それからアテナは、ヘラが出かけている間、俺のもとを訪れるようになった。
セックスはしていない。しかし時間の問題だ。
彼女の行為は回を増すごとに大胆になり、今や俺を裸にするくらいのことは何のためらいも無くするようになった。
現に今もむき出しのソレに自分の股を、スラックス越しに擦りつけて、赤い顔をしている。
こんなに欲しそうなのに、それ以上のことをしてこないのは、やはり彼女が処女だからなのだろうか。
それとも最後の一線を越えるほどには俺のことを信頼していないのだろうか。
彼女と会話を試みる。
俺のことについては“何も知らない”。
“自分が来た時にはすでにいた”としか言わないので、本当に知らないのかもしれない。
話題を彼女自身のことに移す。
年齢は19歳。30歳くらいに見えたのでこれには驚いた。
幼少の頃からレスリングを続けていて、その腕前は県大会で優勝するレベルであったという。
自身のことについては極めて饒舌に、嬉々として語る彼女だったが、その話題がヘラや少女に移ると一転、目に見えて不機嫌になる。
一度など、睾丸を握りつぶされかねた。
彼女の前で女性の話は厳禁だ。かつ、心を開くまで待つのが安牌だ。
しかし時間がない。少女は自分に、“このままでは殺される”と教えてくれた。
つまりはいつまでかはわからないが、タイムリミットがある。
時間に猶予はない。
―――仕掛けるか……。
俺はアテナを見上げた。
少女は言った。
この扉の向こう側にもう1つ扉があり、そこに鍵がついていると。
そしてそこには防犯装置もついていて、外側からしか解除できず、また、無理に抜け出そうとすれば警報が鳴ると。
つまりはヘラ、アテナ、少女が入ってきている間は、外側の扉は解錠されたままだということだ。
今―――。
アテナの向こう側に視える扉を睨む。
あの向こうの扉は開いている。
「なあ」
俺は目を潤ませ、息を荒げながら、陶酔したように彼女を見つめる。
「“奥様”はあんたが女性だって知らないの?」
聞いてみる。
「知らない。もともと男性限定の求人に、履歴書誤魔化して申し込んだから」
アテナは少しぶっきらぼうに答えた。ヘラの話題を出したからだ。
「こんなに綺麗なのにな……」
言うと彼女は骨が出っ張った頬を桜色に染めた。
「もう、我慢できない……」
言うと彼女は嬉しそうに屈んで、俺のソレに頬を寄せた。
「そうじゃなくて」
腰を下にずらし、先ほどまで擦りつけていた彼女のスラックス越しに自分のモノを押し付ける。
「挿れたい。あんたの中に」
「―――っ!」
アテナは驚いたように小さな目を見開いた。
「そ……それは……」
「セックスしたいって言ってるんだよ」
彼女は俯いた。
俺の股間を見下ろしながら、瞳が震えている。
迷っている。
行きつ戻りつしている思考が手に取るようにわかる。
“やってみたい”
“でも怖い“
「やり方がわからないなら、教えるから」
かけ湯をするようにその決心を仰ぐ。
「痛ければ止めるし、嫌ならやめる」
「……………」
精一杯の口説きに、彼女の胸が上下する。
たくさん酸素を取り込んで脳みそをフル稼働しているのか。
それともこみ上げる興奮を抑え込もうとしているのか。
ここで追い打ちをかける。
「手錠、このままでいいから」
その言葉にアテナの眼がやっとこちらを向く。
―――落ちた。
男物のベルトを外し、男物のスラックスを脱ぐと、
彼女は俺の上に跨った。
「指で自分のそこ、弄れる?」
俺は恥ずかしそうに言われた通りそこを触る彼女を見上げた。
だらりと垂れたワイシャツで陰部は見えないが、確かにぬめった音がする。
スラックス越しに擦りつけただけでこんなに濡れたのか。
はたまた俺のモノを見ながら興奮したのか。
「指、中に入れたことは?」
聞きながら視線を彼女の顔に移動する。
フルフルと乙女のように首を振る。
「じゃあ、人差し指と薬指でヒダを左右に分けて。クリトリスはわかる?」
言うと彼女は恥ずかしそうに小さく頷いた。
「それを中指で擦って」
「―――――!!」
相変わらず見えないが、おそらく従順に俺の指示に従っているのだろう。
跨っている太腿に力が入り、肩がビクンビクンと痙攣を繰り返す。
「……ゆっくり転がすように優しく」
臀部がグググと前にせり出してくる。
まさかこんなことくらいで達しようとしてるのだろうか。
煽ってみる。
「俺の指だと思って……」
「――――!」
彼女の視線が、手錠に繋がれた俺の手に注がれる。
手の動きが早くなる。
それに伴い腰も上下にくねらせている。
「……はぁ……ぁあっ!」
刺激に耐えられないのか、上体が前に倒れてきて、彼女の真っ赤に染まった顔が近づいてきた。
驚いたな……。
俺は舌を巻いた。
処女どころか、完全にビッチだ。
俺の指を見ながら、自分の中指で突起を擦っただけで、今彼女は確実に絶頂を迎えようとしている。
「………まだ」
首を伸ばしてその耳に口を寄せる。
「まだ、イクな」
その声にアテナが身体ごとビクンビクンと反応する。
「指、中に挿れて」
「…………」
躊躇からか、小さな目が瞬きを繰り返す。
「大丈夫。十分に濡れてるから。一本だけ」
言うと決心したのか、ゆっくりと右手を股間に沈めていく。
「入った?」
頷く。
「どんな感じ?」
「ザラザラしてる……」
「そこ、擦って」
「……………」
彼女の手がゆっくり動き出す。
「―――ふ……」
息が漏れる。
もちろんビジュアル的にタイプとは言い難いのだが、女性として生を受けたこの女が、この年齢で初めて膣内の性感帯を刺激し、初めて味わう快感に悶えているかと思うと、
―――興奮しないでもないな。
勃起したそこが苦しくなり、俺は膝を曲げて踵を引き寄せた。
「まだイクなよ。一度イッちゃうと、脱力感から続きをするのがイヤになるから」
もう限界らしく、アテナの潤んだ目がこちらを恨めしそうに見つめる。
「指、増やせるか?中指も一緒に」
言うと、彼女は素直に試みた。
しかし痛むのか、きついのか、なかなか入っていかない。
「自分で弄ったりはしないのか?」
聞いてみる。
「―――リスだけ」
「ん?」
「クリトリスだけなら……」
そうか。
処女で男性経験がない。
膣内を弄ったこともないとなると、そこで快感を得るのは難しいかもしれない。
しかも自分の指では―――。
「―――とびきり気持ちいい場所があるんだ。知ってるか?」
見上げると、アテナは恥ずかしそうに目を逸らし、首を振った。
「Gスポットって聞いたことある?」
「――――」
アテナは再度首を振る。
「女性の性感帯だ。だけどただ触るだけじゃだめだ。触り方にもスピードにもコツがいる」
言うと彼女は戸惑ったように自分の股間を見つめた。
「でも上手に刺激してやると、絶頂を迎えられるどころか、潮をふく女までいるんだ。潮吹きくらい聞いたことあるだろ?」
言うと、彼女は黙って自分の中に入れた人差し指を出し入れした。
そしてチラッ、チラッと、何か言いたげにこちらを見つめてくる。
―――もう一息だ。
「俺なら、ものすごく気持ちよくしてやれる」
「――――」
息を飲む音がこちらまで聞こえる。
「あんたの一番敏感で気持ちいいところを、抉るように、撫でて擦って引っ掻いて……」
「――――」
「……イかせてあげるよ。潮吹くくらい」
「――――」
「だから」
――勝負だ。アテナ。
「この手錠を、外してくれ」
潤んでいた瞳が急に見開かれる。
――あ。
潮が引くように、その瞳から急激に水分が失われていく。
――しまった……!
「―――手錠は、外せない」
“手錠”という言葉を使わない方がよかった。
せめて『手を自由にしてくれ』と言えば―――。
アテナは静かにベッド脇に立ち上がると、衣服の乱れを直し始めた。
「おい……。そういうつもりで言ったんじゃないんだ。俺はあんたを気持ちよくしてあげたくて……」
取り付く島もないとはこういうことを言うのだろう。
彼女の動きには迷いも躊躇もなく、言葉を返すどころか、こちらを振り返ることさえなく、部屋を出て行った。
「………………」
静まり返った部屋で、無理やりズボンの中に収められた自分のモノが、硬度を失っていくのがわかる。
「――くそ……!」
俺は繋がれた手錠を鉄柵に打ち付けた。
せっかくのチャンスだったのに。
もう少しでアテナは落ちたのに。
棒に振ってしまった―――。
俺は自分の浅はかさに失望して、両の瞼を閉じた。
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