「詠唱についての基本講習はここまで。この後は学年混合で剣の基本講習になります。各自グラウンドへ集合して下さいね」
そう言って教室を出て行く先生を見送ってから、行きたくない~などの声があちこちから小さく上がっている。
ここ魔法学校では、得意とする選択科目の基本から高度なレベルまでを学年ごとに学び伸ばしていく事が主となる。
途中で選択変更もあるため、基本のクラスは科目を問わない混合となっている。
そのため得意な選択科目により教室を移動しなくてはならない。
ただし得意以外の科目についても基本は全て学ぶ。
その場合は学年ごとの基本クラスでの講習か、学年混合の講習が行われる。
今の時間は詠唱についての基本講習だった。
詠唱は筆記なのでまだ楽なのだが、 剣については実技となるため苦手とする魔法系の生徒から嘆きの声が上がりやすい。
廊下側の1番後ろの席にいる俺から、窓際の1番前の席に座るモトキはよく見える。
次は得意科目だからか、バレないように小さくガッツポーズをしているようだ。
うん、バレバレなんだけどな。
最近はそろそろサボっていてはまずいと思うようになったらしく、よく登校するようになった。
俺としてもそれが嬉しい。
「なぁ、わかい!授業始まる前に少し自主練しない?」
「あー、悪い。モトキとやる約束なんだ」
同じく魔法系のクラスメートから誘われるも、最近の俺はモトキと自主練をしたくて断るようになっていた。
「なんだよ、付き合い悪いな…。あいつさぁ 最近登校するようになった落ちこぼれだろ。何でそんなのに付き合ってんの?」
何言ってんだ、こいつ。
友人だと思っていたが、この言い方は聞き捨てならない。
確かに前より付き合いが悪くなかったのは申し訳ない。
でも俺はどうしてもモトキと一緒にやりたいし、その方が楽しいんだから仕方ないだろ。
ムッとして言い返そうとしたら、後ろから肩を叩かれる。
「優しいわかい君が僕に教えてくれるって言ってくれたんだ。ごめんね」
申し訳なさそうな気弱そうな顔をして、高めな細い声で謝るモトキがいた。
確かに元々声は高めだが演技がかっている。
おい…嘘をつくな。 そんな性格じゃないだろお前。
なんだ?何を企んでるんだ。
「ふーん、まあ弱いんじゃ仕方ないよな。わかい優しいし優秀だしよ」
大人しそうで中性的な男が弱々しく謝ってくるとなれば。
更に馬鹿にしたような言動を隠さず笑っている。
我慢出来ずに前へ出ようとした瞬間、肩を掴んだままの手に力が入り止められた。
「君も強いって聞いてるんだ!もし良かったら後で1回だけでいいから自主練付き合ってくれない?」
にこにこと可愛いらしい笑顔で、友人に愛嬌を振りまくモトキ。
え、こわい。 凄くこわい。
実力を目の当たりにしてる俺としては、恐怖すら感じる展開である。
「へ、へーまあな。俺も多少はな。仕方ないから1回だけやってやるよ」
可愛いらしい笑顔で持ち上げられた友人は、悪い気はしなかったらしく。
じゃあ後でな、と先にグラウンドへ向かった。
「モ、モトキ?」
「再起不能にしてやる…」
皆からは見えないよう俺の肩に隠れたまま。
ニヤリと口の端を上げ、黒い笑みを浮かべている。
最近登校し始めたばかりだから、まだ周囲はモトキの剣を見たことが無いんだよな…
きっと今日を境に、真逆の評価へ変わるだろう。
あ~…波乱が起きそうな予感。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!