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「陸…?どうしたの、こんなところに座り込んで」
見覚えのある姿。高校の頃と全く変わらないまま、背だけが伸びた彼がいた。
「もう講義、始まるよ?」
彼は困ったような顔でこちらを見ている。その顔には抵抗があるようにも見えた。まるで、強い光を拒むように。
「瑞貴…。大丈夫、講義には間に合うようにするよ」
そう言って視線を逸らす。陸とは高校の時から全く話さなくなってしまった。連絡先は持っていたが、お互いに連絡するようなことは無かった。だから、言葉を交わすのは久々だった。
「元気……ないよね。一緒に行こう。」
力の感じられない彼の手を引く。が、その場から動こうとする素振りすら見せない。表情は見えないがどこか悲しそうに見えた。
「……友達とちょっと気まずくて」
彼が口を開く。あぁ、そっかと思う。明るくリーダーシップのある陸のことだ。友達の1人や2人くらいいるに決まっている。きっと自分なんかよりも大切な人間が。
「だから、戻りたくないの…?」
「うん」
懐かしさを感じた。高校の時もこんな風に陸の相談を聞いていたっけ。そんなことを思い出す。
「講義……出なきゃだよな。分かってる。でも、酷いことをした。あいつのことを考えるだけで不安になる。」
強く握っていた手の力が自然と弱まった。自分がいない間、こんなに彼は変わってしまっていたのか。ただ、友達思いなのは変わっていない。
「……陸。今日はサボろうか。」
「…え?」
さっきよりも強く手を握り、駆け出す。陸の戸惑いの声が微かに聞こえてくる。鼓動を感じる。自分の意思で誰かを引っ張り出すのは初めてだった。
「瑞貴、どこ行くつもりなの?もう、講義始まってるし……」
「…ちゃんと話がしたい。高校の時のことも。その……気まずい友達のことも。全部」
後ろに振り返る。不安げな彼の顔が視界の中心にあった。
僕はずっと陸と友達でいたいと思っていたし、仲良しだと思っていた。だから、決別するならちゃんとしようと思った。きっと、それが正しい生き方だから。
「いいよ。俺の友達に関しては言うまでもない。君はもう知ってる。」
「知ってる…?大学内に友達なんか…」
「相田 悠。知ってるでしょ。全部聞いたし、どういう関係かも知ってる。」
結局そういう奴だと思っていたのだろう。きっと彼との関係が陸をより苦しませた。陸が高校の時から鬱になりかけていたのを知っている。彼はきっとそんな陸にとって温かい存在だったのだろう。
「それは……迫られたらどうしても拒否できなくて」
「悠も俺にとって大切な友達なんだ。もちろん、瑞貴も。だから、2人がそんな関係なのは怖いんだよ。もし、離れて行ってしまったら……」
「……ちゃんと話をする。聞いて。高校2年生の時、なんであんな事をしたのかを」
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「会沢、まだ来ないのか?」
右手を動かしながらそう言う。隣の清水が大じゃね?と無神経なことを言ってくる。
肘で右腕に攻撃する。
「さっき、急に出て行っちゃったんだよね…」
「やっぱ大じゃん。」
「黙れ。」
きっとさっきのキスが原因だろう。幸い多くの人には見られていなかった。罪悪感などがあったのだろうか。
「講義もう終わるのになぁ……」
「あ、後でノート写させて。」
「5000円」
「俺だけ高くね?」
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講義が終わり、清水から2000円を受け取ってノートを渡す。本当にくれなくても良かったが、一応貰っておいた。
「会沢、どこにいるんだろ。」
大学内を散策するも、それらしき人影は見当たらない。会沢もなんだかんだ講義には毎回出ていたので心配と不安が浮き出てくる。
「サボるようなやつじゃないと思ってたけど……」
と、言いながらスマホを手に取る。すると、画面がつき、通知が表示されていた。 会沢からの連絡のようだ。
それには、”ちょっと気分悪くなったから家に帰った。今日はごめん。”とだけ書かれていた。さっきのキスに関してのことだろうか。意図は分からないが、謝られるのは少し複雑な気持ちになる。
「友達なのになんだか気を遣われてる気がするんだよな……」
交友関係が上手くいかないのは昔からだった。毎度と悩んでいるといつもの気持ちの明るさを保つことが難しくなる。自分が間抜けなせいだとは分かっているが…。
「あ、そういえば日暮に会うって決めてたのに忘れてた!!って、今はそれどころではないか……んー?いや、でも…」
どちらも交友的な問題だ。優先すべきはどっちか、と考えるのも良くない気がする。だが、自分が何かをしたところで解決することでは無いことも分かりきっていた。
「お見舞いくらいは行くか……。」
今までずっと適当に生きてきたせいだろう。自分が何をしようとしてもしなくても、間違っているような気がした。