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◇
「ンン、フワァ……懐カシイ夢…」
現在の俺は、あの出会い以降の努力によってそこそこの地位にいる。
その過程でこの館とその周辺の森が国の運営する軍であることや、この国の王様がとっても強くて負け知らず…ってことを知った。
まぁ、王様とかどうでもいいんだけどね。
そんなわけでラダオクンは上司。
そして俺は“特殊研究開発課”所属、所長のみどりいろ。
「一人シカ所属シテナイケドネ」
ボソリと呟くと同時に資料の山がバサバサと崩れ落ちた。
いい加減、回収しに来てくれないかな…?
「ハァ…足ノ踏ミ場モナイ……」
俺は基本的にこの階から出ることを禁止されてる。
…禁止は少し言いすぎかもしれないけど。
以前に一度だけラダオクンに外に出たいとお願いしてみたら、なんかすごい言葉を濁されながら却下されてしまった。
まぁ、とにかく、そんなこんなで俺が捌いた書類は各部署が回収に来てくれない限り、延々と俺の部屋に留まることになってしまう。
「ンンー、邪魔ッ!」
コンコン
「みっどぉー?資料取りに来た〜」
扉をほんの少し開けて、自分の知っている相手であることを確認してから部屋に招き入れる。
「コンチャン…!オハヨォ〜」
「おはよ〜、といっても今はお昼だけどね」
上は黒のシャツに白衣、下は黒のズボン。
顔の左半分を面布で覆った特殊な出で立ちでニコニコと笑っているのはコンちゃんことコンタミ。
彼は軍医だ。
二年前に俺を看病してくれたのも彼。
「マッタク!モット早ク回収シニ来テヨ!」
「ごめんよみっどぉ〜!何だかこの頃ちょーっとだけ忙しくてさぁ……」
「コンチャンハ王様ノ側近モ シテルンデショ?」
「そーだよ」
「王様、厳シイノ?イジメラレテナイ?」
だいじょーぶ!ウチの王様はとびきり優しいからね!と心からの笑みを浮かべるコンちゃんにほっとしつつ、資料と一緒に小瓶を手渡した。
「なぁに?コレ」
「疲労回復効果、飲メ!」
「へぇ〜!ありがと〜」
ちゃぷん、と揺れた淡い緑の液体を一息で飲み干してコンちゃんは帰って行った。
空になった小瓶を回収して、ふと昨夜のアレを思い出す。
「ンンンンー…」
資料の裏に隠していたアレ。
今もなお手の中で桃色の淡い光を放っている他よりもさらに小さな小瓶。
手のひらで数回転がして遊んだ後に薬品棚の奥に仕舞い込んだ。
やっぱり、あんなもの作るもんじゃないわ。
きっと、ロクなことが起こらない。
「……暇ダナァ」
ガコン、ガタガタ、ガシャン!
「キャウンッ!」
「ェ、犬……?」
物音がしたかと思ったら、急に部屋の天窓が外れて室内に緑っぽい毛色の犬が転がり込んできた。
悲鳴を上げるように鳴いたきりピクリともしない。
恐る恐る体を揺らしてみると、手にぬるりとした生暖かい液体が付着した。
「血…怪我シテル……!」
コンちゃんさっき行っちゃったよ…!!
走ればまだ間に合うかな…この子置いて行って大丈夫かな…?
「クゥン…」
弱々しい鳴き声にもう行くしかないんだ、と決意を固める。
少し大きめな犬の体を引きずってしまわないように、元々資料の山を乗せていた台車にゆっくりと移動する。
「エット…医務室、一階ダカラ……」
ガラガラ台車を押しながら、俺は慌ただしく走り始めた。
◇