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於田縫紀
しめさば
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ポエールさんに会うと立派な部屋に通されて、必要な書類にサインを書いていくことになった。
何のサインかと言えば、商売の契約的なものが多く、サインをするたびに何らかの収入が増えていく……というような状態だ。
いやぁ、何とイージーモードな人生なのだろう。
……とは言っても、何か問題があれば率先して駆り出されてしまうんだけどね。
でもそれって、王族とか貴族の――いわゆる特権階級っていう人たちの話じゃないかな?
……ああ。つまり私も、今や少なからずそうだということか……。
「――どうかされましたか?」
「いえ、少し考え事を。
……この街、どんどん大きくなっていくなー、って思って」
「ははは、まだまだ序の口ですよ。
ゆくゆくは王都の、ヴェセルブルクも超えてもらいませんと!」
「うぉう、大きく出ましたね!?」
「少なくとも、何かしらの影響を与えるくらいにはならないと、戦いを仕掛けられてしまうかもしれません。
そこで負けたら、私たちもタダでは済みませんから」
「うーん、そうですよねぇ……」
つまり、私たちにはそういう責任も生まれてきてしまっているのだ。
だからせめて、日常の平和なときくらいは、お金がじゃぶじゃぶあっても良いのではないだろうか。
……まぁお金をもらうっていうのは、そういうことなんだよね。
「はい、こちらの書類で最後ですね。お手数をお掛けしました」
「いえいえ、全然です。
ところで最近、何か困り事とかありますか? ちょっと順調すぎるような気がしていて……」
「そうですね……。
無いわけでは無いんですけど、アイナさんに頼るものでもない……かな……?」
「まったく役に立たないなら聞きませんけど、少しでも手伝えそうなら聞かせてください!」
「うーん、それでは……。
今のところは問題ないのですが、将来的に水が不足しそうなんです」
「水?」
「ええ。この場所は海に近いとはいえ、飲み水を海からもってくるわけにはいかないじゃないですか。
少量であれば、錬金術や浄水設備で何とかなるのですが」
「近くの川、あまり大きいわけでもありませんからね」
その川からはすでに水を引いているものの、まだまだ街の人口は少ない状態だ。
ポエールさん曰く、将来的に厳しくなるかもしれないから、今のうちに打開策を考えておきたい……とのことだった。
「アイナさんの要望のおかげで、上下水道はかなり仕上がっています。
ただ、入ってくる水の見積もりが甘かったのです。もしかしたら今後、何かしらの大きな工事が発生してしまうかもしれません」
「ふむふむ……。そうなったらそうなったで、また仕事が増えて良いんじゃないですか?
でも、私も何か考えておきますね」
いわゆる公共事業みたいな仕事が生まれてくれば、その分だけ誰かにお金を払うことができる。
そうすれば景気も良くなっていくのだ。……出す側のお財布は軽くなってしまうけど。
「――あとは別件ですが、交易の件ですね。
何件が打診はあるんですけど、上手く交渉をまとめられなくて」
「へぇ? ポエールさんが、珍しいですね」
「いや、この街はまだまだ『村以上、街未満』ですから……。
それに、国からの承認も得ていない場所ですし。
だからやはり、どうしても不利な条件を突き付けられてしまうんですよ」
「なるほど……。
海が渡れるようになったからって、すぐに交易が上手くまわり始めるものでも無い……と」
「そもそもその海ですが、『本当に渡れるのか?』とまで言われる始末で。
いや実際、まだ誰も渡っていませんから……これは納得ではあるのですが」
「あー、確かに。
海流は穏やかになりましたけど、実際には誰もまだ渡っていないですもんね。
……そりゃ怖いか」
「はい。ですので、交易交渉もまだまだ時間が掛かってしまいそうなんです。
この街に魅力的な特産物でもあれば良いんですけど……」
「『塩』、美味しいですよ!」
「ああ、アイナさんの作ったやつですか。あれは確かに――
……とはいえ、さすがに『塩』ではちょっと……」
「うぅーん、そうですか……。
農業もまだまだですし、漁業は交易するほどでもないし、工芸品も――」
ガルルンの置物くらいしかないし。
……っていうか結局、ガルーナ村には全然行けていないなぁ……。
「……ん?」
私と話している途中で、ポエールさんがふと不思議そうな顔をした。
そして見る見るうちに、嬉しそうな表情へと変わっていく。
「え? ど、どうしたんですか?」
「……いや! 私としたことが、何故か頭から抜け落ちておりました!
いやいや、申し訳ないです。こんな簡単なことだったのに!!」
「え? え?」
「この街の売り――……そもそもそれは、アイナさんの錬金術だったはずじゃないですか!!」
「あー。そうですね、そういえば」
「最近はアイナさんに頼り切らなくても、開発が動き続けているので失念しておりました……。
それこそ輸出用に、錬金術のアイテムを作って頂ければ問題ないですよね!?」
……街のために、何かを作る。
思い返せば、クレントスでも『野菜用の栄養剤』を作っていた時期があったっけ。
大体はそれと同じ感じかな? それなら全然、問題は無いだろう。
「分かりました、それでは私もお手伝いします。
でも素材の用意とか、そういうのはお願いしても良いですか?」
「もちろんです! 輸出用ともなれば、大量に必要でしょう。
冒険者に依頼を出すなり、他の街から仕入れてくるなり――
……その辺りはポエール商会の得意とするところです。お任せください!」
「それじゃ、交易の件はお任せしますね」
「はい、任されました!
……えぇっと、他には何かあったかな……」
解決策が見つかると、ポエールさんは早々に次の問題を探し始めた。
話してすぐに解決するなら、ここはどんどん出して欲しいものだ。
「……一応、これはお耳に入れておく程度なのですが」
「はい?」
「この街の移住希望者から、ちょっとした不満を頂いております」
「えー。みんなで頑張ってるのに!
……まぁ、改善できることなら良いんですけどね。どういうお話ですか?」
「その……リリーちゃんが怖い、って」
「引き続き追い払っておいてください」
「ですよね!」
実際のところ、リリーの気配に圧されて、この街に入ることのできない人間もかなりいる。
気配以外はとっても愛くるしい子だから、それさえ慣れてくれれば問題ないんだけどね。
……だから、移住希望者には強く言いたい。『慣れろ』、と。
そしてこの件に関して、私が何かをするということも無い。
最初から決めていたことなのだから、今さら慌てる必要はないのだ。
「では、水の件と、輸出用の錬金術の件ですね。
水の方は私も考えておきますので、輸出の方はポエールさん主導でお願いします」
「ありがとうございます!
アイナさんに依頼するものは、早々にリストアップしてしまいますね!」
……またポエールさんの仕事を増やしてしまった。
でも懸念のひとつを潰すためなのだから、ここは前向きに捉えておこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
用を済ませてポエール商会の拠点から出ると、エミリアさんとリリーが話をしていた。
あれ? リリーはいつの間に来たのかな……?
「エミリアさん、お待たせしました。
リリーは、どうしたの?」
「お帰りなさい!」
「お帰りなさいなのー。
私はね、今日のお仕事が終わったところなの!」
「そうなんだ? お疲れ様ー」
……ちなみにリリーの仕事というのは、移住希望者に気配を浴びせる試練のことだ。
今日はジェラードも一緒に行ってもらったんだけど、この場所まで来たらエミリアさんがいたから、リリーのお世話をバトンタッチした……とのことだった。
「いろおとこはね、この建物に入っていったの!」
「ん、んん? そうなんだ?」
ジェラードがポエール商会に用事があるだなんて、例の女性職員の件しか思い当たらない。
……何だかんだで長く続いているものだ。
「それじゃアイナさん、これからどうしますか?
もうすぐ暗くなってしまいそうですけど」
「うーん、今日はもう戻りましょうか。
最近ちょっと忙しかったから、リリーとも遊びたいなー」
「あ、良いですね! わたしもご一緒して良いですか?」
「もちろん!」
「わーい、三人で遊ぶのー♪」
――多少の問題はあるものの、ようやくありつけた平穏な日々。
私たちはこれを維持しつつ、もっともっと住みやすい街にしていかないといけない。
でもこういうときこそ、何だか嫌な問題が起こってしまうわけで――