続けていた訳で。
でも、それが流星を傷つけてしまうのならば…それを押してまで、信じ続ける必要は欠片もないのではないか。
「…ごめん」
「謝るなよ。…俺も、言いすぎた」
「うん…」
「…流星。お前の最後のお願い、恋人として聞くよ」
「!本当か!?」
「ああ。最後にめちゃくちゃ思い出作ろうぜ?」
「!おう!(笑)」
笑い合う俺らの頭上に一粒の流星が流れ落ちた。
それはまるで、俺らの背中を押してくれるような、優しく、強く、美しい星だった。
___________
「外出許可貰えたか?」
「おう!ばっちり!」
「やったな!どこ行く?」
「まずは食べ歩きっしょ」
「(笑)そうと決まれば行くぞ!」
「ああ!」
「まってめっちゃ美味いこれ」
「マジ?一口ちょうだい」
「ん、あーん」
「んー!うま!」
「(さりげなく間接キスしたな俺ら…)」
「よっしゃー!また俺の勝ち〜」
「くっそ…このままだと俺が奢ることになるっ…!!」
「(笑)精々頑張れよ〜」
「うぐぐぐ…!!」
「あー!楽しかったな!」
「おー明日はどうする?」
「…お前課題終わってるのか?」
「終わっとるわ!」
「お、成長したな」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ…」
ああ、楽しい。
素直にそう思った。
明日は何をしよう。どこへ出かけよう。
…この時間が、ずっと続いたらいいのに。
_____________
「なぁ、逢。人は死んだら星に還るって聞いたことがあるだろ?」
いつもの病室で、流星はそんな話をした。
「ああ」
「還った星は、いつか流星になって想い人に会いに行くために、力を蓄えておくんだってさ」
「それ、あの絵本のやつだろ?」
「そうだよ。俺が流星になって逢に会いに行く時、この話を思い出しながら空を見てほしいなって」
そう言って、流星は少し色あせた絵本を引き出しから取り出した。
俺も何度も見たことがある絵本だ。
そして、ある言葉が書いてあるページを開く。
人は死んだら星になるんだって。
それは、大きく輝く一等星かもしれないし、隣でひっそりと輝く二等星かもしれない。
次に会う時は、流星になって、君に会いに行くよ。
なぜ会えるかって?
流星は、地へと落ちていくものだから。
空と地が繋がる瞬間だから。
でも、流星になるためには、エネルギーが必要なんだって。
だから、地へ落ちるその日のために、力を蓄えておくんだ。
いつか落ちる、その日まで_____
「!!”う”ぇ”っ、げほ”、ごほ、っ!!」
「!?流星!!?」
読み聞かせの途中で、突如流星は血を吐いて苦しそうにもがきだした。
「ぅ”っ…ぐ、くるし”っ…」
「待ってろ、今ナースコールを…!!」
ああ、
ああ……
そうか。
もう… 流星には… 時間が……
「……流星…」
流星は、集中治療室に運ばれた。
当然、今流星がどうなっているのかもわからない。
「(まだ死ぬなよ…伝えたいことも伝え終わってないんだから…)」
神様。
あの日、夜空へ願いをかけた時のように、手を合わせる。
まだ、日常を続けさせて。
終わらないで。
連れて行かないで。
一番大切な君を思って、静かに、真剣に。
ずっと、願い続けた。
_______________
「…ごめん。流星」
「謝るなって」
あの後、俺が起きたのは倒れてから二日後だったらしい。
時間の感覚が無いから、そんなに長い時間眠っていたとは思わなかったけど。
やはり、ここ最近遊びすぎたのが災いしたようだった。
「俺は、お前と久しぶりに遊べてめちゃくちゃ楽しかったよ」
「あー…まだやりたい事はあるけど…もう動けねぇかな」
「…大丈夫だ。また外出できるようになるだろ」
「…はは、ここまで来ても前向きなお前見てると、元気でるわ(笑)」
「まだ後悔が無くなるくらい遊んでねぇだろ?それまでは生きねぇとお前成仏できねぇぞ」
「それは御免だわー…」
「(笑)だろ?なら早く体調治して、外出許可取ってこいよ」
「おう」
コツンと拳と拳を合わせた。
逢がそう言ってくれると、本当に叶えられそうな気がした。
もう時間がなかろうが、身体が動かなくなろうが、後悔がないくらい遊べるまでは耐えきってやる。
そう、心に誓った。
________________
それから二週間後。
流星の命が後もう少しで尽きると言われた日から、一ヶ月が経とうとしている。
夏休みが終わって、受験勉強にいっぱいいっぱいになっても、流星と会うことだけは欠かさなかった。
主治医に必死に頼み込んで外出許可を貰って、流星が行きたいと言った場所にたくさん遊びに行った。
神様。
もう少しだけ、あとほんの少しだけ、日常を続けさせて。
終わらないで。
連れて行かないで。
あと、ほんの少し_______
「流星、流星、」
「泣きすぎ。ちょっとくらい笑えっての」
「…おう」
「…うん。良い間抜け顔」
「おい」
「ふはは(笑)」
流星は、見てわかる程弱っていた。
今は、立つのもやっとらしい。
死ぬ前に、流星に伝えたいこと。
いっぱいあるはずなのに、いざ本番になると出てこない。
でも、一番は…
「流星、」
「何だ?逢」
「好きだ」
「もちろん」
ごめんな。
今はかっこ悪いことしか言えないけど。
「後悔がないくらい、遊べたか?」
「そりゃもう、死ぬのが怖くないくらいには」
「……そ」
流星は驚く程静かで、冷静で。
涙は少し溜まっていたけど、それが溢れ出すことはなかった。
「ありがとう、逢。最後まで俺に付き合ってくれて」
「もう、後悔はないよ。安心して星になれる」
「流星…っ、」
一度止まっていた涙がまた溢れてくる。
たまらなくなって抱きしめると、流星も優しく抱きしめ返してくれた。
「泣くなって…(笑)」
流星は、弱々しい手で俺の頭を撫でてくれた。その感触がより一層流星の死を教えているようで、酷く悲しく、辛くなる。
「行かないでくれよ…」
「俺、まだ…お前と一緒に…」
「…うん。俺も、できるなら…」
「お前と、一緒に…大人になりたかったわ」
顔を埋めているせいで、流星が今どんな表情をしているのかわからないけれど…
多分、泣いていると思った。
その証拠に、言葉が途切れ途切れになっているし、声に嗚咽が混じっている。
「でも、もうこれ以上は叶えられねぇし」
「俺は逢と遊べただけで十分だよ」
「流星…」
「ありがとう」
「…好きだよ。逢」
「俺も」
背中に回した腕は、面会禁止時間まで離すことはなかった。
その二日後。
流星は亡くなった。
思っていたよりもずっと静かで、あっさりしていた。
悲しい気持ちはあるけれど、未練はあまりない。
それに、約束があるのだから。
流星の荷物をまとめるため、病院へ立ち寄った時、屋上に寄った。
流星とペルセウス流星群を見た、あの屋上だ。
少し湿気を含んだ風が頬を撫でる。
きっと今、流星は星になって、流星群として俺に会いに行くために休んでいるのだろう。
休んだら、来年のペルセウス座流星群で俺に会いに来てくれるかもしれない。
もしかしたら他の流星群かもしれないけど、俺と流星の思い出の星になって会いに来てくれると、そう信じている。
空を見上げていると、ふいに、とある絵本の一節が思い起こされた。
人は死んだら星になるんだって。
それは、大きく輝く一等星かもしれないし、隣でひっそりと輝く二等星かもしれない。
次に会う時は、流星になって、君に会いに行くよ。
なぜ会えるかって?
流星は、地へと落ちていくものだから。
空と地が繋がる瞬間だから。
でも、流星になるためには、エネルギーが必要なんだって。
だから、地へ落ちるその日のために、力を蓄えておくんだ。
いつか落ちる、その日まで
大きく息を吸う。
新鮮な空気が鼻を通り抜けていく。
真っ直ぐに空を見上げると、大きく口を開けて呼びかける。
きっと、聞こえているはず。
おやすみ、ペルセウス
__________
Fin.
written by_Neco Yuurei
コメント
4件
は…初めて創作BLでボロ泣きした… やばいわこれ…おい…天才小説家じゃねぇか… 最高!!!!!😭💕