テラーノベル
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「仁人さーーーーーん。俺が悪うござんしたのでそろそろ帰りませんかーーーー。俺膝痛いんですけどーーー」
「無理…………」
不満げに声をかけると弱々しい声が膝から返ってきた。
横たわって頭を膝に乗せていると段々と足にビリビリと痺れてくる。
…あーあー俺の上着に2つシミつけやがって。
こんなにメソメソしてるのも珍しいけど。
「どうしたのマジでお前…あんまりダメージ受けてなかったじゃん…」
「別に………」
もう話す気もないらしい。
ため息をついて額と思しきところに手を乗せる。
「……ごめんて、仁人。まさかそんなに傷つくとは思ってなかったんだって」
「……別に勇斗だけじゃないよ」
ようやっと掠れた声が聞こえた。
「あの時殺すとは思ったけど…」
「こっっっっっっわ…」
「俺の問題……」
消え入るような声が膝から聞こえる。
聞き返さなくて正解だった気がする。
額から手をずらして赤子のごとく首の下の、鎖骨よりも下を軽やかに、ゆったり叩きながら、
あやすような声色で問いかけた。
「何があったかイチから話してみな仁ちゃん」
「小指打った………クソ痛い…」
「ヤバおもろ、超痛いねそれ。痛いっ!腹つねんな!」
「勇斗の挨拶俺だけ短えし……」
「ごめんて。朝イチで見る仁人に耐性なかったの」
「の割に顔見て話せないという今時の若者みたいなことするし…」
「主語でか。だから今日のコーデを召した可愛い仁人が直視できなかっただけだって。この前買い物した時に俺が見繕った新しい服でしょそれ」
「そうだよ…適当な言い訳ばっかすんなお前、そういうとこきもい…」
「マジで思ってることだかんね言っとくけど」
「俺にやたらあたり強いし…」
「あー…」
思わず閉口する。
ちょうど柔太朗とその話をしてたばっかりだったし。
まあでも、嘘はよくない。
仁人は俺がどんなに愛しているかまだわかってもらえないみたいだけど、だからこそ誠実でありたい。
「…それのことなんだけどさ」
「まあ確かにそうだよな、うん…太智みたいに勇斗を爆笑させられないし舜太みたいな可愛げもねえし柔太朗みたいなわっかりやすい優しさもねえし…」
…あー、なるほどな。
頭を抱えた。
こいつ何も分かってなかった。
…というか意外とこいつキテるな。
何言われてもいつも通りヘラヘラしたり、時折爆笑する太智蹴り上げようとしたり、サイコパス舜太をはたいたり、平気そうに見えたから。
そう思い返して手を止めた。
…本当に?
引き留めようとするきっかけになった、スタジオから出ていく仁人の背中が脳裏を過ぎる。
挨拶もほどほどに早足で廊下を急ぐ仁人は、何かから逃げるようだったように思えた。
『…なんか途中から空気重かったなあ』
舜太が空気を明るくするように突然笑いながら口を開いた。
『佐野さん一旦謝っといたらええんちゃう?』
太智が冗談めかして言いながら廊下を指差した。
『俺言ったやん、もしかしたら家帰ってお風呂とかで泣いてたり…』
やっぱりやりすぎた?としょげながら柔太朗を見やると、軽く微笑んでいるだけだった。
「ねえ仁人」
「何…」
「俺仁人としか添い遂げたくないよ」
それ言った瞬間に膝が涼しくなった。
ゴロゴロゴロゴロと漫画のように転げ落ちた仁人に思わず笑いを堪えきれなかった。
「大丈夫?」
思わず笑いながら手を伸ばす。
「何言ってんの何言ってんの何言ってんの何言ってんの何言ってんの」
膝にいたはずの仁人は顔面を覆っていた上着を毟り取って、ありえないようなものを見るような目で首を高速で小刻みに振りながら床に座り込んでいた。
心なしか目の縁は紅く染まっていた。
ほら、その顔見て言っちゃダメな感情が湧き上がるの俺ぐらいだよ。
痺れた足によろめきながら座り込んでいる仁人の前まで歩き、しゃがんで上着を摘んだ。
その瞳はまだ動揺で瞳が揺れている。
「ねえ仁人。俺はこんなに好きなのに、まだ信用できない?」
「…今の勇斗に関しては信用度0」
「じゃあこうしよ」
上着の左右の襟元を頭からばさり、と被せてぐいっと引き寄せてみる。
仁人が体勢を崩して、息を飲んで咄嗟に俺の腕に捕まった。
民族衣装の女の子がバンダナ被っているみたいで可愛いなとか思った私欲を滅した。
「俺は何したら信じてくれるの?教えて」
試すようにそう聞いてみた。
…もう聞いた方が、このメンヘラグロッキー仁人のお願いは叶えてあげられると思って。
「…」
仁人が目を伏せて極小の声で呟くのを、耳を澄まして聞き取る。
それを頭の中で明確化して…口角を上げた。
聞いた方が良い。
なぜなら…。
「そうそう。そうやって言って?前も言ったけど俺は仁人が1番大好きで大切で。一生一緒にいたいから」
だから、と続けた。
「明日午後っしょ?それまでたっくさん甘やかしてあげる。俺からのお詫びね。それでいい?」
話を聞けば聞くほど仁人は目をむいてくる。
そこまで言ってない、とばかりに。
それでも俺が話終わる頃には厚い唇を一文字に結んで、わずかに頷いた。
それを確認すると上着ごと引き寄せて、赤ずきんのような仁人と唇を合わせた。
翌日、LINEで2つのアカウントから1つずつ、カフェのギフトカードが送られ、ほくそ笑んでいた柔太朗がいたという。
コメント
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さかなさん😭 リクエスト書いて頂きありがとうございました🩷💛吉田さんへの言い訳ご機嫌取りしてもらって私の感情もスッキリしました✨この作品含めて何度も読み返していきたいと思います、これからも素敵なさのじんよろしくお願い致します(笑)
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