テラーノベル
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今日もひと仕事を終え、時刻は20時をまわっていた。
帰ったら風呂はいって、ご飯食べて、いや、ビールとつまむくらいでいいか…
なんて家に帰ってからのことを考えていた。
『~~~♪』
どこからか、聞こえてくる、素敵な歌声。
無駄な雑音のない声?のような歌声だった。
しっかりと最後まで聴かせてもらった。
タダで聴くのはおかしいと思い、小さな箱の中に1000円の紙切れを入れた。
「お兄さん、めちゃくちゃ歌上手いですね!!」
『…え!?…えぇ?そうですかね、ありがとうございます』
なんて少し驚いた後に照れくさそうに笑いながら言う。
今日は特に冷えていた1日だった。
あのお兄さん、風邪引かないといいなと思いながら家に足を急がせた。
次の日の朝、カーテンからかすかに漏れる朝日の光で目が覚める。
時間を見ると遅刻ギリギリだった。
食べながら会社向かおう。
昨日の家に帰るスピードくらい早く歩きながら会社へ一目散に向かう。
気分は主人公。パーフェクトウーマンだ。
現実はそう上手くはいかないけど。
そんな調子のいいことを考えていると見覚えのある人にすれ違った。
あまりにも早く歩きすぎて顔ははっきりと見えなかった。
気のせいだろうと思いながら会社の中へ入った。
今日はなんとか定時に帰れそう。
そういえば、今日もいるのかな。会いたいな。会って名前だけでも聞きたいな。
昨日と同じ道で帰る。
確かこの方向だったよな、と自信を無くしながらもなんとか昨日と同じ場所に着いた。
居ないか。
『あれ、もしかして…昨日の…?』
後ろから聞こえる聞き覚えのある声。振り返ると昨日のお兄さんがいた。
「会えた、会えた!」
あと5年で三十路の大人が、手を上に上げながらジャンプして喜んだ。
はたから見たら痛すぎるよな〜。
「あの、今日も歌いますか?なんて曲なんですか!お兄さんが曲作ってるんですか!?」
食い気味に聞いてくる私にぽかんと少しだけ口を開けて戸惑っているお兄さん。
「うわ、やっちゃった、すみません…」
恥ずかしい、逃げ出したい…!!!
そう思い、では私はこれで、と家に帰ろうとするとお兄さんに腕を掴まれた。
『今日も歌います、追うって曲名です、僕が、自分で作詞作曲してます。』
最後に悪いことが全て吹き飛ぶくらいの笑顔で、私の質問全てに答えてくれた。
「最後まで横で聞いててもいいですか…?」
『沢山聴いてください、嬉しいです。』
それから私は毎日帰りはここを通るようになった。
毎日お兄さんの歌声を聴いてから帰る、それが日常になっていた。
1ヶ月ほどたっただろうか?毎日通っていれば仲も良くなっていく。
今日の歌が終了したところで話をもちかけた。
「あの、こんど一緒にご飯行きませんか…!」
『いいですね!?行きましょ!』
その流れでLINEを交換することに。何故か緊張している自分がどこかにいて。
心臓の音がうるさい。
LINEの名前、“かいと”だ。
どこかで聞いたことあるような気がした。でも気のせいだろうと思い、自分の中でおさめた。
とりあえず家に帰ってからいっぱい連絡しちゃおうかな?
なんて思春期の恋する女子みたいに胸を高鳴らせながら早歩きで家に向かう。
家に着き、誰もいない部屋に向かって「ただいまぁああああ!!!」と叫ぶ。
『おかえり』
え?今おかえりって…
ドアの奥から出てきたのは喧嘩別れした元彼だった。
もう2年も前に別れて清々してたのに今更何の用だ。
『ねぇ、俺とやり直さね?』
「帰ってください。」
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CHAKA-712
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『おいおい、2年で随分変わったな〜。可愛くなってんじゃん。』
と言いながら頭を触られた。
普通にもうコイツは私と無関係の他人なのでスマホに110の画面を見せた。
彼はだから?というような風格で立っている。
「もう帰ってください。」
『俺とやり直してくれるならいいよ』
正気なのか。第一、喧嘩の原因はお前の浮気が酷かったから、なわけで何故また我慢しなきゃいけないんだ
「あの、不法侵入されてて。住所は××区ー….」
「よろしくお願いします。」
本当に警察に電話したのが驚いたのか、ぽかんとしたアホ面でこっちを見ている。
じゃあ最後にヤらせて、と頭が完全に沸いている発言が飛び出た。
私はもちろん断る。1度話をしようと思い、「なんでうちに来たの?」と自分のためにも落ち着かせる。
『そんなの今どうでもいいだろ!!!』なんて言うと、
ーパチンっ!
私の視界は今床で埋まっていて、一瞬何かが弾けた音がした。
それは元彼が私の頬を叩いた音だった。
あぁ、コイツは手もあげるようなやつだったのか、と呑気なことを考えた。
『お前は黙って俺の言うことを聞け。わかったか。俺ともう1回愛を育てようね。』
狂気的な笑顔を向けられるので、自動的に冷や汗が出て全身の震えさえも止まらなかった。
怖いんだ。私、いま怯えてるんだ。
『大丈夫ですか…!!!』
はぁはぁ、と息を切らして来た“かいと”さんと、後ろには警察官。
『お前、ほんとに警察呼んでんじゃねえよ、最後にヤらせろ!!俺の女になれ!!』
ーーここから記憶はほぼない。
怖さでなのか、もう会わなくて済む安心なのか、助けが来た安心なのかはわからない。
目が覚めるとベッドに入って寝ていた。
あれ、昨日ベッド行ったんだっけ。
時間を確認するためにスマホを開くと、かいとさんから連絡が来ていた。
〈 身体の調子、大丈夫ですか? 〉
〈 今日はお仕事休みですか?〉
すごく心配してくれてる。そんな昨日やばかったのかな。
〈 身体はピンピンです!笑 今日も仕事行きます!帰りによりますね^_^ 〉
1件だけ連絡を入れて、重い体を力いっぱい起こして会社へ向かう。
道中に見慣れたダウンを羽織った人が居る。
『__さんっ。おはようございます。』
かいとさんだ。朝から顔見るとなんか安心するなぁ。
「なんか予定あるんですか?」
『はい、__さんに逢いたくて。』
思わず、え?、と言ってしまったけれど…
『まじで大変だったじゃないですか、__さんが気になって気になって。』
『でも家に行くのは迷惑だと思って。』
昨日のこと、本当に心配してくれてるんだ。他人事過ぎるのに。
「家、行きましょ。来てください。」
『え、ぇ、かいしゃ、会社は』
「今日は病み上がりすぎるので休みます」
って、え!?!?
会社にも電話したし、かいとさんと一緒に私の家にいるけど!?
なにこれ!!どういうこと!!!
男の人と2人きりになるのはすごく久々で少しドキドキする。
「私、起きたらベッドだったんですけど寝ながら移動したんですかね?」
なんて訳の分からないボケを言うと、
『俺がベッドまで運ばせて、ん? 運ばさせ…え? 運ば…させて、もらいました。』
と言い、ドヤ顔をしているけど、その前にめちゃくちゃ噛んでて内容がほぼ入ってこなかった。
「かいとくんが運んでくれたってこと…?」
『ん!!そういうことです、そういうことです!!』
とコンビニで買ってきたお菓子を頬張りながら言う。わんぱくだなぁ。
『てか、いま…えっ!!!!』
いきなり立って驚いた表情を見せる。何か大事な予定でもあったのだろうか。
「大事な予定でもありましたか?」
ごめんなさいと言う私の言葉を遮るように否定してきたので少しびっくりしてしまった。
…あ!!!!
数秒の間に何があったのか考えてみた結果、さっきタメ口を使っていたことに気付いた。
「うわ、ごめんなさい!勝手にタメ口使っちゃって…!!」
『違います!!!タメ口なんていくらでも使ってください!!』
『今….いま、“かいとくん”って…!!』
それの何がおかしいんだ?もしかしてジェンダーだったか…?
頭がパンクするくらいフル回転させて考えてみた。
『いつも“さん”なのに…なーって…思って。』
確かに、言われてみればそうだった。
勝手に距離縮めたみたいで強引だったかな。
「いやですかね…?」
『いやじゃないです。むしろ嬉しいです。』
ピンポーン
部屋の中に響くインターホンの音。
朝のこの時間に誰だろうと思いながらインターホンの方へ向かう。
あいにく、うちはカメラが付いていないタイプだから出るまで誰なのか運ゲーである。
はーい、と言うと
「かいとくーん? 居るんだよね?出てきてー?」
「ちょっとまっててください!」
「かいとさん、なんか女性の方が来たんですけど」
『あー…俺帰りますね』
ってにこっとしたけれど、どうしたんだろう。
ドアを開けると女性の方がかいとさんの腕を組んだ。
「ねえ、このひとだれぇ?」
なんて言いながら帰って行ったけど。
え?私はこれで終わり?まだ来て10分も経ってない気がするんだけど。
なんかついてないな。ていうか彼女いたのかよ。
なんて僻んでいるとスマホにメッセージが入る。
〈 さっきはごめんなさい。もうあなたとは会えないです。連絡先も消します。ありがとうございました。〉
人が変わったようなメッセージだった。句読点しかない質素すぎるメッセージに少し困惑しながらも、返信する内容を考えた。
〈 今日の夜、最後に電話だけでもさせてもらえないですか?寂しいです。〉
少しでもいいから自分の気持ちに気づいて欲しくて最後に余計な一言を入れてしまった。
既読、つかない。
そうだ、いつもの場所に行こう。20時に。
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