テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第三話「最初の宝石の欠片」
ジャングルの夜は静かで、しかしどこか不穏だった。テントの中、クラスティー・ザ・クラウンは毛布にくるまりながら、虫除けスプレーを顔にこれでもかと吹きかけていた。隣ではサイドショー・メルが慎重に日記をつけている。
「本日、我々は“赤いダイヤモンド”の最初の欠片を見つけた。しかしそれと同時に、この冒険には、我々だけではない“追手”がいる可能性が高まった……」
「メル、真面目なこと言ってるヒマがあったら、スプレー貸してくれよ、これ蚊がすごくて……かゆっ!!」
「いや、それは俺の──」
だがその夜、テントの外では気配が動いていた。影。低く、鈍く、泥を踏みしめる音。そして——
ガサッ!!
「……な、なに!? 今の音聞こえたか、メル!?」
だがもう遅かった。朝になって気づいたとき、最初の赤いダイヤモンドの欠片は消えていたのだった。
「ちょっと待てぇぇええええ!!」
次の朝、ジャングルにクラスティーの叫びが響いた。頭に寝癖を立てたまま、彼は盗まれた空の箱を振り回していた。
「盗まれた!? 誰が!? どうして!? せっかくの視聴率アップチャンスがぁ!!」
「落ち着けクラスティー!」
メルは地面に跡を見つけていた。足跡だ。それも、トレッキングシューズを履いた大人のもの。
「これは……我々のものではない……。新しい足跡……誰かが我々のキャンプを監視していたんだ」
「つまり、俺たちの冒険は、すでに番組としてパクられてるってことか!?」
「……いやそうじゃなくて」
そこでふたりは、古くから知られる名うての冒険家の名を思い出した——
レジナルド・フリントボーン。
イギリス生まれの冒険家で、かつて“呪われたサファイアの墓”を暴き、歴史学会を騒がせた伝説の男。彼は美術館では英雄とされているが、実際はお宝ハンターまがいの詐欺師とも噂されていた。
「まさかあいつ……まだこのジャングルにいるっていうのか……?」
それから数時間後。ふたりはレジナルドの足跡を追い、谷を超え、ツタをくぐり、川を泳いで、ようやくある廃墟の神殿跡にたどりついた。そこには、パラソルの下で紅茶を飲みながら欠片を眺める男の姿があった。
「やあ、クラスティーくん、メルくん。ごきげんよう」
シルクハットにモノクルのその男こそ、レジナルド・フリントボーンだった。
「テメェ! それ俺の宝石だろ!! 返せ!!!」
クラスティーが飛びかかろうとした瞬間、左右から部下のマッチョたちが現れる。
「残念だが、この“レッド・ホープ”の欠片は私が見つけたことになっている。君たちが見つけた? 証拠は? 撮影していたのかい?」
「くっ……録画スタッフ……連れてくるの忘れた……!!」
そこでメルが一歩前に出た。
「レジナルド。我々は君のような“栄光に飢えたハンター”とは違う。この欠片はただの宝石ではない。精霊が現れたんだ……この欠片には、意志がある。君のような目的で使われれば……きっと災いを招く」
「ほう……面白いことを言うね。しかし、それを確かめる価値があるとは思わないか?」
そのとき、欠片が急に赤黒い光を放ち始めた。突然、神殿の床が震え出し、天井から石が落ちてくる。
「な、なんだこの揺れは!?」「ダイヤモンドが怒ってるのか!?」
その一瞬の隙を突き、クラスティーが叫んだ。
「今だメルーッッッ!!!」
ふたりは見事な連携で、クラスティーがクラウンの小道具のバナナ皮でマッチョを転ばせ、メルがジャンプして欠片を奪還!!
「逃げろォォォォ!!!」
崩れ始めた神殿から、ふたりはスライディングで脱出。後ろではレジナルドが怒り狂っていた。
「覚えてろォォ! この恨み、次の欠片で返すからなァァ!!」
夕日が沈むジャングルの森。クラスティーとメルは、疲れ切ってキャンプ地に戻ってきた。
「ふぅ……やっぱ番組作るのって命がけだな……」
「いや、これはもう番組とかいう次元じゃないと思うぞ……」
だが手には、輝きを取り戻した最初の赤いダイヤモンドの欠片があった。ほんのわずかに、赤い光の中に“微笑み”のようなものが浮かんでいたようにも思えた。
それが、次なる旅の予感を告げているとも知らずに——。
つづく