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…
黒い、
虫。
小指の二分の一スケールみたいな虫がいた。
ここは玄関である。家の中なのである。
お、追い出さねば。ティッシュでつまんで外に放り投げるのが良いかもしれない。
ドギマギしながらティッシュ越しに虫をつまむ。
が、取り逃した。
そして、虫はポップコーンが弾けるかの如く跳ねた。
その驚きの感情が、びくりと私の全身ごと心臓を跳ねさせた。
虫にしてみれば、突然天地がひっくり返るという大事故。
胴体らしき黒く細長い部位からみっちり生えた線のような脚がそれぞれバラバラに動いている。
などと観察して油断していたらまた跳ねた。
「ひょッ!」
私は情けなく、かつ中途半端な声量と勢いで、悲鳴を上げた。
もしや貴様、飛ぶタイプの虫だったりするか。
私は身構えたが、もう一度跳ねると無事に着地して地面を這うように進んでいる。
よく見ると玄関が汚い。掃除しなければならないと考えていると、閃いた。
ティッシュなどより箒を使う方が断然良いではないか。 むしろ普通は箒が先に思い浮かぶものかもしれない。
いや、それよりまずこの虫をどうにかせねばなるまい。
意を決して箒で虫を掃く。虫は小さくて平べったかったので少し手間取ったが、無事に移動させることができた。
次のストローク、虫は跳ねた。なぜか掃いた方向とは真逆に行ったが、自分がいる方向ではなかったのでなんとか平常心を保つ。心臓はバクバクだ。
心の中でソイヤッと掛け声を掛けながら箒をフルスイング(?)した。
虫はひとまず室内からは出た。
心の中で喝采を上げながら安堵と精神的疲労のため息をつき、箒を片付けた。
精神のゲージがなかなかにゴリゴリと削られつつも、大学へ出掛けるのだ。
歌を口ずさみながら駅まで着いた。
飲み物を家に忘れたことを思い出した。
家に戻る時間や手間を考えると、もはや諦めてペットボトル飲料を買うしかなかった。