「ドットくんがフォークで、ランスくんがケーキ?!」
あの三人には話しておいた方が良いだろうということになり、いつものように部屋に集まりことの詳細を話した。もちろん、とても驚いてはいたが、大変だね……とか、何かあったら言ってね、などと優しい言葉をかけてくれて、話して良かったとドットはほっとした。
「じゃあ、ドットくんの好きな紅茶ももう飲めないの……?」
「飲めないっていうか、飲んでも平気だけど味がしねぇんだよな。何飲んでも水って感じで。」
「魔法でどうにかならないんですかね……」
「ほんと、勘弁してほしいわー」
味が何もしないのは辛いだろうし、これが一週間程度で終わる話ではなく、ずっと続くとなると心配だろうに、ドットはいつもと変わらず飄々としていた。その様子を見たマッシュは心配そうな顔で
「ドットくん無理しないでね」
ドットはその頼りがいのある言葉に安心した。
それからしばらくして、じゃあまた明日、と挨拶を交わし各々自分の部屋へと戻って行った。
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ドットとランスがフォークとケーキになってから二週間ほどたったある日のこと。
朝、ドットはランスと一緒に教室に向かうため廊下を歩いていた。すると、いつもとは違い、そこかしこからコソコソと話し声が聞こえた。その時はあまり気にせず、二人で喋っていた。
より違和感を感じたのは教室に入ってからだった。入った途端、多くの生徒がこちらを振り向き、目を逸らしながらまたもやコソコソと話していた。よく耳をすますと、聞こえてきたのはドットとランスのフォーク、ケーキの話だった。ドットはフォークで、しかも自戒人らしい、ランスくん食べられちゃうかも……と、いう風に噂は悪い方へと進んでいった。
あの三人は勝手に言うような奴らではないし、だとしたら教師達には広まっているはずだから先生の誰かだろうと、ドットは頬杖をつきながら考えた。
ランスはというと、勝手な噂にかなりイライラしているようで眉間に皺が寄っていた。今にも誰かを殺めそうな勢いの悪い目つきでドットすら少し恐怖を覚えた。
教室内で気まづい空気が流れている。この静寂を打ち破ったのは二、三人の女の子たちだった。女の子はランスの険悪な顔を見て怖がっていたが、一人の女の子がやっとの思いで話しかけてきた。
「ラ、ランスくん、その子といると危ないんでしょ。こっちおいでよ……」
女の子はこの気まづい中、とても緊張していたのだろう、冷や汗をかいていた。
ドットは、ついに危ないヤツのレッテルを貼られたか〜、と苦笑いしかできなかった。そう言われたランスはその怖い表情一つ変えず
「……貴様らのところなんて行くわけないだろう。だいたい、ケーキやらフォークやらよく知らないくせに、よくそんな不愉快なことが言えるな。 」
と、堂々と言い放った。女の子相手にちょっと言い過ぎでは……と若干引き気味のドットを差し置いてランスはまだ言葉を続けようとしていた。
「今後、ドットを悪く言ったら自分の体が潰れることを忘れるなよ。」
ランスは女の子や周りで良くない噂をしていた生徒を思いっきり睨みながらそう言った。その顔の極悪さといったらどちらが悪い方か分からないぐらいだった。
女の子はきっとランスのことが好きでああ言ったのだろう。顔が真っ青で、自分の言ったことを後悔しており、今にも泣きそうな顔をしていた。
ちょっと女の子が可哀想だなと思っていたドットだったが、自分のためにそこまで言ってくれるランスに、嬉しく、少し恥ずかしく思い顔が熱くなっていくのを感じた。
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