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ウラオモテ

16 - 第16話 記憶

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2025年08月31日

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兄の最後の言葉。


『天馬……。夕月と仲良くな』


どうして僕達を残して行っちゃうんだよ!!!


「くそっ……」


勝手過ぎる……ほんと…。


兄の背中は遠くて、どんなに手を伸ばしても今の僕の力じゃ届かない。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


お通夜の帰りのよう。

姉ちゃんはひどく落ち込んでいたが、帰宅すると逆に僕を励ましてくれた。


「天ちゃんは、明日から学校だし。私も仕事があるから、とりあえず光のことは後で考えようね」


「うん……」


「頑張ろうぜっ! マイ弟」


「うん…」


僕は着替えもせず、ベッドで丸くなった。



【夢だと分かる夢を見た】


僕は、過去の自分を離れた場所から見ていた。


「…………」


遊園地に行った帰り。

幼い僕は、歩くのが疲れたと駄々をこね、父さんにおんぶされていた。それを優しく見守る母さん。


『いっつも天ちゃんばっかり、ズルい。私もつかれたからおんぶしてよ!!』


頬を膨らませている姉ちゃん。当時、一番のお気に入りだった魔法少女のキャラクターシャツを着ていた。


『夕月はさ、もう小二になったんだから我慢しろよ』


携帯ゲームをピコピコやりながら、兄ちゃんは呟いた。


『なによっ! えらそうに。光だって、おんぶされたいくせに!! カッコつけちゃってさ。だっさ』


それを聞いた兄ちゃんは、ゲーム機をポケットにしまうと、姉ちゃんの髪を引っ張った。


『いぃ!? 痛いっ! ママ、今の見た? 見たよね。はやく怒ってよ! コイツ。もうっ!!』


姉と兄。二人をなだめるいつもの光景を僕は他人事のように父の背中から見ていた。


結局、そのあと順番で僕達兄弟をおんぶしてくれた父。兄ちゃんの照れ臭そうな顔が可笑しくて、姉ちゃんと二人で指差してバカにしてたっけ。



「っ……」


声にならない嗚咽が出た。急に世界が暗くなり、僕一人だけになった。


あの頃は、本当に幸せだった。家族みんながいつも笑って、怒って……本当に楽しかった。



だけど、その二年後。



両親がアイツに殺された。

僕と兄の目の前で。せめてもの救いは、姉がお泊まり学習でその場にいなかったこと。あれを見たら、きっと心が弱い姉は、壊れてしまったかもしれない。


握った拳から血が滴る。


当時のランキング一位【鵺 遊鷹(ぬえ ゆたか) 】


奴は両親を殺した後、突然姿を消した。そして今も見つかっていない。


でも僕達は、知っている。奴の居場所を。頭に生えた角。人間を捨てたアイツは、きっと今も魔界にいる。


悔しいけど、人間の僕達じゃ勝てない。だから兄は魔物になって、アイツに挑むのだろう。


でもさ、兄ちゃん。魔物になるってことは、僕達の敵になるってことで。



「て…」


その声で現実に戻ってこれた僕は、今の自分の状況を把握した。


「っ!!!?」


望の首を左手で絞めている。すぐに手を首から離し、何度も何度も望に謝った。


「ん……大丈夫だよ。ってか、もう遅刻確定だね……。起こしに来たけど、失敗しちゃった……」


笑う望の首もとには、まだ赤く僕の手の跡がくっきりと残っている。


「望……」


「うん? あっ…」


カーテンの隙間から差し込む朝日。僕の部屋は薄暗く、そんな部屋で僕達は抱き合った。


「ごめん……こんなに弱くて……本当にごめんなさい…………ごめんなさい………」


「天馬は弱くないよ。私をいつも守ってくれる。……最近ちょっと色々あって、疲れてるんだよ。だから……ね? 今は、ゆっくり休もうね」


布団の中で僕を優しく包み込んでくれる裸の望。優しくて、柔らかく。気持ちよくて。


「んっ……ぁ…」


いつまでもいつまでも、僕は泣きながらその体を獣のように貪っていた。




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