桃赤
桃side
都会での暮らしに辟易してずっと田舎にこもっていた
緑が生い茂ってとても綺麗で空気も澄んだいいところ
歩いて数分のとこにスーパーなんてなくて不便ではあるけどそれ以上にここの暮らしが気に入っていた
ある時,母親からたまには帰ってこいと連絡があった
正直帰る気はなかった
だけど,地元の友達がどうしてるのか少し気になった俺は1度帰ることにした
1番気になってるのは幼なじみの莉犬だ
あいつは昔から遠慮ばっかして自己犠牲に走るところがある
一人暮らしを始めたって報告から引っ越した話は聞いたことがないからおそらくまだ地元で暮らしてるんだろう
地元につき,空気の差にどんよりとした気持ちのまま昔聞いた住所に向かう
赤side
…なにもしたくないんだ
気力がなくて
ご飯も作りたくない,食べたくない
布団から動きたくない
分かってる,自分がどんな状態なのか
これでも医者だ
自分の診察ができないわけじゃない
ましてや自分のメンタルのことなんて自分がいちばんわかってるんだから
体が重たい
頭が痛い
息苦しさがある
食欲がない
なんにも興味がわかない
楽しくない
感情が分からない
自分を傷つけたい衝動に駆られるんだ
これだけ基本症状が揃っていて分からないわけが無い
ストレスの原因だってはっきりと分かってる
分からないわけが無い
インターホンがなった
なにか頼んだだろうか
否,頼んだ記憶はない
何も頼んではいないはずだ
「りいぬ!」
とその時,玄関外から声が聞こえた
懐かしい
忘れることの無い声
さとみくんだ
動かないからだを無理やり動かす
トイレに行く時のように壁伝いにゆっくりと
カチャッ
軽い音を立てて鍵が開く
重たいドアを両手でこじ開ける
「りいぬ」
「さとみくん…」
久しぶりの再会
何年ぶりだろうか
都会の暮らしに辟易して田舎に引っ越すと言われた時以来会っていなかった
「大丈夫か…?」
大丈夫か
そう言われれば大丈夫ではない
だが
「大丈夫だよ?」
俺はそんなにやつれた顔をしているだろうか
パジャマ姿だからだろうか
それとも寝起きの顔をしているからだろうか
わからない
なんで気づかれたのか分からない
否,どれが原因なのかが分からないの方が正しいか
桃side
カチャッ
軽い音を立てて鍵が開く
空けられたドアから覗く懐かしい顔
その顔は酷くやつれていた
髪の毛もボサボサで服もおそらくパジャマと思われる格好
しんどいですと言わんばかりだ
「大丈夫か…?」
思わず心配から聞いてしまう
「大丈夫だよ?」
そう返されるのは分かってた
「自分に素直になってやれ」
「全部さらけだしていいから」
どの声掛けが正しいのかなんて分からない
だから,自分の思うように声をかける
ふらっ
突然莉犬の体の力が抜けた
倒れそうになるのを慌てて支える
「ごめ…」
「体重すぎて動けそうにない…」
「おっけ,部屋まで運ぶわ」
1度壁にもたれかからせ鍵を閉める
そのあと姫抱きをしてリビングへと向かう
「どうした」
「体調崩したか?」
そう聞きながら部屋を軽く見回す
殺風景な部屋だった
「おれ…ね」
「おう」
りいぬがぽつりぽつりと話し始めた
遮るのも良くないと思い相槌をうつ
「俺の職業…知ってる?」
そういえば聞いたことがなかった
「いや,聞いたことない気がする」
「精神科医として働いてて」
精神科医
知ってる
どんな仕事なのか
そこで全部理解した
「莉犬の診断は?」
「へ?」
「医者だろ?」
「自分の症状から当てはまるのは?」
「適応障害…」
適応障害
聞いたことはある
だけどそれがどんなものなのか,どんな病気なのかは詳しくは知らない
ただ,どう関わればいいのかはわかっているつもりだ
否定しない方がいいのはわかっている
コメント
1件
最高でした 次も楽しみにしてます^ ^