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今や北斗は鬼龍院の対立候補者として、こうして周防町界隈を白いワゴン車に乗り、遊説で一日中走り回っていた
胸のポケットにはアリスの考えた政策スピーチ虎の巻が、何枚も入っている
何度もアリスの虎の巻で助かっている、アリスが考えるスピーチは時には情に訴え、時には力強くこの町の未来構想を語るものだった、なので北斗は色んな場所でシチュエーションを、変えてそのスピーチを披露した、今の所言葉はつまらず失敗はしていない
広大な牧場のオーナーと言うことだけあって、もちろん政策は環境問題に特化したものと、貞子の提案で実は最近増えてきている。シングルマザーの生活保護法の改正と、片親で育つ子供の地域支援についての政策案だった
助手席で叫んでいるアルバイトの、うぐいす嬢の声と共に通りにいる群集に手を振り、時々自分がはめている白い手袋に目がチカチカする
自分がこんなことをしているのが、北斗は今だ信じられなかった
吃音症で幼い頃対人恐怖症だった自分が、今は人前でなんの因果かこの町の、未来に対して必死で叫んでいる
本日の最後のスケジュール駅前の街宣区域の、バスロータリーに運転手をかってくれている、地元消防団の和也が白いワゴン車を停車しようと入って行った
先に成宮選挙事務所の学生ボランティアチームと、直哉があらかじめ北斗が街宣する場所に、旗を立ててくれてたり、チラシを配って人を集めていてくれるのだ、みんな青いポロシャツを着ている
北斗が白いワゴン車から降り立つと、数メートル先でうちの青いポロシャツ軍と、赤いTシャツを着た群集がなにやら揉めている
そしてよく見ると本来なら北斗達が立てているはずの、旗の位置に鬼龍院の旗が立っていた
北斗は嫌な予感がしたが、みんなの所へ走って行った
どうやら街宣場所をめぐって鬼龍院陣営と、北斗の学生ボランティアチームが、揉めているようだ
すると鬼龍院忠彦が自分の取り巻きを連れて、こちらにやってくるのが見えた、瞬時に北斗は目を細め警戒した
相変わらず上から下までクリーム色のブランド物のスーツを着こなした嫌味な野郎だ
鬼龍院は大袈裟に両手を広げてみせた
「これはこれは・・・成宮君、ああ・・そうそう今は成宮候補でしたね、お元気そうで会えて嬉しいですよ」
お前こそ梅毒の調子はどうだ?と北斗は言いかけたが、チラリと後ろを見ると、仔猫が固まるように不安そうに、固まってこちらを見ている学生ボランティアの、子達が視界に入ったので発言は控えた
北斗のすぐそばで学生ボランティアの子達を、ワゴンに乗るようになだめている正勝と、今までチラシを巻いていた直哉が、そのすぐ後ろで事の成り行きをじっと見守っている
ここは穏便に済ませたいところだ、でも次の鬼龍院の言葉でそうも行かなくなった
「アリスさんは相変わらず血迷っているのですか?かつての婚約者がアバズレになって行くのを、見るのは私としましても、とても悲しいのですがね 」
「鬼龍院さん?アリスって誰ですか?」
鬼龍院陣営のチラシを持った、狐顔の小柄な男が意地悪そうに聞いた、鬼龍院はさも知らないなら教えてあげようとばかりに、尊大な態度で付け加えた
「伊藤アリスは私の元婚約者でしてね。今は彼の奥さんになり下がってますね、でも今では成宮君に感謝してるんですよ
とんでもないアバズレでしたから、結婚前なのに一生懸命、私に股を開こうとしてましてね、彼女の性欲を抑えるのに苦労しましたよ」
鬼龍院が両手でスーツの襟を摘まんで言う
「ほら・・・私って紳士でしょう?結婚するまで肉体関係は結びたくないと、必死に彼女を説得したもんですよ 」
悦に入った薄ら笑いを浮かべてしゃべり続ける、鬼龍院の取り巻きがグフフフと、いやらしく笑っている
「もっとも我慢できない彼女は、適当にそこらにいた成宮君に早々と股を開いたわけですがね~、まさか彼女と結婚までしてしまうなんて、よっぽど彼女の財産に目がくらんだのでしょうね。なにせ彼女の実家は資産家ですが、でもまたすぐに他の男に股を開くのは時間の問題ですよ」
カッと怒りがこみ上げ、北斗の視界が真っ赤になった
次の瞬間、北斗は鬼龍院の高価なダブルのスーツの襟元を両手で掴んで、すぐそばの自動販売機に勢いよく叩きつけた