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『誰も覚えていない夜』
「疑う理由」
――朝。
空になった一つの席を見つめながら、35人だったはずの部屋には、重たい沈黙が流れていた。
正確には――もう、34人。
昨夜、タケヤキ翔が襲撃された。
けれど。
誰も、彼の役職を知らない。
そして――誰が襲撃したのかも。
ななもり。「……みんな、座って。」
全員がゆっくりと席につく。
パルオは、何度も隣の空席を見ていた。
やなと「……パルオ。」
パルオ「……分かってる。」
やなと「無理しなくていいから。」
パルオ「……うん。」
その会話を聞きながら、まぜ太が口を開いた。
まぜ太「昨日までは、まだ『誰も脱落しないかもしれない』って思ってた。」
ぷりっつ「……でも、そうじゃなかった。」
まぜ太「そう。」
まぜ太「今日からは、本気で考えないといけない。」
あっきぃ「……投票のこと?」
まぜ太「それもある。」
まぜ太「でも――」
まぜ太「人狼を見つけること。」
その言葉に、何人かが視線を落とした。
心音「……一つ、気になることがあります。」
ロゼ「何だ?」
心音「昨日の投票です。」
モニターに、昨日の投票結果が表示される。
【ころん 7票】
【みかさ 7票】
【てると 7票】
【その他 14票】
心音「結果だけを見るなら、三人に票が集中していました。」
心音「つまり……少なくとも、この三人を怪しいと思った人が複数いる。」
ころん「……。」
みかさ「……俺たち、か。」
てると「そうなりますね。」
心音「ただ、それだけでは人狼とは言えません。」
にしき「当然ですね。」
心音「……え?」
にしき「昨日は情報が少なすぎました。」
にしき「だから、投票結果だけで判断するのは危険です。」
ロゼ「なるほど。」
にしき「でも――」
にしき「誰が誰に投票したのか。」
にしき「これは、覚えておいたほうがいい。」
その言葉に、まぜ太が少しだけ反応する。
まぜ太「……確かに。」
ぷりっつ「投票って、後から見たら結構情報になるもんな。」
あっきぃ「でも、人狼だってわざと怪しい人に入れることはできるよ。」
まぜ太「そう。」
まぜ太「だから難しい。」
ころん「……。」
ゆた「ころんさん?」
ころん「……いや。」
ころん「昨日、僕に票が集まったのが……ちょっと怖くて。」
ゆた「大丈夫ですよ。」
ころん「……ありがとう。」
その様子を見ていた一人が、静かに口を開いた。
らお「……でも。」
らお「昨日、ころんくんだけじゃなくて、みかさくんとてるとくんにも同じくらい票が入ってます。」
さとみ「そうだな。」
らお「だったら……その三人だけを疑うのも違うと思います。」
みかさ「……らお。」
らお「ん?」
みかさ「……ありがとう。」
らお「……いえ。」
ちぐさ「……。」
ちぐさは黙って二人を見ていた。
その表情には、ほんの少しだけ安心したような色が浮かんでいた。
けれど――
心音はそれを見逃さなかった。
心音「……ちぐさくん。」
ちぐさ「え?」
心音「さっきから、あまり話してないですよね。」
ちぐさ「……あ。」
ちぐさ「ごめん。」
心音「いえ。」
ちぐさ「昨日のこと……まだちょっと怖くて。」
らお「……。」
ちぐさ「誰かが本当にいなくなるんだって思ったら……。」
らお「……大丈夫だから。」
ちぐさ「……うん。」
心音「……。」
心音は少しだけ考える。
――怖がっている。
それは、本当なのか。
それとも――
人狼だからこそ、怖がっているふりをしているのか。
まだ、分からない。
そのとき。
モニターが突然、点灯した。
【本日の議題】
【最も怪しいと思う人物を一人、理由とともに述べてください。
全員「……!」
ななもり。「……始まったね。」
ジェル「一人ずつ言うんか?」
ななもり。「うん。」
ななもり。「理由も必要みたい。」
さとみ「……これはキツいな。」
莉犬「誰かを疑わないといけないってことだもんね。」
るぅと「……。」
るぅとは少しだけ視線を落とした。
そして――
一人目が話し始める。
けちゃ「……僕は。」
けちゃ「まだ、決めきれません。」
だいきり「僕もです。」
そあら「僕も……まだ分からない。」
おさでい「俺も、現時点では断定できません。」
ロゼ「俺は――」
ロゼが一度、全員を見渡す。
ロゼ「……昨日の投票で、誰に票を入れたのか。」
ロゼ「そこをもう一度確認したい。」
しゆん「確かに。」
ばぁう「投票の流れを見るのは大事だな。」
ロゼ「……そして。」
ロゼ「昨日、誰かを強く庇っていた人も。」
空気が変わった。
まぜ太「……。」
あっきぃ「……。」
ぷりっつ「……。」
ころん「……。」
昨日の光景が、全員の頭をよぎる。
――ころんを庇った人。
――みかさを気にかけた人。
――てるとを心配した人。
誰かを守ろうとした行動さえ――
今は疑う材料になる。
そして。
モニターに、新しい文字が浮かんだ。
【疑うことは、悪いことではありません。】
【生き残るために必要なことです。】
心音「……。」
心音は、その文字をじっと見つめた。
心音「……本当に、そうなのかな。」
誰も答えなかった。
ただ一つだけ。
全員が理解した。
――今日の投票は。
昨日より、ずっと怖い。
そして。
誰かを信じることさえ――
この場所では、疑う理由になってしまう。
――第9話「疑う理由」終わり。
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みぃ
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コメント
2件
うわ、、、人狼ゲームって深く考えなかったけどお互いを信じあって助け合ってる人たちには辛いことなのがこの話でわかったわ、 うー、、
読ませていただきました……第9話、すごく重くて、でも目が離せなかったです。 パルオくんの「分かってる」って一言に、仲間を失った実感をまだ受け止めきれていない心情が現れていて、胸が締め付けられました。そして「誰かを庇うこと」すら疑いの材料になるこの理不尽さ……タイトル通りの回でしたね。疑わなければ生き残れない、でも疑い続けることで壊れていく。心音ちゃんの「本当にそうなのかな」という問いかけが切なかったです。 みぃさんの心理描写、本当に繊細で惹き込まれます。続きが気になります……!