コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
**第12章 地獄の道は広し、安らかに**
402号室、劉美恵(りゅう・みけい)が食器を洗い終えると、ドア際で不安げに足を止めた。先ほど見知らぬ青年が警告を無視して六階へ向かったことが気掛かりだった。この棟の住民は皆、六階の不気味さを薄々感じていたが、以前他人を注意した二人の住民が不可解な死を遂げて以来、誰も明確に口にできずにいた。
「あの子も……もうダメかしら」美恵はため息をつき、首を振った。青年が上階へ消えた後、鈍い物音が幾度か響き、今は不気味な静寂が支配している。明日の朝には警察と検視官が遺体を運び出す光景が目に浮かぶ。
**ドンドンドン!**
階段を転がり落ちるような慌ただしい足音が響いた。美恵が猫眼に目を寄せると、左肩の肉塊が欠け内臓が露出し、右腕も根元から引き千切られた女性鬼の姿が映った。黒髪は血で固まり、白眼が不気味に光る。
「きゃ……!」叫び声は喉で潰えた。全身の毛穴が収縮し、冷や汗が背中を伝う。次の瞬間にはドアを破られ八つ裂きにされると思ったが、女鬼は一瞥しただけで階下へ駆け下りていった。その背中には明らかな恐怖がにじんでいた。
「逃げてる……? 鬼が何から?」美恵の思考が混乱する。その時、上階から豪快な笑い声が響き渡った。
「ははは! 鬼姉ちゃん、逃げ道はないぞ!」
五階から現れた江島龍の姿に、美恵は目を見開いた。青年が血まみれの女鬼を追いかけ、階段を三段飛ばしで駆け下りる。「まさか……あの青年が鬼を?」
「落ち着いて! 数人食っただけじゃないか」江島が階段の手すりを握り潰しながら叫ぶ。「署で事情聴取すりゃあすぐ解放するからな!」
女鬼の首が180度回転し、歯のない口が歪む。《鏡鬼の激怒 鬼オーラ+30》
「死亡時の感覚ってやつ、詳しく話してみろよ!」江島が挑発的に笑う。
「黙れ……この……!」女鬼の爪が壁に深い溝を刻む。《鬼オーラ+50》
一階に到達した江島は妖怪パワーを解放。床を蹴りつけた衝撃で階段が崩壊し、鏡鬼が宙に浮く。「冥府の道は広いぞ!」
右腕が蟒蛇のように膨れ上がり、妖気の炎が拳を包む。「行ってらっしゃい!」
**ドカン!!**
頭蓋骨が砕け散り、黒い脳漿が壁に飛び散る。《鏡鬼(悪鬼)死亡 鬼オーラ+99》
【宿主】:江島龍
【鬼オーラ】:889
【化妖カード】:混世魔王(一星)
「このクラスでも三発か……」江島が虚空のパネルを閉じる。「千オーラ突破まであと一歩だ」
地府アプリのデータベースが視界に展開される。
> **霊格分類**
E級:怨霊(無差別殺害可能)
D級:悪鬼(物理攻撃無効)
C級:厲鬼(地域呪縛)
B級:血衣厲鬼(気象操作)
A級:凶鬼(都市壊滅級)
S級:鬼王(国家規模災害)
「ノック鬼ですらD級か」江島が舌打ちする。「この世界……思った以上に危険だな」
背後で神宮寺鈴(じんぐうじ・りん)の足音が近づく。「後処理は陰曹が対応するわ」彼女のスマホには《報酬150冥珠》の通知が光っていた。
路地に停めた真紅のポルシェ918スパイダーで、鈴がエンジンを唸らせる。「相乗りする?」彼女がジーンズのポケットからキーを取り出すと、テールランプが妖しく輝いた。
「冥珠1万=1万円で買い取るわよ」鈴がウィンクする。「ただし本当の価値はね……」
江島が助手席に沈み込むと、バックミラーに無数の眼球が浮かび上がった。気付かぬ二人を乗せた車は、夜の帳(とばり)に消えていく。