◆ 次の日の朝
朝の光が、ふわっと部屋に差し込んでいた。
蘭丸「じゃあ行ってくるね。 すぐ戻るから。さみしくなったらテレビ見てていいからね。」
晴明は、布団の上でちいさく座ったまま、
指を胸の前でぎゅっとにぎりしめた。
言葉は出ない。
ただ、うるんだ目でふたりを見上げるだけ。
道満「……大丈夫だ。少し仕事に行くだけだ。 昼には戻る」
優しく言っているつもりはないのに、
その声はなぜか安心する。
蘭丸が 晴明の頭を軽く撫でる。
蘭丸「いい子で待っててね。 帰ったらまた一緒にご飯食べよ?」
“ガチャン”
扉が閉まって、
家の中がしん……と静かになった。
晴明はぽつんと座り込む。
“……ひとり”
胸がすうっと冷たくなった。
ぎゅっと自分の膝を抱えたまま、
晴明はテレビのリモコンを押した。
ぱち、と画面が光る。
言葉はほとんど分からない。
でも、明るい色と、楽しそうな声は分かる。
テレビの中では、
家族らしい人たちが笑って抱き合っていた。
『だいすきー!』『ぎゅーっ!』
そんな言葉が流れてくる。
何を言っているのか分からないけど――
嬉しそうで、
あったかくて、
胸がきゅうっとなる。
晴明は、自分の胸をちょん、と触った。
“これ……なに? あったかい…”
分からないけど、
テレビの人たちが言っていたあの言葉を
真似してみたくなった。
でも、むずかしい。
言葉は、舌に乗っからない。
晴明「……す……き……?」
か細い声。
でも、胸の奥はふわっと熱くなった。
昼過ぎ、扉の向こうから声がした。
蘭丸「ただいま〜!晴君〜?」
道満「……戻った」
晴明はとてとて歩いていって、
ふたりの前で立ち止まる。
蘭丸「お、ちゃんと起きてたんだ〜!
えらいえら――」
晴明は、きゅっと蘭丸の服を掴んだ。
胸がどきどきして、
言おうとすると息がつまる。
蘭丸「?どうしたの〜」
晴明「……ら……まる……」
蘭丸の目がぱちんと大きくなる。
晴明は、
ゆっくり道満の方を向いた。
晴明「……ど……う……ま……」
道満は驚いたように眉を上げる。
晴明は胸の前で手を握りしめ、
勇気を全部そこに集めて、
ぎゅっと目をつむって言った。
晴明「……だい⋯す……き……」
吐息みたいな声。
言葉になりきらない、
でもたしかに届く音。
蘭丸の顔が一瞬でやわらかくなった。
蘭丸「……はぁぁ~~…… なにそれ……かわいすぎるんだけど〜。……」
そのままぎゅっと抱きしめる。
道満は目をそらしながらぼそっと言う。
道満「……そんな言葉、どこで覚えてきたんだ」
晴明はテレビを指差す。
その動きだけで、
“よく分からないけど、テレビの人が言ってて…”
すべてが伝わった。
蘭丸「テレビの真似かぁ…… でも、それ言われたら嬉しいやつだね。」
道満「……あぁ。悪くない」
晴明は胸の中がじんわり温かくなった。
ふたりの匂い。
ふたりの声。
帰ってきた気配。
“……これ……すき”
言葉はまだまだ少ししかないけれど、
その気持ちだけはちゃんと伝わった。
コメント
5件

可愛いが詰まってる🩷 あおさんの作品好き過ぎて心臓破裂しそうです!


いや晴明可愛すぎん? 2人の驚いた顔が想像つく😂 私が晴明に大好きなんて言われたら発狂するわ😇 もうほんと大好き❤ たくさん素敵な言葉覚えてほしいな☺️次回も楽しみにしてます!頑張ってください‼️