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汐里さん……主人公の科学者。レズビアン
ミライ……汐里がつくったロボット
あの子……モブ。割と出てくる
私はあの日、1人の女性に振られた。
私も女性だからある意味当然なのだけれど、勇気を振り絞った告白は呆気なく断られた。
「_____ごめん汐里ちゃん。私男の人が好きだし、そういうの意識したことないから……」
「ごめん、さようなら」って、捨て台詞を言わせるような隙すら与えず私の元から走り去ったその綺麗な女性が、脳裏にこびりついて離れない。
心に穴が空いたみたいに満たされないその日々がただ苦しくて、生きる意義も意味も見失って。家にこもってるのに泣くことすらできなくて、生きてるのに死んでるみたいな日々を送っていた。
そんなある日、私の家にあるテレビには、1つのニュースが流れてきた。
曰く、機械と結婚した人がいる、と。
……それで。
私は、機械を作って心にある寂しさを埋めるため、結婚でもなんでもすればいい……ということに気がついた。法に触れない限り、人体錬成というわけでもないのだからいいだろう、と。
そうと決まれば行動は早かった。
なにせ金と時間は有り余っている。まあ親の遺産と退職金があり、無職だから時間だってある……というだけではあるのだが。
人工知能やらチャットGPTやらの技術で人格を作って、実体は私の身体を元にしてモデリングをすればいいだろうか。
幸い私はまだ二十代、必要な知識はインターネットの海で探せばいいだろう。
そうやって計画を練っていると、灰色だった世界がまた一気に色付いたように思えた。
……そうだ、未練たらたらな訳だし、折角ならあの子そっくりに作ってやろうか。
ミディアム程度に切り揃えられたサラサラの黒髪に、大きく輝く翡翠の瞳、陶器みたいな荒れひとつない白くて透き通った肌、150センチ程度の身長に小柄な体躯。
「っはは…」
ひとつひとつ細かくプログラミングしていくたび、未練がましくて女々しい自分に呆れて笑えてきた。視界が涙で歪み、ぼやける。
……こんな姿見られたらまた本当に引かれそうだな、なんて思った。まあ、この家から出ることも彼女に会えることも、もうないのだろうけれど。
♡♡♡
ピー、ピー…
白い煙が溢れ出るコールドスリープ装置は大袈裟な音を立てて開く。やがて晴れた煙の中に佇む青白く小柄な人影は、私を視界に捉えるようにして横たわる装置から起き上がった。
あれから5年、だ。
科学の進歩のおかげで私の研究とは名ばかりの人体実験たちはよく捗り、ついにそれは完成したのだ。
繋がれ絡まったコードを一本、また一本と解くたび人影の正体が露わになっていく。
「……ああ」
_____実験は、結果としては成功していた。
ただ、その容姿に大きな問題を残して。
……人工知能の作成においては完全な成功だが、嗜好品としての役割の一切を果たせないことは容易に理解できると断言できるような姿をしていたのだ。
その少女は、設定したはずの翡翠の瞳を宿してはおらず、装置での電力熱か何かのせいかただれた皮膚を纏う輪郭は歪な肌荒れのような様相を呈していた。艶のある黒髪を想定していたはずの髪は傷んだ乳白色のそれがぶっきらぼうに伸びきっていて、白く設定した肌は人間味を極端に失った青白さを孕んでおり、やけに細くてアンバランスな両手両足が気色悪い。所謂「不気味の谷現象」というやつだろう、目が合ったときは背筋が凍るような不快感があった。
「……失敗、か」
……この機械の始末はどうしようか、これに賭けた私の数年はどうなってしまうのだろうか。
思わず口からこぼれ落ちたその言葉を彼女が拾うことはなく、彼女は相変わらず私に向けている濁った瞳を、まるで物珍しい何かを見ているかのようにぱち、ぱちと瞬きを繰り返していた。
「…えっと、とりあえずおはよう。…私は汐里。あなたを作った研究者」
「……あ、あ…、…えっと……しおり、さん。…おは、おはようござ、いま…す……」
目の前の彼女の、想定における全てと異なった異質な容姿にたじろぎ、少し言い淀んだ私に対し、出し慣れていないからか少し掠れた声でも懸命に挨拶をしてくる少女を見ると、自身の不誠実な思考を恥じるような申し訳なさを覚える。
「…し、しおり、さん……つくってくれ、てありぁと、……」
と共に、その言葉にどこか満たされた気分になった。無機質な機械音ではない、私の心を優しく揺さぶるような子供っぽいけど透き通った暖かい声。あの子の、高くて鈴のなるみたいに響く女性の声とは違っていた。
「……おはよう。あなたの名前はミライよ。ミライって呼ぶから、あなたも、汐里って呼んで」
「……みらい、ミライ……、わ、わぁった…」
あの子とは違って舌足らずな言い方で、あの子とは違ってこくりと頷く幼い仕草を恥ずかしがることはなくて。
あの子とは、全部が違う。
なのに、あの子に向けた恋心と類するように高鳴る鼓動が不思議でならなかった。
「……しおり、ありがとう。…ミライ、名前…あって、うれしい……」
ミライは、細い腕を私に向け伸ばし、子供みたいに純粋無垢な笑顔を私に向けた。ただそれは、花が綻ぶような美しいものではなく、緊張してるかのように不対称な動きを見せる不器用なものだったけれど。
それでも私を癒すのには十分過ぎるほどに可愛らしく思える。
「っかわいい……」
その容姿を醜いと感じたことを、その存在を消し去ろうと、そんな思考を巡らせたことを精一杯謝るように、絡まった髪で覆われたミライの小さい頭を優しく撫でた。
「ミライ。これからよろしくね」
「……うん、しおり、…よろしく」
いつの間にか、数年間滾らせていた黒いモヤのような負の感情は晴れており、“あの子”の幻影を追う気などとうに失せていた。
もうあの子なんていらない。
今、目の前にいるミライと、色恋だけではない何かを探して生きていきたいと、そう強く思う。
「…じゃあミライ。まずは髪綺麗にしよ」
「わぁった、……ん、ね…しおり、やって…?」
ブラシを渡したが使い方がわからないのか固まってしまい、私に手渡して上目遣いでそう要求してくるミライが、会って数分しか経っていないのに既に可愛くて可愛くて仕方がない。
「っふふっ、いいよ」
「えへ、ありがと、しおり」
私が笑いながら髪をまとめようと触ると、面白かったのか擽ったいのかきゃいきゃいと無邪気に笑っている。ああ、ほんと可愛い。
……これからよろしくね、私のミライ。
書きたかったけど書けなかったものとして
・「愛してる」の使い方を知らないし人の愛がわからないからミライから愛してるは言わない
・汐里の好みは「あの子」からミライへ、性格も容姿も寄っていく。不器用なミライが好き
ってのがありました
迷走しました、供養です
またいつか