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思考は速度を落とし、
記憶には靄が掛かる。
――あの後、俺はどうなった。
目を開けた。
暗い。
ここがどこかはわからない。
僅かに身をよじる。
なぜ僅かにかというと、自分を拘束しているのが、手だけではないからだ。
足首に冷たい何かが巻かれていて、動かない。
手錠……ではない。
足枷?幅の広いベルトのようなもので固定されている。
マットレスの感触で、ここがおそらくは今まで俺が拘束されてきた部屋だということがわかる。
しかし、暗い。
漆黒の闇の中、見えるものは何もない。
痛む頭を必死に巡らし、記憶を探る。
ヘラが持っていたハンマーは確かに自分の頭に振り落とされた。
死を覚悟したが、どうやら生きているらしい。
そしてめでたくこの監禁部屋に逆戻りだ。
今度はさらに拘束を厳重にされて。
―――待てよ。
自分は、誰の手によってこのベッドに戻されたのだろう。
ヘラの細腕では、自分を運ぶなどとても無理だ。
他に誰か協力者がいる?
アテナ?まさか。
彼女こそ重傷だった。もしかしたら生きていないかもしれない。
では、誰が――――。
考えて見れば、アテナは雇われたときにはもう俺はすでにいたと言っていた。
この部屋に一番初めに俺を運んだ人物がいたはずだ。
大の男を運べる人物。
力のある男か?
それとも複数か?
とにかく確かなのは、
ヘラには、アテナとは別に協力者がいる。
その可能性についてもっと早く気が付くべきだった。
もしその協力者が、昨日の俺とアテナの情事をヘラに報告していたとしたら。
アテナが言った「夕方まで帰らない」はずの用事を切り上げて帰ってきたとしたら。
そうだ。
きっとそうに違いない。
この屋敷には、ヘラ、アテナ、そして少女の他に、もう一人以上の人物がいた。
「くそ……!」
アテナにそこも聞いておけばよかった。
自分以外の女の話題をされると途端に不機嫌になるから躊躇してしまった。
あんなに愚直で扱いやすい人間も他にいないというのに。
しかし――――。
俺は枕に後頭部を沈めた。
今や、思索を巡らすのも虚しい。
自分の自由は完全に失われ、退路は断たれた。
ヘラはおそらく、二度とこの拘束を解かないだろう。
ならば―――なぜ生かしている?
食事、拘束、そして監視。
彼女にとっても面倒なはずだ。俺という存在は。
では、なぜ殺さないで生かしておくのだろう。
殺せない理由がある……?
俺は暗闇の中で目を開けた。
もし、殺すに殺せない理由があるとすれば―――。
まだチャンスはある。
そのとき、他者の訪問以外に音がしない部屋の中に、何かガサゴソと音が聞こえてきた。
「――――?」
耳を澄ませる。
なんだ?
ここは―――地下室だぞ?
カポンと何かが抜けるような音がした。
『ええと。聞こえますか?』
女性の声。
それも若い………。
『っていうか』
それは――
『まだ生きてますか?』
数日ぶりに聞く、少女の声だった。