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私の住むアパートの隣室は、これまでずっと空き部屋だった。それが数日前から、何やら引っ越しの気配がしていた。ごそごそと物が動く音、たまに聞こえる話し声。そして、その声に、私は心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。
「……ローレンさん、だ」
耳に馴染んだ、少し低くて、けれど確かな存在感のある声。私がいつも画面越しに追いかけている、にじさんじのライバー、ローレン・イロアスその人の声だった。まさか、こんな奇跡が起こるなんて。興奮で熱くなる顔を両手で覆い、私は小さく息をのんだ。
それから数日後。恐る恐る玄関のドアを開けると、ちょうど隣のドアも開いた。そこに立っていたのは、画面で見るよりもずっと背が高く、実在感のあるローレンさんだった。
「どうも、隣に引っ越してきたローレンです。これからよろしくお願いします」
そう言って差し出された手は、筋張っていて男らしい。緊張でうまく声が出せない私に、ローレンさんはふっと優しく笑った。その笑顔に、私の心臓はさらに大きく跳ねた。
それからというもの、アパートの廊下で彼と顔を合わせる機会が増えた。朝、ゴミ捨て場に向かうとき。夜、仕事帰りに。たまに「お疲れ様です」とか「いってらっしゃい」なんて、短いけれど温かい言葉を交わすようになった。そのたびに、私は密かに喜びを噛み締めていた。推しが隣に住んでいる。これ以 上の幸せが、この世にあるだろうか。
ある日の夜、いつものようにローレンさんの配信を見ていると、突然私の心臓が跳ね上がった。
「そういやさ、最近引っ越したんだけど俺の隣に住んでる人、すげー可愛いんだよね」
画面の向こうから聞こえるローレンさんの声に、思わず口に含んでいたお茶を吹き出しそうになった。え、それって、私のこと……? まさかそんなはずは、と思っても、続く言葉は私をさらに混乱させた。
「いやマジで、たまに廊下で会うんだけどさ、なんかこう、ふわっとした雰囲気で、良いんだよねぇ」
何回も「可愛い」「良い」と褒められて、私は顔から火が出るくらい恥ずかしくなった。まさか推しにこんな風に思われていたなんて。嬉しさと恥ずかしさで、配信の内容がほとんど頭に入ってこない。
数日後、ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。モニター越しに映っていたのは、まさかのローレンさん。ドアを開けると、彼は少し申し訳なさそうに頭を掻いた。
「いつもなんか、うるさくしててすみません。お詫びと言っちゃなんですが、もしよかったら、この後カフェとかどうですか?」
突然のお誘いに心臓がバクバクする。もちろん断る理由なんてあるはずもなく、私は二つ返事で頷いた。
近くのカフェで向かい合って座ると、他愛もない話で盛り上がった。好きなもの、最近あった面白いこと。そんな中で、ふと昔の趣味の話になった。
「私、昔ギターやってたんですよ。でも引っ越すときに売っちゃって」
私がそう言うと、ローレンさんの目がキラリと光った。
「え、ギター弾くの!? マジか! 俺の家にもギターあるからさ、よかったら今度一緒に弾かね?」
推しと、同じ空間で、一緒にギター……? 夢のような展開に、私の頭は真っ白になった。
数日後、私はローレンさんの部屋にいた。ドキドキしながら足を踏み入れると、部屋中に充満する彼の匂いに思わず息をのむ。「これが……推しの匂い……!」興奮で顔が熱くなるのを感じながら、部屋の奥を見つめる。そこには、他の部屋とは少し違う雰囲気のドアがあった。
「あの、その部屋は……?」
私が指差すと、ローレンさんは一瞬口ごもり、曖昧な返事をした。その様子に、私はすぐにピンと来た。ああ、きっとあれが、彼の配信部屋なんだ。推しのプライベートな空間を目の当たりにして、私はますます胸が高鳴った。
ローレンさんの部屋で、ぎこちなくギターを弾いた。久しぶりに触れるギターの弦は、少し指に食い込むけれど、彼が隣で優しい声でコードを教えてくれるから、不思議と居心地が良かった。時々、指が触れ合う瞬間があって、そのたびに心臓が跳ね上がった。彼の部屋は、やっぱり良い匂いがした。甘すぎず、でも彼らしい、落ち着く匂い。これが、推しの匂い。そう思うと、どんなに緊張しても、そこにいられることが嬉しかった。
その日の夜、いつものようにローレンさんの配信を開いた。ローレンさんはまた私の話をした。案の定、チャット欄は盛り上がった
「またお隣さんの話かよw」
「ほんとに好きなんだなぁww」
「この際もうコラボしちゃえば?」
そんな冷やかしのコメントで溢れる中、ローレンさんはいつにも増してご機嫌な様子で、それらのコメントに臆することなく肯定した。
「いや、マジでね、ほんと可愛いんだって。マジで」
そして、ふと思い出したように、彼はハッと声を上げた。
「あ、そうそう! 今日ね、隣の人とギター弾いたんだよ!」
その言葉に、チャット欄が一瞬ざわつく。
「やべぇ」
「マジかよ」
「ついにオフコラボ!?」
興奮するリスナーをよそに、ローレンさんは楽しそうに今日の出来事を話し始めた。
「なんかね、近くによった瞬間いい匂いがするのよ。すげー良い匂い。で、ギター弾いたんだけどさ、なんかこう……指がちっちゃくて、キュッてなってんの。それがまた可愛くてさぁ」
彼は、まるで今日の出来事を追体験するかのように、熱っぽく語る。そして、最後に最高の褒め言葉が飛び出した。
「しかもね、マジでギターうまかったんだよ! びっくりしたわ。あんな可愛らしい見た目なのに、ギャップ萌えってやつ?」
画面の向こうで無邪気に笑う彼を見て、私の顔は再び真っ赤になった。推しに、こんなに褒められる日が来るなんて。夢にも思っていなかった。
ローレンさんの配信での言葉を聞いてから数日後、私は意を決して彼を自分の部屋に招いた。内心は複雑だった。リスナーとして、こんな関係を続けていいのだろうか。彼を好きだという気持ちと、理性との間で激しく揺れ動いていた。だからこそ、この機会に彼がにじさんじのライバーであることをちゃんと伝え、きちんと区切りをつけたいと思ったのだ。
部屋へ彼を招き入れ、「ここの中で待っていてくださいね」とお茶を取りに行くふりをして部屋を後にした。本当は、冷静になるための時間が必要だった。この関係がここで終わっても、仕方がない。そう自分に言い聞かせ、大きく深呼吸をしてから、私はガチャリと部屋の扉を開けた。
すると、視界に飛び込んできた光景に、私の心臓は止まりそうになった。ローレンさんが座っている机の上に、なぜかローレンさんのグッズがいくつか置いてある。彼は目を丸くして、壁を指差した。
「もしかして、壁に飾ってあった缶バッジとかも……?」
言われてハッと部屋を見渡すと、そこには見慣れた光景が広がっていた。壁にはローレンさんのポスターやぬいぐるみ、大量の缶バッジ。ベッドには抱き枕、机にはラバーマットやアクリルスタンド。部屋を掃除するのに必死で、肝心のグッズを隠し忘れていたのだ。全身の血の気が引いていくのが分かった。今すぐここから逃げ出したい。 いや、本当に逃げたいのはローレンさんの方だろう。
人生最大級の焦りを感じながらも、私は必死に言葉を絞り出した。震える声で、彼にすべてを打ち明けた。
「あの……私、ローレンさんの配信をずっと見てました。このアパートに引っ越してきたときから、ローレンさんだって気づいてて……。リスナーとして、これ以上関わってしまったら、他のリスナーさんに本当に申し訳ないと思って……」
ローレンさんは、黙って私の話を聞いてくれた。その真剣な眼差しに、私の心はさらに締め付けられた。私が話し終えると、彼はゆっくりと口を開いた。
「俺が配信で言ってたこと、全部聞かれてたのかって思ったら……めっちゃ恥ずかしいんだけど」
彼の言葉に、私は驚きで目を見開いた。「もう関わらないで」とか、「迷惑だ」とか言われる覚悟をしていたからだ。予想外の返答に呆然としていると、彼はふっと笑って、再び口を開いた。
「ま、配信見てるなら話は早いか」
そして、私の目をまっすぐに見つめ、とんでもない言葉を口にした。
「付き合ってください」
その瞬間、私の頭は真っ白になった。まさか、推しからこんな言葉を聞くなんて。信じられない気持ちと、夢のような現実に、心臓が大きく高鳴り続ける。これは、夢なのだろうか。
ローレンさんの突然の告白に、私の頭は混乱していた。こんな夢のようなことが、本当に起こっていいのだろうか。
「本当に……いいんですか? ローレンさん、人気ライバーなのに、私なんかと付き合ったら、バレて炎上とか……リスナーさんにも、申し訳ないし……」
震える声で、私は不安を口にした。彼のVTuber活動を、私との関係で邪魔してしまうかもしれない。そんなことがあってはならないと、心の底から思っていた。しかし、彼は私の言葉を遮るように、まっすぐな瞳で私を見つめ、力強く言い放った。
「それでも、俺は〇〇さんと付き合いたい」
彼の揺るぎない言葉に、私の胸は熱くなった。それでも、私は彼を守りたかった。
「もし炎上でもしてしまったら、ローレンさんのVTuber活動も終わってしまうかもしれない。だから……お願いです、私とのことは、隠してください」
私の必死な願いに、ローレンさんは少しだけ目を伏せたが、やがて優しく微笑んだ。
「わかった。俺も、〇〇さんのこと、絶対に守るから」
その返事を聞いた瞬間、張り詰めていた緊張の糸がプツンと切れた。ずっと言いたかったことを彼に伝えられた安堵と、何よりも、ずっと好きだった人と付き合えることになった喜びが、一気に押し寄せてきた。堰を切ったように、熱いものが頬を伝い落ちる。
ポロポロと涙を流す私を見て、ローレンさんはくしゃっと笑い、優しい手で私の頭をゆっくりと撫でてくれた。その手の温かさと彼の匂いに包まれて、私はすべてが報われたような気がした。
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隣にローレンさんが引っ越してきたら、心臓飛び出るとおもう😹
ローレンさんの夢小説ばっかだけど、許してね😸😸