とある雨の朝。僕はいつもより重くなった頭を必死に起こしながら見廻りへと出掛ける。
カゴを持つ手が痺れ、眩暈がする。
幾度となく頭が通達してくる悲鳴に体が共鳴するも、僕が足を止めることは無い。寧ろ沸々と底から湧き上がる苛立ちに、更に頭を蝕んだ。
何故自分がこんなことをしなければならないのか。
原因はすぐに理解出来た。けれど、それを抹消しようとなるとかなりの労働力と時間がかかると理解してたので、昔から手出しはしなかった。
2枚の鉄扉から何分か歩いた場所に目立つ色が視界に映る。木の根元にもたれ掛かる小さなそれは静かに、押し殺すように浅く息をしていた。目を閉じている様子から彼らは眠っているのだろう。
ぬかるむ足を持ち上げ、小さなそれに近寄る。
「…ニンゲン?」
そもそも、眠っているか以前に生きているかどうかすらも分からなかった。汚れた全身に見窄らしく雑巾のような服。力なく垂れ下がった頭を覗き込むまではニンゲンだと判断するのも難しかった。
小さなそれに手を伸ばそうとすれば嗅覚に鋭く刺さる歪な匂い。鼻が曲がりそうになる刺激臭に一瞬頬の筋肉が痙攣するも、それに触れる。
冷たい。
誰かを攫う趣味も、ましてや誰かを匿う趣味も持ち合わせていない。けれど目の前の彼らはとてもじゃないが見過ごせる気配がしなかった。
「…仕方ない、か」
背負っていたカゴを土の上に置き、ゆっくりと小さなそれを入れていく。何人か腕や膝に大きな切り傷を負っているせいか鉄の匂いが充満するも我慢する。
またカゴを作らないとなぁ…
入り切らなかった1人を腕に抱え、再び鉄扉へと足を運ぶ。それと同時に、鉄臭い液だまりが一瞬で土に染み込んでいく。
怪我の治療中、4人のうち1人が目を覚ます。大きく見開げた瞳には珍しく、とても綺麗な色を持っていた。
「君ら、俺の森で寝ちゃってたんだよ〜?」
まだ眠っている1人にガーゼを貼り付ける。少し押すことで事前に刺した消毒が染み込むのか、大きく顔を歪める紫色の少年。
少し気分が良くなり口端が上がる。
「怪我だけ手当てしたら早く出てってね」
治療を終えた紫色の彼を後に、横に寝かせていた赤色の少年へと手を伸ばす。
チラリと視線を移せば意気消沈したように、端のベッドでは目に光を無くした黄色が座っていた。
先程まで警戒心を丸出しにしていたせいもあってか、彼の腕からは多量の出血が見られる。
傷が開いたのか。
「怪我、見せて」
彼らを助けたのは、まだ未来のある子供が自分の森で命尽きるのを見過ごせなかったからだ。それに、彼らは「望んで」この森に足を運んで来たようにも見えた。
「…はい。まだ動かないでね」
切り傷に消毒をし、大きい絆創膏で塞いでやれば吊り目を大きくまん丸にする彼。
何に驚いているのかは分からなかったが、早々にこの森を立ち去って欲しかったので、僕は他の者たちの治療を続けた。
多分、後ろから啜り泣く声が聞こえたのは気のせいだろうね。
コメント
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1話と2話だけでもう30回は禿げました👴栄養補給品ありがとうございます👴🙇♀️
何故こんなにも素敵な物語が思い付くのか分からない…… この人は天才か何かか…? いつもお疲れ様です!続きが楽しみです!頑張ってください!