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「ふう…」
時計はもう日付を跨いでいた。
任務終わりの僕と陣内さんは、桜の並木の下に座っていた。
「ほれ」
どこかに行っていた陣内さんの方から突然何かが飛んできた。
それを慌てて受け取ると、それは手の中で湯気が立つ、暖かいココアだった。
「任務後には甘いものだろ」
「…ありがとうございます」
「そんなに気にすんなって。よくあることだからさ」
「…」
ついさっきまで追っていた男は、もうこの世にいない。
手錠をかけようとした瞬間、男は笑って窓から飛び降りた。
あの笑い方が、まだ頭に残っている。
助けられたかもしれない。
他に方法があったのかもしれない。
ココアのカップを握る指に、じんわりと熱が伝わる。
それでも、胸の奥の冷たさは消えなかった。
余計な考えが頭の中をぐるぐる回る。
こんなたらればを考えても、何も変わらないのに。
「はあ…おい才木」
「はい?」
名前を呼ばれたので、陣内の方を振り返ると、陣内は何かを見ていた。
「…?」
陣内が見ている方向を向くと、そこには巨大な桜の木があった。
満開なようで、花びらがひらひらと夜の冷えた空気の中を舞っていた。
「…綺麗ですね」
「ああ」
「…陣内さんは苦しくないんですか?」
「…どうだろうな」
「ずるくないですか?その答え」
陣内さんは「ははっ」と笑って、僕の手を掴んだ。
そのままぐいと引き上げる。
「フランスでの桜の花言葉って知っているか?」
「?」
「『私を忘れないで』だよ。」
「…」
「だから俺は、死んだ奴のことはできるだけ忘れないようにしてる」
「…それがせめてもの贖罪だと思ってる。…まあ、クズは忘れるけどな」
「…」
才木は小さく息を吐いた。
そして、一瞬だけ握られていた手を見てから、陣内の手をそっと振りほどく。
「もう遅いので、帰りましょう。」
「そうだな」
暗い夜の中、静かに舞う花びらが。少しだけ羨ましく思えた。
あんなふうに、何も考えず散れたら。
少しは楽なのだろうか。